伏黒一家編

 時は経ち俺の頑張りのおかげで、甚爾は無事に一級術師になった。甚爾も今年で22歳。子守も引退し、偶に任務に出ては稼いで、それ以外は借りたアパートでダラダラと過ごす日々。
 そんなある日、甚爾が女の子をつれてきた。びっくりするくらい美人で、目つきの悪い甚爾と並ぶと二度見してしまう。

 少し緊張したような様子の2人に俺もその緊張がうつってしまう。思わず、きちんと座り直した。
 甚爾は手慣れた様子でお茶を淹れてくれる。俺が淹れてくれたお茶を飲んだところで、口を開く。

「…俺、彼女と結婚して、婿入りする」
「そうか」
「お腹に子どももいるから」

 紹介された女の子は幸せそうに微笑む。思わずぽかんと口を開けてしまった。

「まじで?」
「まじ」
「…そうか、お前も親になるのか」

 少し鼻筋がツンとする。あの小さかったクソガキが、もう人の親になるか。時の流れは早いものなのだな。俺も随分歳をとった。
 俺は背筋を正し座り直した。

「こいつのことよろしく頼む」

 俺はそういって頭をさげた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 甚爾の嫁は花の咲くような笑みで微笑んだ。


 それから暫くして甚爾から泣きそうな声で電話がかかる。

「どうしよう、オッサン…!」
「落ち着け、何があった?」
「今、病院から事故に、あったって、どうしよう」

 半泣きの甚爾からどうしたのかと話を聞くと甚爾の嫁が交通事故にあい、病院に搬送されたとのこと。母子ともに危険な状態とのことだった。
 俺は大慌てで車の鍵を掴み、エンジンをかける。法定速度なんて厳守せずに飛ばした。病院に着くと俺の顔を見て安心したのか、ぐしゃりと顔を歪め、ぽろぽろと涙を溢す。俺は肩を抱き座らせた。

「医者はなんて?」
「…赤ん坊をとるか、嫁をとるかって」
「それで…?」
「あいつが、子どもを選ぶって、いったみたいで、それで」

 そこから先はなんとなく察しがつく。もしかしたら2人とも助かるかもしれないが、その可能性は低く、彼女は子どもを選んだ。母親だと思うが、甚爾には彼女しかまだいなきのだ。その悲しみは俺には計り知れない。
 俺は甚爾を抱きしめた。不安で堪らない甚爾は俺の肩を濡らす。俺は優しく背中を押撫でた。

 暫くして、出てきた医者からは深刻そうな顔で、彼女が息を引き取ったと言われた。赤子の鳴き声と共に甚爾の啜り泣く声が薄暗い病院に響いた。
 彼女は頑張ったのだと、医者に言われ、甚爾は更に涙をこぼした。

 生まれた赤子は小さく無垢な存在で、愛おしそうに抱く甚爾にそっと心を撫で下ろした。
 ただ、一つ解せないのが俺のことを甚爾の父親だと医者が勘違いし続けたことである。

 子守歴は長い俺だが、甚爾と2人手探りで赤子を育てることになった。



 甚爾が恵と名付けた子どもはすくすくと育ち、甚爾にそっくりだ。髪質は彼女からなのか少しつんつんとした硬めの髪。
 幼い恵の面倒を見るために、俺と甚爾のどちらかが仕事に行ってどちらかが面倒をみていた。まぁ俺はほぼ家でだらだらしてながら子守りをしていた。

 赤子はよく泣いてよく食べて、ふにゃふにゃしていて、ほんと大変である。俺も甚爾も2人して大慌てだった。
 その時に助けてくれたのが、隣の家に住むシングルマザーの女性で恵の一つ年上の女の子。津美紀という子を育てていた。津美紀は一歳で既にお姉ちゃんをしてくれた。

 俺もふにゃふにゃと泣く恵を津美紀と一緒にあやしていたりもした。津美紀も偶に泣くので、二人が無ければ大変である。
 子どもが2人もいたらおちおちタバコも吸えないし、競馬もパチンコもいけない。それでもとても充実していた。

 だが、ある日、甚爾がまた泣きそうな顔をして帰ってきた。
 俺は恵を抱いたまま問いかける。

「津美紀の母親が…」

 この一言でなんとなく察した。甚爾ら今日、任務で眉をよせた。最近、行方不明事件が発生しており、津美紀の母親もその被害に遭ったらしい。

「甚爾?」
「大丈夫」

 俺は優しくその柔らかな髪を撫でつけた。

 その後、甚爾が津美紀も自身の娘にして俺たちは4人家族になった。これはこれで甚爾のケジメなのかもしれない。

 はいはいを覚えた恵は甚爾に似てよく俺に登ってきて、俺の肩を涎まみれにした。

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