02

 その後、悠仁は先に呪術高専に転入した。俺は家のことやら諸々あるので、後から合流することにした。家の片付けと称して、家でダラダラしたり、パチ屋に行ってたのは秘密だ。
 俺が1人ジョ◯ョを読んでいた時。来訪者は現れる。ひたすらチャイムを押されまくり仕方がなく開けると、あの似非教師。

「悠仁の言ったとおり、やっぱりだらけてる」
「なに?」
「なにって、あんまりにも遅いから迎えに来たんじゃん!僕って、最強で超引っ張りだこで忙しいのにわざわざ来てあげたんだよ」

 自分で最強というやつは碌な奴がいない。自称最強は大体主人公に倒されるのである。

「とりあえず、君は僕と今から任務ね!僕のについてきてもらいます」
「え、やだ」
「ダメでぇす、強制参加」

 恐らく今年のウザい人間ランキング1位を記録した。はやくはやくとせかしてくるので、仕方がなくまとめてあった荷物を持ち、戸締りをした。漫画は箱詰めして、送ろう。漫画ないと死んでしまう。

「ねぇ、まだ?」

 人の家で我が物顔でテレビ見てるやつに言われたくないが、俺はコイツよりも大人なので我慢する。ダメ人間より、ダメとかマジでやばいのでは。

「待たせたな」
「おっそぉい」
「うっざぁい」
「じゃ、いこっか」

 俺はこのウザい男に連れられ、長年過ごしたこの家を後にした。思い出が詰まったこの家に、帰ってくるのは次は4年後か。それとも、正月か。もしくは2度と帰ってこないのか。そう考えると憂鬱になる。
 出来れば、2人で戻って来れれば。そんな淡い期待はタバコの煙と共に吐き出した。



 車に荷物を積み込み、約4時間。ついたのは、茨城県の山奥。明らかにいますと主張するようなトンネルの前で止められた。
 そんなに呪霊はいなさそうだが、奥から禍々しい気配だけはする。オドオドした細っこいオッサンから渡された資料に目を通すと、此処はどうやら所謂肝試しスポット。人が行方不明になったとか、連れ去られたとか、ありきたりすぎて反吐が出そう。

「じゃ、僕ここで待ってるから。いってらっしゃい」
「は?俺は付き添いだろ?」
「まぁまぁ、力試しってことで」
「そんなのいらねぇだけど」

 さぁさぁと背中を押されて、トンネルの前に。俺は仕方がなく、ポケットから何枚かの式神を呼び出す。ぽふりと軽快な音をたてて現れたのは無数の蝶。ここまでくれば俺が何をしたいのか、分かってくれる人もいるだろう。

「喰らえ。ティーズ」

 俺の号令と共に蝶はトンネルの中に羽ばたいていく。D◯レに出てきたティ◯が使ってたアレである。食人ゴーレムである。昔アニメ見直した時からずっと使いたかった。試行錯誤を重ね漸く再現できたのである。俺が出せるものに制限はあるがなんとかした。

 トンネルの奥から汚い声が響く。呪霊の呻き声。そして、外に出ようとする足音。近づいてくるのがわかる。田舎の呪霊の癖にそれくらいの知識はあるのか。アレで喰らい尽くしてもらえれば楽だったのに。
 俺はタバコを取り出し煙を味わうように吸いこみ、ゆっくりと吐き出した。例の如くぽわぽわと宙を舞う輪は、トンネルの外に飛び出してきた呪霊に巻きついた。動きが止まるとティーズがその呪霊に群がり喰らい尽くした。
 その様を見ると、俺はくるりとトンネルに背を向けた。

「はい、終わり」
「えぇー、僕が期待してのと違うんだけど」
「残念がるなよ」

 男はにやにやと隠そうとせず笑っている。こんな雑魚に恐らく一級か特級が派遣されるわけないだろう。トンネルから飛び出できた先程程よりも階級が上の呪霊が出てきた。

「そうじくん」

 仕込んでいた式が俺の声に反応して飛び出ていく。そうじくんはその呪霊の喉元に喰らいついた。喉元を食い千切り、再びその牙で、爪で攻撃を繰り返す。
 そうじくんに喰われて暴れていた呪霊は段々と力をなくす。暫くすれば、そうじくんが口元を真っ赤に染めこちらに近づいてきた。撫でろとでも言わんばかりに擦り寄るので、求められるままにわしゃわしゃと頭を撫でてやる。

