短編たち | ナノ
「山瀬はさぁ、水瀬くんと幼なじみなんだよね?」
「うんそーだよ」
んまんま、と頬を綻ばせてあんみつを食べながら山瀬は頷く。
このあんみつが女子からの餌だなんて気付けない。
「わたし、水瀬くんと付き合いたいんだけどね?」
「突き合うの?」
そんなの痛そうだねえと笑えば女子は少し顔を赤らめる。アホの子でガールズトーク常連だがイケメンなものはイケメン。緩い系だから目立つものでもないけれど。
「山瀬に紹介して欲しいんだ、うちのこと…」
「紹介ー?」
「うん」
はて、と山瀬は考える。
えーだってこの人同クラなんだから紹介なんてする意味ないじゃん
それにいくら水瀬だって知ってると思うなこの人のこと。水瀬あんな見た目のくせにすげーバカだけど、さすがにクラスメイトくらい覚えてるよ。
そういうことじゃない。
この女子紹介してほしいのだ。イチオシ女子だ付き合っちゃえ、という方向で。
そんなことアホの子に通じる訳もなく、首をかしげた山瀬はまたあんみつを食べ始めた。
こんなことはよくあること。
みんなそろって水瀬のことすんげえバカだと思ってんだなかわいそうに。
「山瀬、帰るよ」
「み、水瀬くんっ」
そこに現れたのは白馬の王子様、と讃えられる幼なじみくん。
顔を染めた女子は期待を込めた目で山瀬を見つめる。
だがしかし。
「なに食べてるの」
「あんみつ」
「一口ちょうだい」
「あーんみつ!」
「ん」
なんとも自然な流れでアーンをする水瀬と山瀬に女子は固まった。
「あっま。虫歯の虫が来ちゃうよ」
「えー来ちゃうかな」
「姉貴が言ってた。虫歯の虫はありんこくらいな大きさでおへそも食べるらしい。」
「姉ちゃんほんとなんでも知ってるよなー」
こんな電波な会話にもフリーズした女子には聞こえない。なぜって。
水瀬はしゃべりながら自然な動作で山瀬の唇についたあんこをぬぐい、ぺろりと舐めとり。
山瀬はその舐めた水瀬の指を仕返しとばかりにぺろりと舐めたのだ。
「で、なんだっけ」
「だから、帰るよ」
「あーそっか。
あんみつご馳走さまでした」
しばらく固まった女子が意識をはっきりさせたころには山瀬と水瀬は仲良く帰宅したあと。
ちなみにアホの子とバカの子はまだ昼休みなのに放課後と勘違いして帰ってしまった。
ここまでくれば天才だが、それを馬鹿にする人はいない。ルックスは全てを包み隠す。
「ねえ山瀬くんと水瀬くんて…」
「付き合って…?」
「言うなバカ」
見たくない現実に女子も男子も幼なじみ同士のスキンシップは見て見ぬふり。
ちなみにふたりは付き合ってません。
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