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「ただいーーー」
「さっきの車、誰だ」
家のドアを開けた瞬間、目の前に玄関に仁王立ちの男。

しまった。見られてたか......。

「......た、ただいま、お兄ちゃん」
「誰だよ、男か」
私のひきつった笑顔なんか、お構いなしにもう一度同じ質問を繰り返す。
下手に嘘ついてもバレたときが怖いからここはほんとのこと言っておこう。
「図書館の司書さんだよ。今日、傘忘れてて送ってもらったの。男の人だけど、別に変な関係ではないから」
「傘がないなら俺に電話すればいいだろう。だいたいな、男は皆、狼なんーーー」
「はい、ストップ!それくらいでいいんじゃないか、誠」
「昴さん!」
お兄ちゃんの後ろから顔だしたのはお兄ちゃんの親友であり、学校No.2の中谷昴(なかたにすばる)さんだ。

ちなみにNo.1は、私の兄の芹沢誠(せりざわまこと)。
学校1強いっていうのと、学校1モテるっていう意味でのNo.1。
私にはお兄ちゃんがモテる理由がよく分からないんだけど。顔はそれなりにいいとは思うけど、昴さんだって負けてない。頭だっていいし、私だったら絶対、昴さんをオススメする。


それにしても、昴さんが家に来るのは珍しい。
お兄ちゃんはあまり人を家にあげたくないらしく、中学からの付き合いである昴さんもあまり来たことはない。
「珍しいですね?昴さんが来るなんて」
言外に何かあったのかと尋ねてみる。
「ああ、ちょっとね、誠だけじゃ心配だから」
じとりと睨むような視線を受けたお兄ちゃんはばつが悪そうに頭をかき、とりあえず着替えてこいとだけ言って居間に入っていった。




テーブルを挟んで向かい側にお兄ちゃんと昴さんが並んで座り、2人の正面に私が座る。
「で、何があったの?」
お兄ちゃんは視線をさまよわせ、私にそれを向けると、決心したようによし、と呟いて背筋を伸ばす。
「すまん!バレた」
突然、頭を下げたお兄ちゃん。
バレたっていうのはもしかしなくても......、
「伊織が俺の妹だってバレた」
ああ、やっぱり。
さよなら、私の平穏なスクールライフ......。
でも、まぁいつかはバレただろうし、今までバレなかったのが運が良かったと思えば別にいいかな。
「その、つい口が滑って......」
「俺がその場にいたら止めてたんだけど、ごめんね」
何も言わない私に怒っていると思ったのか、お兄ちゃんはおずおずという様子でそう言い、昴さんも頭を下げる。
「何で昴さんが謝るんですか」
そもそも、 昴さんは何も悪くない。
「別にいいですよ、バレても。いつかはバレただろうし、学校の私見て、あの芹沢誠の妹だとは思わないとでしょ」
こんなダサいのが、イケメン(自分の兄をこういうのもなんだけど)な芹沢誠の妹だっていう方が無理がある。
と、思ってたら真剣な顔をしてお兄ちゃんから否定の言葉が発せられた。
「そんなことはない」
「......どうしたの、お兄ちゃん」
そんな真剣な顔で......。
だいたい、本当のことだし、誰だってそう思うよ。
不思議に思っていると、昴さんがくく、と笑った。
「どうしたんですか?昴さんまで」
「ん?いや、さぁ誠がーーー」
昴さんの言葉はお兄ちゃんの低い声で遮られる。
「昴」
「はいはい。わかってます」
一体何なんだ。2人とも今日はおかしい。
結局さっきの続きは聞けないみたいだし......。
静夏さんにきいたら分かるかな?

静夏さんっていうのは、お兄ちゃんの中学からの 彼女である久遠静夏(くおんしずか)さんのことだ。
とっても可愛くて、優しい人で、お兄ちゃんなんてもったいないくらい。
何でお兄ちゃんなんかと付き合ってるのか全然分からない。
いつフラれてもおかしくない思う。
お兄ちゃんがフルのは許せないけど。


「一応。その場にいた奴には口止めしといたけど、盗み聞きしてた奴等がいたかもしれないから気をつけとけよ」
それから、とお兄ちゃんはまた真剣な顔で続けた。
「呼び出されても絶対ついて行くなよ」
その隣で、うんうん、と頷く昴さん。
「何で?」
「何でって、お前なぁ」
あからさまなため息をつくお兄ちゃんに付け加えるように昴さんは言った。
「危ないからさ。相手にしちゃダメだよ」
渋々ながら頷く。昴さんにまで言われたら了承するしかない。口では勝てないもん。
「よし。じゃあ、俺は帰ろうかな」
立ち上がろうとした昴さんをお兄ちゃんが止めた。
「晩ご飯、食ってけよ」
いいだろ、と私に聞くお兄ちゃんにもちろん賛成する。わざわざ来てもらったのに、何もしないのは申し訳ない。
「じゃあ、ごちそうになろうかな」
少し迷ったあと笑って言った昴さんを見て、私は食事を作り始めた。



   

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