「もっと慌てふためていよ、倒したと思ったらもう一体出てきたんだよ?期待外れもいいとこ」
「あ?」
「…じゃ、次行ってみよ!」
「はぁ?今何時だと思ってんの」

 スマホを確認すると23時。もうすぐ日にちが変わる。クソ目隠し野郎は、二軒目いこうくらいの軽いノリで行ってきて殺意を覚える。

「俺、疲れたんだけど」
「またまた

 肘でツンツンと突いてくるコイツを無性に殴りたい。我慢だ。無意味な暴力は笑いは産まないと、勇◯学で学んだじゃないか。

 本当に次のところに連れていかれて、3箇所くらい連れ回された。休憩挟んでまだ行くとのこと。当の本人は2箇所目に着く前にこのクソは眠りこけていた。後部座席はコイツの無駄にでかい図体で占領され、俺は助手席。
 そういえば、俺コイツの名前知らない。名乗られたっけ。

「なぁ、伊地知さんコイツ名前なんていうんすか?」
「え、今まで知らずについてきてたんですか?」
「一回だけあっただけだから、聞いてなかった。高専のせんこーってだけ」

 あの時二日酔いで頭痛かったしとは付け加えられなかった。伊地知さんは胃に穴が開きそうなタイプのメガネだ。眼鏡掛け機とは別物。

「彼は…」
「僕は五条悟くんだよ!まさか本当に知らないとは思ってなかった」
「うるさい」

 急に起き上がり、わざわざ自己紹介をしてくる。
 五条悟。どこかで聞いたことがあると思ったらあのシケたツラした五条の坊ちゃんか。随分大きく、というかよく生きてたものだ。この歳まで生きてるってことは随分と苦労してるのだろう。俺が知った事じゃあないが、随分性格も悪く育っちゃって。当主サマにするんならもっとマシに育てろよ。俺が言えた義理はないけどな。
 そういえば、気になっていたことがある。

「そういや、センセーはカ◯シ先生リスペクトで、そんな変な目隠ししてるわけ??」
「違うよ。だって、僕こんなグッドルッキングガイでしょ?僕が素顔晒してたら女の子みんな惚れて任務どころじゃなくなっちゃうでしょ?」

 ドヤァとでも効果音がつかんばかりよドヤ顔で言い放った。自分のことをカッコいいと思ってるのはガチっぽい。これだからイケメンは困ると思わず顔を歪めた。

「カ◯シ先生リスペクトじゃないなら、ただの不審者じゃん」
「僕、目隠ししてもイケメンでしょ?ね、伊知地?」
「は、はあ、そうですね」

 伊知地さんをまさか巻き込んできた。伊知地さんも困ったようにバックミラーから目を背けた。

「え?」
「か、かっこいいです!!」
「伊知地さん困らせてんじゃねぇよ」
「え、僕と伊知地に対して対応違うくない?」
「妥当だろ」

 五条の坊ちゃんは、拗ねたフリをして後部座席に横になった。次の目的地まで後少し、俺は助手席側の窓を少し開ける。タバコを蒸し、煙を外に吐き出した。



 その悲報が来たのは、補助監督が伊知地さんでは無くなった頃だった。このクソ教師は平気で特級がいるところにも連れて行く。特級は前世のこともあるので、あまり戦いたくない。俺のコマンドは常にいのちだいじ。

「名前、すぐ高専に戻るよ」
「は、なんで」
「覚悟して聞いてほしい」

 俺が車のそばで缶コーヒーをお供に一服しているとやけに真剣な声で告げる。いつものチャラけた様子ではない、その声にうっすらと背中に冷や汗が伝う。

「悠仁が死んだ」
「え?」

 思わず手から缶コーヒーがすべりおち、中身は全て地面にぶちまけられ黒く大きなシミを生み出した。

「なんで」
「詳しいことは戻ってからじゃないとわからないけど、宿儺が悠仁の心臓を抜き取ったらしい」
「あの、クソガキ。勝手に1人で死にやがって」

 奥歯がギリギリと音を出す。人様に迷惑かけずに死んだのならと思う反面、ジジィの次は悠仁かと心が波風を立てた。
 俺が放心状態の俺をヒョイっと軽々しく抱える。

「飛ぶから、舌噛むなよ」
「…おぅ」


 されるがままに、気がつけば前世振りの高専である。俺は担がれたまま医務室に連れ込まれると、そこの奥には悠仁が寝ていた。
 穏やかな表情で、心臓のある筈の場所にぽっかりの穴を開けて。ジジィと重なるその様にそっと頬に触れた。

