五条の坊ちゃん編
甚爾が高専に行ってすぐの頃。俺に美味しい話が舞い込んできた。なんでも、あの五条の坊ちゃん護衛とのこと。一応、一級術師で子育て経験のある俺に白羽の矢が立ったらしい。正直、子育てといっても甚爾は勝手に育ったので特に何もしていないのに不思議である。
甚爾が4年で出てくるので、それまでならという条件をつけ仕事を受けた。その事を甚爾に告げたら聞いたこともないような低い声でなんでと聞かれて思わず笑ってしまったのはここだけの話。
この五条の坊ちゃんがどれだけ生意気なのかと思っていたが、相当生意気なシケたつらしたクソガキだった。
俺は甚爾の時のように護衛役の式神をつけて、だらだらと過ごす。甚爾の時みたいに学校に行く間は球を打ったり、馬を見てたりしていたら普通に怒られた。護衛としてのうんたらかんたらと言われたがそんなことは知らない。ほっとけよという感じ。これだから頭の硬い本家の奴らは嫌いだ。
五条の坊ちゃんは六眼の性能が良すぎていろんなものが見えてしまうらしい。偶々、パチ屋の景品で交換したサングラスとスナック菓子をあげたら嬉しそうに口角をあげた。
子どもは単純でちょっとものをあげたら懐いた。そんなに嬉しかったのか、子どもは相変わらず不思議な生き物である。
それにしても子どもは何故、寝転んでる人間に登りたがるのか。人が寝転んで漫画読んでいたり、競馬中継見ていたりするとその上にのしかかってくる。
「何?」
「ひま」
「馬でも見てろよ」
そういうとむすっと顔を歪め、俺の顔の前に寝転んでくる。
「五条の坊ちゃん、のけって」
「やだ」
「やだじゃないって」
俺がのけようと身体を起き上がらせるとその前に立ち塞がる。仕方がないので、あぐらをかいた脚の間に座らせる。
「人がテレビ見てる時は大人しくしろって」
「つまんねぇ」
今度はつまんねぇと大合唱。甚爾でもここまで手はかからなかったぞ。流石、五条家のお坊ちゃま。
これではお馬さんを見られないので、消してやると満足そうに笑っていた。
「なんだよお前、かまっちゃんか」
無駄に柔らかいその頬をむにむにと揉んでやる。つるつるしていて柔らかく、触り心地がいい。つい触りすぎていると先ほどまで機嫌がよかったのに、押し退けられた。
こいつは猫か。
子どもじゃなくて俺は白い猫の子守りを任されたのかもしれない。
夏休みに事件は起こる。
俺の足に引っ付いている五条の坊ちゃんと不機嫌ですと顔に書いている甚爾が睨み合っていた。
「なに、それ」
「それって、五条の坊ちゃんだよ」
甚爾は値踏みをするよう眉を顰めた。俺がさわさわと五条の坊ちゃんの頭を撫でてると更に目を細める。
「おい、クソガキ。離れろよ」
「お前に言われる筋合いねぇよ」
「あ?オッサンは元々俺の付き人だっつの。俺が学校行ってる間だけの限定だったしらねぇのか?」
「高校生にもなってまだお守りいんの?」
「んだと?」
甚爾と五条の坊ちゃんは完全に売り言葉。元々相性が悪いような気もするが、それだけではなさそう。
「落ち着けって、甚爾」
「…夏休みは俺だろ」
俺が宥めるとむすっと拗ねたように顔を逸らした。高校生もまだ子どもだなぁと愛らしい。夏休みの間は甚爾の任務の時は俺も一緒に行くし、別にいいだろう。
そのことを告げると五条の坊ちゃんが駄々をこねて面倒だった。
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