短編たち | ナノ


05



「時雨くんは、響の何?」


べたに体育館裏まで連れて行かれた俺は早くも逃げ出したさMAXだった。


「なにって、なんだとおもうの?那月くんは」


優しく、優しく問うたつもりでも俺の声は意外にも冷たくて、那月くんの口元がきゅ、と結ばれたのを見て後悔した。

いいじゃん、

何が不満なの、那月くんは。


その可愛い顔で響に愛されて、他に何を欲しがるの。



「なんで部屋に入ってこれるの?合鍵でも持ってるの?なんで?」


泣きそうな那月くんはとても可愛い。
なんだかとても悪者になった気分だ。


「うん、そう。合鍵持ってるよ。」

鍵は共通なんだよ不用心なことに。

「っ、響が好きなのは俺なの、だから時雨くんは、時雨くんは、」

「うん、俺がなあに?」


あー頭痛い。
響をぶん殴りたい。

こうなったのもあいつが悪いんだよ。
どうせ「時雨の飯は美味い」とか言っちゃったんだろ分かってるよ

いかにも俺が大切みたいな口の回しは最低最悪だ、那月くんにとっても、俺にとっても。



「あれー那月と時雨じゃん」


さも偶然を装ってきたのは言わずもがな響だ。目敏いからこうなることをわかっていてつけてたんだろう。

俺を大切にする響を見て悲しむ那月くんを見るのが大好きだから、響は。


「、っ響」


「あれ那月泣きそうじゃん」


にんまり。嫌な笑顔だ。
嫌な、笑顔だ。


「なんで泣きそうなの?時雨になんかされた?」


全部わかってるのに、そんなところも最低最悪


「ねえ那月?」


甘い声と、甘い顔。

俺には向けられないその表情は那月くんのものだけなのに、那月くんは欲張りだ。


「響は、時雨くんとどういう関係なの?」

震えた声でその言葉。
もう何十回も聞いたその言葉は言わせてるようなものだ。

ごめんね那月くん

でも、偽りでも大切にしてるような言い回しをされたいって思うんだ俺は。


「時雨は大切な存在だよ」


ぎゅ、と痛い。
心臓が痛い。

こんなクズなのに、最低最悪男なのに。
こんな嘘できゅうきゅう締め付けられる。

なぁ響

俺はお前が好きなんだよ。


「俺と、俺とどっち好きなの!?」


「なんでそんなこと聞くかなあ、そんなの那月に決まってるだろ」


とんだ茶番だ。
ああ、本格的に頭が痛くなってきた。
心臓も痛い。
泣きそうだ。

泣きたい。
でも俺は絶対泣けない。


抱き合う二人をみて、「それじゃ」となんでもないように言って足早にその場を去る。


那月くんは俺を嫌い。
那月くんは響が好き。

響は那月くんが好き。
響は俺なんてどうでもいい。




ねえ、俺はなんて変なところに存在しているんだろう。







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