短編たち | ナノ



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しかし達したばかりの脱力感も手伝い、ろくに抵抗することもままならない状態。

俺の両手をしっかりつかみ、俺のが付いている方の手をうっとり見つめたあとぐいぐいと出口に向かって引っ張られた。

やばい、やばいって。
頭の中に警報音が鳴り響いているが、体が思ったように動いてくれない。

じじいの思考は面白いくらい手に取るように読めた。

犯される。

同じ男に。
しかも、こんな、こんな中年で小太りの汗臭いおっさんに。

体がホームに出て、そとの新鮮な空気が鼻先に触れたがとにかく俺は泣きそうだった。

そのとき。

「あの、」

控えめな、でもしっかりとした力でブレザーを掴まれる。

そしてそのまま手を滑らせた手が俺の腰をしっかり掴んだ。

「この人俺の友達なんですけど、おじさんどういう関係ですか」

聞いたことあるような無いような、凛とした声に反応してすぐ近くにあるその人の顔を見上げたとき見えた黒髪。

鬱陶しいくらいにのびたそれはたしかクラスの根暗くんのものだ。

「き、君には関係ないだろ!」

じじいが焦ったように言い、なお俺の手を強くつかむ。あまりの強さにいたみ、「っつぅ」と小さく悲鳴をあげた。

「関係ないって、友達なんですけど。」

まけじとおれの腰をつかみ、引き寄せてくれるこの根暗くんはどうやら俺を助けてくれるらしい。

しおらしくなんてしてられない。あせって油断しているじじいにむかって思いっきり足を蹴り上げた。

「〜〜〜〜〜!!!」

直撃したのは言わずもがな、である。
股間を抑えて悶絶するじじいを冷たい目で一瞥して、根暗くんの手をつかみ、とりあえず逃げた。

「はぁ、ぁ、、」

どうにか逃げた改札付近で肩で息をしながら、横を見やると根暗くんはけろりとした顔をしていた。

「長谷くん、体力ないんだね」

そういって口元だけ笑みを浮かべたそいつをすこし睨んだ。

「……わりぃな…」

「うん、大丈夫?」

あんまり大丈夫じゃないけど小さく頷いた。未遂なだけ無事だ。行為に及ばなくてよかった。レイプなんて笑えない。

「…下着、気持ち悪いでしょ」

小さな声でささやかれた言葉に思わず目を瞠る。

なんで。
てっきりホームで連行される姿を見て手を貸してくれたのかと思っていたのに。

「ごめんね、見えちゃって」

申し訳なさそうにする根暗くん。
いや、この人が悪くないってわかるんだけど、そうじゃなくて、

あの喘ぎ声はどれだけ聞こえたのだろうか、イキ顔とか、

ひたすら恥ずかしい。

「俺の家、ここから5分くらいなんだ。よかったらシャワーと替えの下着くらい貸すよ」

「い、いいっ」

即答だった。
そんな恥じた姿を見られた後のこのことついていけるほどメンタルは強くできてない。







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