短編たち | ナノ
9
触れているだけだった感触がゆっくり離れ、熱い舌が唇をノックするように這う。
「っ、きょ、う…んむ、」
「んー?」
やめろ、という意味合いで名前を呼ぼうと口を開けた隙にぬるりとしたものが口を侵した。
「ん、っ、く、、」
ゆっくり入ってきたそれはゆっくりと俺の口腔を撫で上げ、その度に俺は背筋を震わせた。
状況を理解するのにだいぶ時間がかかった。
ちょっと待て。
いやいやいやいや、え???
待って待って間違ってなければ俺はこいつに、キスされてるってことだよな?
なんで!?え!?
大パニックをおこす脳内とは別に、体はどんどん熱くなる。やっぱ変だろ、変だよ、しにそう。
「は……っ、ん…」
引っ込めていた舌を絡め取られて、裏をなぞられる。
キスをするのは初めてとかではない。なのに今まで味わったことのない快感を覚えてただ戸惑う。
「…っ、ん……」
抵抗するように京の胸板をおせば、意外に筋肉があるそれに驚いた。
首をいやいやと振ればさらに後頭部を押さえつけられキスがどんどん深いものになった。まるで自分を女と錯覚させるような扱いにクラクラして、
ピチャピチャとダイレクトに脳に響く水音にぞくぞくした。
「…っふ、…は、ぁ」
長い長いキスが終わった時には肩で息をしてる状態で、ふらりと倒れそうな俺の体を京の手がしっかり支えていた。
労わるように背中を撫でる手も、口元で伺える薄い笑みも、なにがなんだかよく分からなくなって目の前の人に恐怖を覚える。
いや、でも。俺の中のこの人への信頼はかなり大きなものになっていたからきっとこの戯れにも事情があるのだと本能が勝手に納得しようとしてくれた。
この短時間で分かったもの。京は優しくてすげーいいひとってことを知ったから、
それに助けてくれたし、その時点で俺の中の京への信頼は絶大なものになっていたから、
「…なに、してんの?」
だからこそ戸惑う。
「ふは、捺くんってキス下手?」
耳元で掠れた声で囁かれた言葉に何かが切れた。
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