01

 肉体から離れた魂は当たりを漂い生まれ変わる。魂に刻まれた情報が蘇るのことなど滅多にないことだろう。そんな魂がぽんぽん存在したら大変なことになる。
 だから、俺のパターンは実に稀。2回目の転生で記憶を持っていた。全てはあの時代を生きた神たちのおかげ。ありがとう。

 今回は記憶が戻るのがかなり早かった。6歳くらいの頃には戻っていたし、ゴールデンタイムにいっぱいジャ○プ作品をやってくれていたので幸せだった。個人的にD○レは深夜アニメ枠だと思うけど、やっぱり規制が緩かったんだなと鼻くそをほじった。
 小学生の小遣いで、毎週ジャ○プを買うのは至難の業だ。だが、ここは年の功を生かし、弟を丸め込み折半にまで持ち込んだ。ほくほくしていると弟が仕方がないなぁと言うよな目で見てきた。

 今世の俺の家族はこの弟と祖父だけ。頑固ジジィが交通事故で生き残った双子を引き取った。家事は俺と弟の持ち回り。子育て経験がここで生かされてしまった。
 正直なところ俺よりも弟の方がしっかりしてるから別に頑張る必要はない。魂に染み付いたダメ人間根性が今も健在だ。

 魂に染み付いたのはダメ人間根性だけでなく、呪力もだった。幼い頃から普通に見えたが、何十年も見ていたソレに今更ビビるようなものでもない。術式も使えるが、これ頑張れば岸辺○伴的なアレができるのでは無いかと精進してる。俺もヘブ○ズドア使いたい。

 好き勝手に過ごしていたら気がつけば高校生。今の高校はかなり校則は緩いが、うちは絶対に部活か同好会に入らなければならないという決まりがあった。ジジィのこともあるし、あんまり時間が取られるのは困る。
 弟は運動神経がすこぶるいいから、運動部入ってもいいと思ってた。俺がなんとかする。だが、この善人な弟クンは俺の意思を丸っと無視。オカ研なんぞに入りやがった。オカ研は無害だが、学校にあるものに手を出すのはヤバいのである。

 部室の窓から見えるそのヤバいものに見やり、げぇっと舌を出す。我が校の百葉箱には、何故か特級呪物と呼ばれる物が封印されていた。最近は封印が緩んできているのか、経年劣化のせいで呪霊がその気配を感じ取って集まってきている。払っても払ってもキリがなく、ゴキブリかとおもった。
 とっとと、本職が回収しに来いよ。

「クロ氏、どうしたました?」
「あ?んでもねぇよ」

 ちなみに、俺が所属するのは漫研。漫画読み放題なのに引かれて入部した。入部届を持ってきた時には、ビビられまくり。ヤンキーが、オタクに絡んでるみたいないになったのが本当にウケる。
 まぁ、そこは俺の数十年のジャ○プ歴を見せつけ、入部を許可してもらったのだ。任せろ、カメ○メ派の打つ練習なら誰よりもやっている。

「病院あるし、俺先帰るわ
「把握」

 俺は何も入っていない鞄を肩にかけて、部室を去った。帰り際、俺のよく知った気配が近づいてくるように感じた。気の所為だろうか。


 ジジィが入院してる病室につくと、ジジィはとりあえずと言わんばかりに悪態をついてくる。この頑固ジジィは昔からこうだから慣れたものだ。それでも、本当に嫌なわけではなく、嬉しいのだろう。俺らのこともきっと好きだ。でないと孫2人を高校まで育てようと思わないだろ。

「おい、ジジィ。なんかいるもんは?」
「なんもないわ、とっとと帰れ」
「たっく、帰るっての。なんか、ありゃあ連絡しろよ」

頑固ジジィにそれだけ言うと、俺はカバンを持ち立ち上がり、病室を後にする前に振り返る。

「あ、明日は悠仁がくるってよ」
「こんでいいと伝えとけ」
「へいへい、精々くたばんなよ。クソジジィ」
「心配される筋合いはないわ、クソガキ」

 俺はそれだけ言うと病室を後にした。スマホには友だちから麻雀やらないかと誘いの連絡。それにいくと返信だけして、帰宅した。
 今日の飯の当番は俺だったな。今日は青椒肉絲でいいか。
 さくっと料理を作り終わり、悠仁に今日友だちの家いくから飯置いとくから食えとだけ連絡を入れる。俺はスマホと財布だけ持って家を出た。