「悠仁…、ほんとお前は…」
「僕、ちょっと行ってくるから。硝子あとよろしく」

 そう告げると上に呼ばれたのか、五条の坊ちゃんは去っていった。俺がじっとゆうじあを眺めていると、後ろから伊知地さんがやってきた。悠仁の任務に付き添いがそうだったらしい。

 俺の今世の半身。馬鹿で素直でいいやつで、憎めない善人。兄貴らしく、保護者面してたのに、なんでざまだ。

「…ちょっと、出てくる」
「え、あ、はい」

 伊知地さんの手が宙をかいたがお構いなしに外に出て行った。俺は餓狼を呼び出してそのふかふかとした毛並みに顔を埋める。
 いくら肉体が若くても、歳なのか。涙腺が脆くなった。俺の目から溢れ出た水がもふもふとした毛並みを濡らす。

「悠仁のボケ」

 優しい餓狼たちは宥めるようにぺろぺろと涙を絡みとってくれる。オッサンにも優しすぎる。

 こんな仕事だ。仕方がないと思う、今までだって何人もの仲間も亡くしてきた。同期も死んでいる。殆どを甚爾の子守をしていた俺と言えど、働く時は働いていたのである。(えらい俺)
 そんな時はこんなふうに思わなかったのに。

 人の気配を感じ、そちらを振り向くと甚爾がいた。あの目つきの悪い目で心配そうに眉を下げこちらを見ている。おもわず、伸ばしそうになる手を止め、コイツが甚爾ではないことを思い出す。
 ほんと、にすぎだ。

「大丈夫か?」
「…あぁ、覚悟してたからな」

 俺は目を擦り、式神を戻し立ち上がった。彼は確か同期か。アイツに似て優しくて真面目な子なのだろう。五条の坊ちゃん曰く、彼がなんとかしてくれと頼んだらしい。あったばかりの悠仁を見過ごせなかったのだろう。
 俺よりもコイツの方が心配だ。

「よくあることだ、お前も気にすんな」

 くしゃりとその頭に触れた。見た目の割に触り心地は当時とそっくりで、懐かしくなる。癖でつい撫でてしまったが、別人。思わず手を逃した。

「わりぃ、俺行くわ」
「あ、あぁ」

 戸惑ったような声にやはり他人に撫でられるのは嫌だったかと改めて思う。きっと、甚爾ももういない。だから、そっくりなアイツに重ねてしまう。アイツにも失礼だな。



 その後ふらりと街に繰り出し、居酒屋を点々とし気がつけば、公園のベンチで眠っていた。

 重い頭を持ち上げ、悠仁が寝かされてるところに帰ると中から声が聞こえ、扉の前で足を止めた。その内容は上の腐ったジジィ共が悠仁を殺す為にあの任務に派遣したということ。外で聞いているだけのつもりだったのに、つい口を挟んでしまう。

「…なぁ、その話ほんとうか?」
「おそらくね」
「そうか…、じゃあ、俺ちょっと出てくるわ」

 中にいた3人が不思議そうな顔で俺をも見つめてくる。

「…どこ行くつもり?」
「あ?んなもん、ドラ◯ンボール集めにだろ。上の腐ったクソジジィどもの禿頭を7つ集めればシェ◯ロンが現れて、蘇えらせてくれるんだろ?」
「ちょっと、落ち着いて!そんなので、現れるものなんて碌でもないやつだから!!」
「なら、ズルズルボールか?それともヌメヌメボール?あれは願ったものがズルズルになるから嫌なんだけど」
「そう言う問題じゃなくて!」

 俺だけじゃなくて、あのクソジジィ共は家族にまで手をかけたのか。これは詫びとして、その首を頂くしかないだろう。
 俺が医務室を飛び出して冒険に出掛けようとしているのを五条の坊ちゃんが必死に止めている。お前も先程までキレていたじゃないか。

