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好みの女とか!!

「お邪魔しまーす」

部室の扉をがらりと開けて、男子バレー部の部室へずかずかと入る。
何事かと、着替え中のみんながこちらをみるけれど、気にせずゴミ袋や掃除道具をそこへ広げた。

「何事?」

「どうしたんだ?」

練習着へ着替え終わった白布と大平先輩。
五色は慌ててその上裸を隠した。

「バレー部の部室が臭いって苦情が 出 ま し た !
みんなどんな使い方してるんですか」

見回せば、ごちゃりと広がる物。
ゴミ、誰のかわからない靴下、タオル…そのたもろもろが明らかに腐敗臭漂わせてる。

「大平先輩もいらっしゃるのに、この醜態はどういうことですか!?」

「…えっと、みょうじちゃんごめんね?」

「そんな可愛く謝っても許しません!可愛いです大平先輩!でも許せない!!」

「お前うざい。掃除しとけよ」

優しい大平先輩とは別に、白布は私の頭を叩いて部室を出た。
腹立つ。痛い。白布嫌い!
あいつのロッカーにゴミ詰めといてやる!

「悪いね、みょうじ。他に頼めないから」

「お願いしゃす!!!」

「し、しかたないなぁ…私いなくても部活頑張ってくださいね!」

よろしくね、と笑って肩を叩いてくれる大平先輩と、丁寧に頭を下げる五色に免じて、頑張ってやろう。



そうして、気が付けば陽も落ちていた。
だいぶきれいになった部室も異臭を放つことなく、さわやかな風が通り抜けた。
なのにその通り抜けた先に山積みの雑誌。
週刊少年誌、ファッション誌。
まぁそこまでは許そう…たとえ山積みでも。
でも、その間に挟まるように置かれていた数々の、エロ本!!


犯人はただ一人!


「お疲れ〜なまえちゃ〜ん!かったづいた〜?」

「犯人はお前だ」

「え?登場そうそう犯人扱いで、お前呼びとか、なまえちゃん攻めるネェ。
そんなに俺とお近づきになりたイ?」

「結構ですエロ本先輩」

近寄ってきた顔を手に取ったエロ本一冊で押し返す。

「あ!これ俺が探してたヤツじゃーん!なまえちゃん探してくれたの!?ありがとーん」

ハートが狂喜乱舞するのは私に向けてではなく、そのエロ本に向けて。
片付けた山の前に座り込んでそのエロ本を広げだす先輩を少年誌の角で殴ってやろうかと思ったところで、他の先輩が戻ってきた。


「みょうじ、とりあえず警察呼べばいいか?」

「山形先輩!違うんです!冤罪です!!」

あらぬ誤解を受けされせられているのにも関わらず、天童先輩は気にすることなくエロ本を広げた。

「ねぇねぇ!若利くんのお気に入りってこの子でしょ?!」

「ああ、そうだ。」

「わ か せ ん ぱ い!」

「諦めろみょうじ。掘り返したお前が悪い」

そう言いながら、若先輩も山形先輩も天童先輩の手元を食い入るように見る。
食い入ってないかもしれないけど、私にはそう見える!

「いや…だって…苦情が…悪臭で…大平先輩は頑張ってって言ってくれたのに…」

もう、この先輩たち本当にやだ…。

「隼人くんは!?隼人くんはどれが好み??」

「ん?俺は、こっちの乳首がピンクの…」

自分の耳を疑った。
山形先輩今なんつった?

「へぇ、隼人くんも意外とそういうとこ見るんだネェ!」

「ちょっと待てぇい!!!」

先輩だということも忘れて、赤髪の問題児にチョップする。

「いった!ちょっとなまえちゃん?いい度胸だねぇ」

「エロ本先輩、早くその本の山を片付けておいてくださいね」

「落ち着け、みょうじ。ここは、お前も好みの女を示すべきだろう?」

若先輩が腕を掴んで離さない。
なんでここでその腕力使うの?痛いけど?!

「ってか!!私、女!!好みの女とか!!いるわけないですよね!?」

「ああ、そうか」

さわやかな笑顔で、さも今思い出しましたとでも言わんばかりのこの発言は天然だからできるのかい?

「でも、みょうじもこんな女になりたい、ぐらいの願望はあるだろ?」

さあ選べ!と山形先輩が天童先輩から雑誌を取り上げ、渡してくる。
でました天然2号!!

「しょーがないなー!なまえちゃんの好みも聞いてあげるヨ」

腹立つ!特に天童先輩!!
壁に追い詰められれば逃げ場などない。
ニヤニヤ詰め寄る一名、真面目な顔でどれが良いんだ?と詰め寄る二名。
まとめて地獄に落ちて欲しい。
広げられたページにはあられもない格好の女性たち。
こうなりゃやけくそですよ。
同じ性別の人の裸体!!

「あはは!なまえちゃんすっごい顔赤いんだけど〜?初心だネェ」

「ち、違います!赤くないです!!…この人!この人で良いです!!」

またすぐに視線を逸らせば、雑誌を覗き込む三人。

「お前はこういう乳がでかいだけの女が良いのか?」

「…まぁ、…わからんこともないが…」

「ちょっとやめてあげなヨ〜なまえちゃんのおっぱい見るの。比べたら可哀想だヨ?」

辛い…辛すぎる…なんでそんないたたまれない目で見つめられなければならないのか。
そもそも、この人たちがきちんと片付けしないからいけないわけで…!


「お疲れ〜」


深い憤りを感じていたら、部活を終えた瀬見先輩と大平先輩の姿が大きな男たちの隙間から見えた。
常識人!!嬉しい!!

「どういう状況?」

「邪魔した?」

「セミセミ先輩!!大平先輩!!助けて!!」

どういう状況と理解したら「邪魔した?」の言葉がでるわけ?

「あー、なるほどね。やめてやれよ…哀れだろ?」

突然の裏切りに目を疑った。

ねぇ、みんなどうしてそんな残念そうな顔でこちらを見るんだい?


「明日のスクイズの…「ま、そのくらいにしてみょうじ頑張って掃除してくれたわけだから」」


大平先輩の絶妙な援護のタイミング。

「もうチョットなまえちゃんの恥ずかしがる顔見たかったけどしょーがないなぁ」

この先輩、論外。

「みょうじ、胸を鍛えたいならまず腕立て伏せをすると良いぞ」

「それ良いな!談話室で今日からみんなと筋トレするか!」

その時、私の中で何かがブチン切れる音がした。


「ぶっとばす」


その後荒れ狂う私は大平先輩と瀬見先輩により引き摺り出され、翌日よくわかってない天然二人から謝罪をされ少し落ち着いた。少し。



「天童、みょうじは昨日なぜあんなに怒っていたんだ?」

「あんなこと言って怒られないと思ってたワケ?」

「俺は良いアドバイスを…」

「俺も考えたんだが、腕立てを談話室でやるとあからさまだろ?ほら、女ってそういう努力を恥ずかしがるから」

「…隼人くん?」

「なるほど、そういうことか!では、あまり効果がなさそうだが、豆乳を飲むと良いとあの雑誌に書いてあったから、それを勧めておこう」

(あ…こいつらダメだ)


落ち着いた気持ちをぶり返させられて、この二人にビンタをお見舞いするのはその日の部活前のお話。


[ 好みの女とか!! ]

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