短編たち | ナノ
8
「捺くん、顔赤いよ」
手を掴んでない方の手がそっと俺の頬を包んだ。白くて大きな京の手は予想よりあたたかくてすこし驚く。
「気分悪い?」
労わるような言葉にゆっくり首を振ると京は口元をゆったりと緩ませた。
「でも赤い、それに」
熱い、
耳に直接届けるような響きにまた鳥肌がたった。するりと頬を包んでいた手が撫でるように移動する。
首を、鎖骨を撫でられた小さく息を吐いた。なんか、変。
変な気持ちになる。
「きょ、う、手、やだ」
「なんで?」
なんでって。なんでって。
だって変だろ。なにこの雰囲気。
さっきまで和気あいあいとしてたのに、今はなんだが情事を匂わせる雰囲気。
「俺に触られるの、いや?」
「ちが、…ッぁ」
またするりと上がってきた手がそっと俺の耳に這う。変な声が出た、と唇を噛む俺をみて京がゆっくり自身の唇を舐めた。
「こんなの、変だ、京、」
「そうかな、」
変だ。こんなの。たぶん、絶対。
ローテーブル越しの距離はいつのまにか隣同士になっていて、手首を掴んでいた手は脇腹を撫でてから腰に回された。
その一連の動きがいやにエロく感じて、変な気持ちになりそうで。
自意識過剰だろ、と思うけど。だって俺も京も男だ。男同士で変な気持ちってなんだよ。
「なにが変?」
「ん、変だろ、くすぐっ、た、」
「やっぱ猫みたい」
くすくすと無邪気な笑い声がきこえてやっぱり自意識過剰なだけで変なことではないのだろうかと心を落ちつける。
「捺くん俺と同じ匂いがするね」
シャンプーもボディソープも借りたからだろ
なんて突っ込む間も無く京が俺の首筋に顔を埋めた。
「でも、捺くんのほうが甘いな」
「ちょ、京、?」
「なに」
すんすん、と匂いをかがれ、すりすりと鼻の頭を擦り付けられて硬直した。
「京、やっぱちがう、変だ」
「何が変?」
変だ、熱い。ぼんやりしてきた。
「京、俺変になりそう、も、やめろ」
「捺くんが変なの」
ちげぇよ。お前が変なんだ。お前が変だから、俺も変になりそうなんだ。
「顔隠さないで」
お前が言うなよ、
空いている手で顔を覆うと、その手も抑えられ、さらに両手を纏められた。
「捺くんはかわいいね」
可愛いよ、と。
そう動いた京の唇がすぐ目の前にあって。
「…っふ、」
唇を湿った柔らかいものに覆われた。
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