 全員の視線が俺に向いている時、この部屋からする筈のない5人目の人間の声がした。

「え、今どういう状況?」
「は?」

 そちらの声に振り向くと、心臓を抉られ死んでいた筈の悠仁がキョトンとした表情でこちらを向いていた。

「おわっ、フルチンじゃん」

 随分とら間抜けなことを言っている。ドラゴ◯ボールも使ってないのに生き返った。その事実に腰の力が抜ける。

「名前、ただいま」
「こんっの、心配かけ冴えやがって、クソガキが!!」

 へらりとそう言いながら笑いかけてくる。俺は腰に力を入れ立ち上がり、悠仁のもとに駆け寄った。そして、その勢いのまま思いっきり頭突きを繰り出した。

「いった!なにすんの!?」
「うるせぇ、ボケ」
「まぁまぁ、名前、本当に落ち込んでたみたいだし」
「余計なこと言ってんじゃねぇよ」

 俺の肩に手を置いて呑気にそんなことを言ってくるそいつの手を払った。むず痒い視線があちこちから俺に刺さる。俺は思わず顔を背けた。

「まぁ、あれだ。おけーり、悠仁」
「おう!」

 にかっと花でも咲くような能天気な笑顔で悠仁は返してきた。


 その後、五条の坊ちゃんが決めたことにより悠仁は表向きには死んだこととなり、俺は本格的に高専の寮に引っ越してきた。部屋は悠仁の隣。
 俺の記憶よりも全然綺麗な部屋で、ちょっとしたキッチンまであった。途中で甚爾にそっくりな子、伏黒恵を紹介された。悠仁がまだ死んだと思っている恵はきゅっと眉を下げて、心配そうに見てきた。
 とりあえず、その頭を乱雑に撫で回し「大丈夫」とだけ言っておいた。甚爾に似てるのは困る。今は同い年なのに、つい子ども扱いしてしまう。
 同級生の釘崎には簡単に自己紹介はしておいた。悠仁の兄というと気まづそうに視線を逸らされたので、コイツの心にも相当きたのだろう。悠仁は善の塊のような男だから仕方がない。

 悠仁は呪力が上手く使えないので、隠れて呪力を使う練習。俺は例の如く任務に駆り出され、五条の坊ちゃんと体術の練習。空き時間にギャンブル。呪具が何個か欲しいと言ったらくれたので、さすが金持ちだと思う。出世払いとか言われたけど、知らんぷり。

 俺がいた時からあった物も何個からあり、剣もあったりする。これだけあるのだから、斬◯刀の一振りや二振りあってもいいのではないだろうか。
 ティーズに何個か食べさせてやっていると変な目で見られた。ティーズは生き物しか消化しないので、固形物はそのまま飲み込むのである。

 なるべく式神で倒してしまいたいが、接近戦に持ち込まれたことを考えて呪具も何個か持っていくと安心。手榴弾も何個か仕入れた。爆薬と呪いを込めた俺の前世の死因。強い分巻き込まれると即死。
 そういえば、俺が昔持っていた呪具はどうなったのか。爆死したときに消えたのだろう。お気に入りの刀があったので少し残念.昔使っていたのは甚爾に誕生日プレゼントに強請られてあげちまった。(5億のプレゼントは高すぎないか)

 新たに手に入れていた刀でバターのように呪霊を切れる。使いやすいが、卍◯は使えない。一回言ってみたがうんとすんともしなかった。



 俺は自他共に認めるダメ人間である。基本理念は働きたくない、楽して生きたい、一生遊んで暮らしたいだ。
 だから今の生活は異常だった。任務にいって、手合わせ。それの繰り返し。しんどい思いなんて前々世でもう十分にした。

 つまりは、俺は手合わせをばっくれたのである。それも一度や二度ではない。一週間くらい。任務はほぼいってる。たまに迎えに来てもらったけど。

 手合わせは別だろう。
 五条の坊ちゃんがどれだけ強かろうと、俺とアイツらではかける想いもバイタリティも違う。俺は悠仁ほど真剣に強くなりたいと思わないし、死なない程度にそこそこの敵を楽に倒せればそれでいい。だから、前世でも甚爾が本格的に呪術師を始めるまで三級で留まっていた。五条の坊ちゃんは俺たちを自分に並ぶ強い仲間にしたいらしい。普通に無理だろう。前世で子守と称しサボっていた男に何を求める気だ。

 手合わせをサボっても忙しいだろうから、いい休暇になるだろう。俺がサボることはやる気がないとみなして、ぜひ、見放してほしい。放っておいてほしい。

 そうたかを括って今日も今日とて街に繰り出した。
 だから、なぜ、コイツがここにいるか理解できない。パチ屋で球を打つ遊びをしていたら、急に肩を叩かれた。何か落としたのかと振り返ったのが運の尽き。

「僕との約束すっぽかしてこんなとこで何してるの?」

 まるで面倒な彼女のようにそう言ってきた。ただ、その風貌はサングラスにラフな格好。オフの日のヤクザだ。
 俺は見なかったフリをして、スッと前に向きハンドルを握った。俺が無視したのを理解するとひたすらと頬を突いてくる。頬に風穴が開きそうだ。俺をジャンケン小僧にする気なのか。

