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助手席の私とその隣でハンドルを握る司書さん。

何だろう、この状況は。

ラジオから流れる軽快なしゃべりと窓を打ちつける雨に耳を傾けながら考えてみる。

図書室を出てから司書さんに言われるままいつの間にかここに座らされていた。
断ろうとしたがうまい具合に丸め込まれて、しまいには住所まで吐かされてしまった。

心の中でため息をつく。
勢いに押されたとはいえ、何で言っちゃったんだ......。

ていうか、さっきから全然車進んでないな。
一刻も早くこの空間から出たいっていうのに!!
何で今日に限ってこんなに混んでるの。



早く着けと願っていると、隣から声をかけられた。
「お前さ、なんでこの学校に入ったの?」
「え?」
ハンドルを握って、前を向いている司書さんの突然の問いに思わず聞き返す。
「何でそんなこと?」
「お前、頭いいだろ。県内で一番偏差値高いとこ余裕で入れただろうに、何でうちみたいなバカ学校に来たのか思ってさ」
バカ学校って......そんなこと言っていいんですか。
仮にも今の勤務先なのに。
まぁ、あんまりそういうのは気にしなさそうだけど。
「......何で司書さんが私の学力を知 ってるんですか?」
「何でって、俺、一応教職員ですから。教員の間で結構有名だし」
そりゃそうですけど。
だからって司書さんには、私の学力がどうかなんて関係ないと思うんだけどな。
「............そうですか」
「何、今の間」
「いえ、気にしないで下さい」
なんか面倒くさくなってきたし。
「あっそ。で、何でうちみたいな高校入ったの?」
あ、やっぱ答えなきゃ駄目なんだ。
「もちろん、図書館があるからですよ。本が目当てです」
「それだけ?兄貴がいるからじゃないんだ」
「っなんで知って......」
突然でてきた兄の存在に思わず反応してしまう。
しまったと思ったときには遅かった。
ここはシラ切るべきだったのに......。
「ホント、分かりやすいよな」
まぁ、面白いからいいけど、そう笑いながら続ける司書さんを睨みながら尋ねる。
「何で知ってるんですか」
「教職員だから」
それはさっきも聞きました。
「結構、話題になるし。先生たちの間で」
「...何でですか」
まあ、分かりきったことだけど。
「そりゃもちろん、兄貴が兄貴だから。お前が入学してくるなんて思わなかったって言ってたよ、先生方」
一呼吸おいて、司書さんはこちらを向いてにやりと笑って言った。
「俺は重度のブラコンだと思ってるけど」
「なっ..違いますッ!」
ブラコンとかあり得ない。
「え、違うの?じゃあ、兄貴の方がシスコンか」
「...そんなことないです」
なんて否定はしたものの実はあながち間違いではない。
シスコンっていうのは語弊があるけど。まぁ過保護みたいな。
母子家庭だから兄であり父親照って感じだからかなぁ。
嫌いではないけど、あんまり過保護すぎるのな、やめてほしい。
兄が兄だけに心配する気持ちは分かるけど私にとってそれくらい、どうってことないのに。

「ふーん」
怪しげにこっちを見る司書さんを無視して窓の外に目を向けると、いつの間にか、さっきまでの渋滞が嘘のように車はどんどん進み出して5分もせずに家の近くに着いた。

「あ、ここでいいです」
近くのコンビニに止めてもらい、お礼を言おうとしたときに、目の前に出されたのは、黒い棒状のもの。
「......何ですか、これ」
「なにって、傘」
ああ、やっぱ見間違いじゃないんだ。
「持ってたんなら貸してくれればよかったじゃないですか」
睨むように司書さんを見ると全然気にしてない様子。
「いやいや、それじゃ、面白くないだろ」
ありえない。面白くなくて結構です。
そもそも、私に面白さを求める意味がわからない。
「家、すぐそこなんで傘は大丈夫です」
そう言って一応は好意(と信じておこう)で送ってもらったわけだし、今度こそお礼を言って出ようとしたら、今度は手を掴まれた。
驚いて司書さんの方を見る。
こういう不意打ちは本当にやめて欲しい。
ドキッとするじゃん。あ、いや、びっくりするって意味で、深い意味はないのだけど。
「せっかくここまで送ったのに、家に帰るまでに濡れたら意味ないだろ」
だから持っていけ、とまた傘を私の前に差出した。
これは、受け取らないと帰してもらえないのかな。
手も掴まれたままだし。
渋々受け取ると、満足したようによし、と呟いて私の頭にポンと手を置いた。
これって、完璧に子供扱いされてるよね。
まあ、司書さんから見たら私なんて子供だろうけどさ。
何かちょっと悔しいな。
......ん、悔しい?
「じゃあ、また明日な」
「あ、はい。送ってきただいてありがとうございました。それと、傘も」
「ああ」
「じゃあ」
短く挨拶をして車を降りた。


一瞬感じた少しの違和感は、いつの間にか消えていた。



 

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