短編たち | ナノ


「今日からあげだよ食べてくでしょ山瀬」

「やったー姉ちゃん好きー」

「ごめんねわたし彼がいるから」

「あいつのことなんて忘れさせてやるよぉ」


ツッコミ不在の水瀬家での夕ご飯は週に最低3回はこんなかんじだ。

山瀬はそれくらい水瀬家に入り浸っている。山瀬家は両親共々働いていて夕ご飯はご自由に、型なのだ。

水瀬家も両親共々働いているが姉が作るご飯は美味しいから問題はない。
気づけばコンビニ飯担当だった山瀬が仲間に入り、すっかり家族みたいになっている。


「姉貴、まりもってこれ?」

「そーそー、あんたが見たいっていうから彼氏に買わせたの」

「ふうん。なんだ毛は生えてない」

つまんなそうにつぶやく水瀬に気づくことなく、山瀬はつけられたテレビの前にすわって機嫌よさげに時折笑う。

気がつけばいい香りが充満してよーいどんで食事が始まる。


姉ちゃん細っこいのによく食べるよなぁと山瀬はいつも不思議に思う。
どこに入ってんだろ。おっぱい?
でも姉ちゃんそんなでかくないし


山瀬は食べ方がハムスターみたいだなぁと水瀬は思う。そんなもきゅもきゅ詰め込んで飲み込んで消化できてるのだろうか


二人して美味しそうな顔して食べるじゃない、と水瀬姉は微笑む。どんなに二人がバカでアホでも姉ばかなので二人は死ぬほど可愛い


それぞれの思考がぐるんぐるんまわりながら団欒の時間が終わる。


「お風呂山瀬が先はいんなさい」

「はあい」


そして時たまに、山瀬は水瀬家に泊まる。パジャマも歯ブラシも、予備の制服まで水瀬家に置いてあるので何の問題もない。

問題といえば教科書類だがこの二人、山瀬にかぎらずに教科書類を持ち帰ろうなんて思ったこともない。

トータル問題はゼロ。



「こないだ百マス計算やったら小学生に負けたんだよ俺」


にしし、と笑う山瀬に水瀬は呆れたようにため息をついた。


「100個も計算なんて頭パンクしちゃうじゃない。無理しないで一日五個くらいでいいんだよ計算は」


両方バカでアホなうえに言った通りツッコミ不在のため二人の道を行く。


水瀬は自身のベッド。
山瀬はもはや山瀬の私物化されている敷き布団に私物化されている枕。


「電気消して山瀬」

「俺ハンドパワーで電気消せそう」

「あーほんと?録画したいから消す時言って」

「まだ企業秘密だから普通に消してやるよ」

「ふうん」


なんどもしつこいがツッコミ不在なのだ。作り出される電波ワールド。

スタンドライトだけがぼんやり明るい空間でふたりはのんびりのんびりお喋りする。



「なにー眠いの?」

「んーねむい」

「山瀬おいで」

「んー」

「湯たんぽ、来い」

「はあい」


ふらふらと立ち上がる山瀬をぐいっと引っ張って水瀬はベッドに引きずりこむ。
ちなみに山瀬は驚いたりなんてしない。

むしろ普段は自分からやってること。
この二人に客人用布団なんていらないのだ。


「山瀬、キスしようよキス」

「ちくび?ちんこ?」

「ざんねんくちびる」

「あーはいマウストゥマウスねー…ん、っ」


あれから変に習慣になったキスを周りは突っ込めるわけもない。
違うよそれ、なんで言えない。
バカでアホな子達が傷ついたら、と考えると否定できないし

なによりイケメンでありアイドルな二人がやってれば親友ってキスするもんかもとか思い始めている。

マインドコントロールは怖い。


「山瀬くちびるかさかさ」

「えー、ん、べろべろすんなよー」


自然に、ごく自然に意味もなく唇を舐める行為をしたとしても。


「水瀬肌白いからーあはは」

「いったー、ちょっと吸わないでよ跡ついたよ」


ごく自然に、無自覚に無知にキスマークをつけたとしても。


ふたりは付き合ってません。




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