 しばらく無視を続けると浮遊感を覚える。軽々と体が持ちあがったのである。そして俵のように肩に担がれ、外に向かった。暴れるもびくともしない。

 外に持ってこられると路地裏に連れ込まれる。これは本当に洒落にならなくなってきた。乱雑に下され、尻餅をついた。

「なんで、サボったの?」
「…面倒くさくなったから」
「僕から直々に教えてもらえる機会なんてまずないよ?この機会生かさないと」

 真剣な様子でそう言い放った。

ーーそんなの知っている。

 俺はゆっくりと口を開いた。

「…友情努力勝利ってあるだろ?俺、漫画の中ではそういうの好きだけど、リアルに持ってくるのは違うと思うんだよ。友情もちょっとしたことで崩れるし、頑張っても報われないことはある。その先に勝利って何?ってならねぇ?」

 五条の坊ちゃんには悪いが、俺に割いてくれた時間は無駄だったんだよ。漫画みたいにみんながみんなちゃんと生きるわけじゃない。
 俺のようなクズだって一定数いる。
 この歳になるまでどんな地獄をみてきたのかは知らないが、こういう人間もいるのだ。

「まぁつまり俺は、努力はしたくねぇし、楽して生きたい。一生遊んで暮らしてぇ。…だけど、現実はそうはいかないから、ある程度稼げて、遊べるのを選んだわけ」
「じゃあ名前はお金さえ積まれたら呪詛師にもなるの?」
「ならねぇけど。自分のことで精一杯なのに、他人のこと呪う余裕なんてあるわけねぇじゃん。そんなクソめんどいことに労力使いたくねぇ」

 六眼が俺を見据える。あまりにもまっすぐ見られ、思わず目を逸らした。

「名前はバカなの?」
「は?」
「だって、楽したいっていうくせに任務はちゃんと行ってるし、悠仁の面倒も見て、高専まできたでしょ?矛盾してない?」

 そういわれてみれば矛盾はしているようにも思う。でも、それは当たり前のことだろう。俺がギャンブルにのめり込むように、当たり前のように四半世紀やってきたことだ。
 悠仁の面倒を見るのは親代わりの俺の役割だろう。もうジジィもいない。最低限でも見るのが筋だ。悠仁も甚爾も放っておけば成長した。偶に手を貸すだけでいい。
 俺が頭を捻っていると、再び浮遊感。今度は猫のように首元を掴まれた。

「ま、いっか。取り敢えず、サボった分しっかり鍛えてあげるね」
「…クーリングオフしていい??」
「受け付けてませーん」

 なぜか諦めてくれなかった五条の坊ちゃんにそのまま止まっていた車に投げ入れられた。
 その後、本当にサボった分、むしろサボった分以上に稽古をつけられた。その反動で俺はまたサボり、捕まりを何度か繰り返すことになった。




 先日から五条の坊ちゃんが海外出張中で、稽古もなく、だらだらと日々を過ごしていたし、過ごせるはずだった。
 そのはずなのに、俺はだるだるのTシャツに、スウェット、履き潰したサンダルというかなり場違いな格好で教員用の見物席にいた。

 俺が二度目しながら、パチ屋行って居酒屋でも行こうかと頭の中で考えつつ、三度寝の準備に入ろうと横になり瞼を閉じようとしたころをベットの横に五条の坊ちゃんが立っていた。思わず体を置きあげた。

「不法侵入!!」
「名前、お仕事だよ」

 よくよく気配を探ると外の様子が騒がしい。五条の坊ちゃんがいれば充分だろうと寝転ぼうとすると捕まり、起きあげさせられる。

「今、呪詛師がいてさ。おじいちゃんにカッコつけさせるのはムカつくからサクッとやってきてよ」
「は?」
「あ、殺しちゃダメだよ」

 そう言って軽々抱え、俺を何故か貼ってある帳の上から落とした。おとしたのである。ベットからわずか数秒の出来事。俺は落とされた。

「後で絶対殴る。さかもとくん!」

 さかもとくんを呼ぶと脚に捕まり下を拝むとハゲたロックなジジィとハゲが戦っている。取り敢えず、ハゲだな。
 脳天目掛けて上空からの踵落とし。

「イキのいいのもいるじゃねぇか!ハンガーラックにしてやる」
「あ?てめぇがハンガーになるんだよ!ジャ○プグッズの醍醐味はイケメンキャラがハンガーになることだろ!?ハンガー川さんなめんな」

