短編たち | ナノ
7
相変わらず前髪が顔の半分を覆っていて表情は掴めないが、奈瀬の喋り方のテンポは心地よくて、声も柔らかくて、時間を忘れるくらい俺は楽しんでいた。
「え、奈瀬ってこの漫画全巻持ってんの!?貸してくんねぇ!?」
「いいよ、むしろいつでも読みにおいでよ。持って帰るの重いでしょ」
「え!?まじで!?やった!!」
大きいガラス窓から見える空が赤色に焼けてきて、このマンションが羨ましい。むかしから夕焼けが好きだった。だから、こんな大きな窓から大好きな夕焼けをまた見れるなんて俺めっちゃラッキーじゃん。
「長谷くんってさ、」
「あー、捺でいいよ、苗字じゃなくて」
「ほんと?じゃあ捺くんも名前でいいよ」
「んー、じゃあ京って呼ぶ。」
「うん、捺くんよろしくね」
くすりと笑った京の顔が夕日に照らされてなぜか心臓が跳ねる。
夕焼け色にそまった長く鬱陶しい前髪がきらきらとして、
「きれ、い」
と思わずぼやいた。
キラキラしてる。髪の隙間からみえる鼻はスジが通っているし、薄い唇も整った形をしている。
このひとはもしかしてしぬほど綺麗なひとなんじゃねぇのかな
「なぁ京、前髪あげてよ、顔見たいんだけど。」
一度気になると好奇心は止まらない。テーブル越しに顔を近づけ前髪に触れようとする。
「なんかそのおねだり、エロいね」
近づいたことで耳に囁かれるようにこぼされた言葉に鳥肌が立ち、思わずのけぞる。
エロいって、
なんか、なんか。
京がそんなこというから変に意識しちゃうじゃないか。
それに、だって、京の声、ぞくぞくする
「気になるの?」
「や、っぱなんでもない…つーかエロいとかへんなこと言うな馬鹿」
だめだ、なんかこれ以上この距離で、この低くて腰に響く声を聞いてちゃいけない気がする。
「なーつくん、」
「…っわ、」
のけぞった俺を追いかけるように近づいた京が俺の手首を無遠慮に掴む。
なんか、雰囲気おかしい
え?なんか、なんか
(えろい…)
よくないと思うんだけど、この空気
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