短編たち | ナノ


「なぁ水瀬、」

「なに」



二人の日常は学校に行って授業中たっぷり寝たあとの放課後から始まる。
人気のない教室で補修課題をふたりそろってもらい、いつのまにか掃除まで押し付けられるアホの子とバカな子


二人ともイケメンだから人気はあるが、幼なじみの二人の隙間に入り込むなんて自殺行為だとみんな知っている。


「俺来月には空飛べるようになるかもしんね」

「おーまじで。そしたらマスコミ呼んで記者会見だな」


べつに冗談とかではない。山瀬はそんな気がするのだ。空、飛べんじゃね俺。と。

山瀬は黒髪でふわふわ猫っ毛をマフラーに埋めながら目の前の男前をちらりと見る。


「空飛べるようになったらお前の家に毎日行っちゃうぜ」

「飛べなくても来てんだろ」

「まぁねー」

そんなゆるい会話をしながらも水瀬の手は山瀬の猫っ毛をもしゃもしゃもしゃもしゃ撫で続ける。


水瀬は思う。
これは人間じゃない気がしてきたんだよな俺。こういう生き物いるじゃん。マリモ?あれ?マリモった毛生えてるっけ。


無表情でそんなことを思っている水瀬の心中なんかしらず、山瀬はこてんと首をかしげながらやっぱり水瀬をちらりと見る。


水瀬の髪の毛はサラサラだ。トリートメントしてるらしい。というか姉ちゃんにやられるらしい。栗色で肌の色素も薄い水瀬は女子に王子様と讃えられている。

あと無口だからこいつ。あんま喋んない。うそ、喋るけどゆっくり。

寡黙な王子様、白馬が似合う、と言われてて俺もよくそのガールズトークに混ざる。


「水瀬って白い馬乗るの?」

「白い馬?あぁうちの車白いよ」

「やっぱ乗るのか。」


微妙に会話が噛み合ってないが気付かない。この空気感はクラスでも浮いてる。ぷかぷかと。


水瀬は白い手を山瀬のほっぺたにするりとおろした。
これはもち米から生成されていると姉貴が言っていた。餅つき大会の賜物と言っていた。
眠そうに垂れた目はまだ小さい山瀬の目を姉貴が引っ張ったから垂れたと言っていた。
山瀬はチビじゃないけどなんかひょろってしてるから小さく感じる。男子から湯たんぽ代わりに携帯されるくらいにひょろい。


「お前、餅つきでつかれたときどうだった?痛い?」

「うんめっちゃいたいよ」



この二人はアホの子とバカの子である。





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