 さかもとくんを引っ込め、餓狼を出そうとしたところで殺しちゃダメと言われたのを思い出した。仕方がないので、腹の中から刀を抜き出す。
 そのまま鞘から抜くと、ラックラックうるさいクソハゲの腕を切り落とす。汚い叫び声をあげるので、口の中に手榴弾をねじ込んであげた。
 その時帷はあがり、俺をおとした張本人が立っている。

 前のハゲジジィは獲物を取られたからかめっちゃこちらを見ている。

「名前、トドメ刺しちゃダメだよ」
「へーい」

 呻き声をあげている男を椅子に座り込む。ぼーっと空を見上げる。早く終わらないかなぁ。
 ポケットからタバコをと思い探るが、部屋に置きっぱなしにしていたことを忘れていた。



 その後、五条の坊ちゃんがサクッとやってくれたらしい。終わった後生徒全員は全員ぼろぼろだった。ご愁傷様。
 俺は捕まえたことは誉められたが、腕を切り落とすのはやりすぎだと怒られた。

 恵は中でも重症らしいが、ほかの3人が見舞いに行っているので大丈夫だろう。おきたくんまた調整したほうがいいだろうか。甚爾仕様から少し緩めたのだけれど。
 どあの外からちらりと見るが、頼れる仲間がちゃんといるみたいで安心した。

 取り敢えず、俺はお昼寝でもするかと足を翻そうところで中にいた悠仁と目があってしまう。気が付かないふりをしてそのまま、帰ろうとしたら普通に捕まった。

「これ!俺の兄貴!」
「知ってるわよ」

 幼稚園児が出来たばかりの弟を紹介するようにいわれてしまい眼を逸らした。知ってると言われ、えっという目でこちらを見てくる。俺をなんだと思っているのだ。

「え、いつ?」
「お前が死んだふりしてるとき」

 悠仁は、あーという表情をしてた。その間、2人からすごく痛い視線が刺さる。おそらく、悠仁が死んでないことを知ってたことなのかと思う。2人には気を使わせてしまった。

「なんか、ごめん」
「…タピオカ」
「は?」
「原宿のタピオカミルクティ」
「この前出た小説の新刊」

 2人が急に何かを言い出した。俺は頭を傾げる。

「詫びとして買ってこいよ」
「まじ?」
「気を遣わせた代」
「しゃーねぇなぁ…」

 思わず頭を掻き、今財布にいくら入っているのか考えていた。この前、お馬さんですったきもする。

「悠仁は?」
「ハンバーグ!」
「へいへい」

 悠仁だけあげないのも違うだろう。それにしてもハンバーグか…。食べ盛りだからめっちゃ食べるし、甚爾の時は後で金返してもらったからなんとかなったが、今は別。自腹だ。野菜か、お麩か。豆腐でかさ増ししてもいいけど、あっさりしすぎるんだよな。
 悠仁が嬉しそうに抱きついてくるので、その頭をわしゃわしゃしていた。

「ブラザーの兄貴は料理もできるんだな」
「そうなの!めっちゃうまい、の!?」

 そこには先ほどまではいなかった顔に傷があるでかいゴリラ。それが、悠仁のことを親友と書きブラザーと読んでいる。

「悠仁、おまえ、いつのまに?」
「違う!ちがうって!あの時の俺はなんかおかしかったの!!」
「何をいう!俺たちは中学では地元じゃあ負け知らずだったじゃないか!!」

 俺の記憶には中学時代にあんなゴリラはいない。いなかったと思う。
 悠仁は開きっぱなしの窓から逃げ出し、それをゴリラが追う。

「はっ!新手のス○ンド使いの攻撃か!?俺の記憶が改変されている…?」
「いや、違うでしょ」

 俺の名推理を釘崎にばっさりと切られたのは少しショック。こんなことがあるのはス○ンド使いの攻撃しか思えなかった。

 俺は気を取り直し、外で元気に追いかけっこをしてる悠仁に声をかける。

「悠仁、買い出し行くから荷物持ち」
「おぅ!」
「恵と釘崎も食ってくだろ?」

 俺はそう言い笑いかけた。
 食べ盛り4人分はしんどいので、財布係を連れて行くことを決意した。

 その後財布係を連れ、俺と悠仁、釘崎でスーパーで豪遊し、料理も手伝わせてあげた。
 俺は本当に優しい。

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