短編たち | ナノ
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そして冒頭に戻る。
シャワーを借り、下着とスウェットを借り、さらには洗濯までしてくれたらしい。
悔しいことに10センチは俺より高い根暗くんのスウェットはだぼだぼだった。
きまずい。
来てしまったことをすこし後悔しはじめた。なんかそわそわする。それにこの根暗くんが痴漢のことを人に言ったらどうしよ、なんて最低なことを悩み始める。
俺最悪だな、せっかくの救世主を…
「長谷くん?」
「な、なに!?」
突然の呼びかけに思わず肩をビクリと震わせる。あぁ、情けない。
「百面相してたよ」
かろうじて見える口元が楽しそうに弧を描いているのがみえて、なぜかすこしほっとする。
「悪い」
それでも恥ずかしくてプイと顔を背けながら謝るとくすくすと聞こえた。
「なんかいつもと雰囲気ちがうね長谷くん」
「あぁ、髪濡れてるからペシャって。」
「髪もそうだけど、なんか柔らかい雰囲気だなぁ」
「俺普段どう思われてんだよ」
クラスでは主要メンバーのうちの一人だ。しかも俺以外は死ぬほど目立つ顔と性格だから俺の存在はかなり薄いはず。
だからそんな立ち位置の自分がどう思われてるのか少しだけ気になる。
「そうだね、俺みたいな根暗とこんな普通に話すようには見えないかな」
根暗くんの使う自虐の言葉に思わず「うっ」と言ってしまった。
やっぱり覚えてんのか……
良心が……だって俺こいつと関わったことないだけで嫌いなわけじゃないし……
過去の自分止めにいきたい
「あー、…あの、さ、えっと、前は根暗とか言って、ごめん」
ぶん、と頭を下げれば乾かしきれてない髪の毛がすこし水滴を飛ばした。
「あはは、覚えてるんだ。
でもそんなストレートなところ、長谷くんらしいね」
ストレートなところ、と言われまた「うっ」となる。
昔からデリカシーがないとか、オブラートに包めとか、そんなことを耳タコレベルで聞かされてきた俺には痛い言葉だ。
「だから、今こんな風に話してるのが不思議だ」
不思議だ、そういいながら口元がゆるく笑ったのをみて、なぜか胸がなる。
なんか、この人、めちゃめちゃいい人に見えてきた。
もっさもさの黒髪も、毛が長い犬みたいに見えてなんだか可愛い。
そういえばこいつの名前、知らないや。奈瀬だか、奈々瀬だか。
え、でもどうなんだろ
名前とか、聞くの失礼だろ…
いや、でも。知らないのもいやだしな。
「あのさ、聞きづらいんだけど、名前なんだっけ」
意を決して口をひらくと、根暗くんは一瞬おどろいたようにかたまって、またくすくす笑った。
「ほら、そんなとこもストレートだ。
俺はね、奈瀬だよ。奈瀬京史」
「ほんとわりぃ。
奈瀬、か。えっと、俺は」
「長谷捺くん、でしょ」
うわ、こっちだけ知らなかったとかほんと最悪。頷いて項垂れるようにするとぽんぽんと頭を撫でられた。
「君は目立つから誰でもしってるよ」
それは悪目立ちだろうな。
項垂れる俺に奈瀬が笑った気がした。
「あんま嬉しくねぇよ」
「悪い意味じゃないよ」
ね、とふくふくわらった奈瀬がまたさらに髪の毛をくしゃりと撫でる。
あぁ、のどかだ。
ぽんぽんと頭を撫でるリズムが心地よくて思わずすり寄った。
「長谷くんは猫みたいだね」
「褒めてるのか?それ」
「褒めてるよ、俺は猫派だからね」
「意味わかんねえ」
それが褒め言葉なのかよくわかんないけど、奈瀬が猫派で、奈瀬の中で俺が猫っぽいならそれは、けっこうかなり嬉しい。なんでかわからないけれど。
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