 翌日。嫌な胸騒ぎがして目を覚ます。時刻は15時。辺りには空き缶とタバコの吸い殻。他の3人は床で寝ている。完全に学校すっぽかした。昨日寝たのは何時だっただろうか。朝日は登っていた気がする。
 固まった体を解すように伸ばすと、よく知った感覚を感じた。それは甚爾につけたはずの式神の気配。しかし、2匹つけた筈なのに、1匹しかいない。俺の勘違いかと頭を捻る。
 今はそれよりも胸騒ぎの原因を突き止めよう。俺は未だに寝ている奴らを起こさなように友だちの家を後にした。

 俺が行き着いた先はジジィの病院。病室の扉を開けると、悠仁とジジィが不思議そうに見てきた。

「あれ?今日、違うくね?」
「…うるせぇなんとなくだよ」
「1人でも煩いのに、2人もこんでいい」
「せっかくきてやったのに」

 俺は椅子を引っ張り出し、腰を下ろし悠仁をみやる。悠仁から昨日はしなかった禍々しい気配を感じる。例の呪具と同じ気配。後で聞こうと、身体を伸ばした。

「名前、悠仁。オマエらは強いから、人を助けろ。手の届く範囲で救える奴は救っとけ。迷っても感謝されなくても。とにかく助けてやれ。オマエらは大勢に囲まれて死ね。俺みたいにはなるなよ」

 ジジィは突然そういった。静寂が訪れる。

「やだね、自分の死に際を決めれる奴は強い奴だけだ。…俺はそんなに強かねぇよ。…死に際にカッコつけんなよクソジジィ」

 いつもならここで反論してくるはずだった。憎まれ口を叩かれるはずだった。それなのに、なぜ、返してこない。

「じいちゃん?」
「おい、クソジジィ」

 その一瞬だけ時が止まった。それが果たして1秒なのか、1分なのか、1時間なのかすら分からない。しかし先に動き出したのは、悠仁だった。ナースコールを押すも涙を堪えるように上を向き、下唇を噛む。
 慌てた様子の看護師達の声だけが聞こえる。俺はその手からナースコールを奪い取り告げる。

「…ジジイが。……祖父が息を引き取りました」

 悠仁の抱き寄せた。肩が冷たくなるのを感じる。俺の頬も自然と頬が濡れた気がした。


 あの後、悠仁はひとしきり泣きジジィの荷物をまとめさせる。俺は指示に従って書類に記入していく。
 俺の頭には今後どうするのかでいっぱいだった。正直ジジィが残した貯蓄はあるものの、葬式をしてやれるほどの金はない。ジジィも葬式はしなくていいといっていたので、後は火葬して埋葬。
 せめて悠仁には大学に行ってもらいたい。その為には俺が出戻りするしかない。呪術師に接触して高専に入れてもらうか。呪術師は面倒臭いがその分金になる。働きたくないが、未来のある若人の為。人生3回目のお兄さんが一肌脱ぐか。

「本当に大丈夫?」
「大丈夫っすよ、俺ら1人じゃないし。2人いりゃあなんとかなりすよ」
「後は笑ってこんがり焼きます」
「言い方…!」

 看護師の人が心配そうにしているも、俺らは顔を見合わせ笑った。こいつに心配はかけさせねぇ。
 そう思っていた、だが悲しきことに不幸は連鎖する。

 よく見知った気配を感じ、そちらを振り向く。
 黒い髪に黒い瞳。まるで生写しのような顔立ち。しかし髪質がツンツンとしており、アイツの髪質は寝癖すらつかないサラサラのヘア。見た目も俺の記憶と同じくらい。今生きているなら、アラサーくらいだろう。それだけで、別人であることを理解させる。

 俺がつけた式神もおきたくんだけでひじかたくんは居ない。ひじかたくんは最後の最後でしか出てこないように調整した。ひじかたくんがいないといことはきっとそういうことなのだろう。
 優しくて生真面目なあのクソガキは未来に託したのだろう。長年一緒にいると似てくるとは言うが、そんなところまで似なくていいのに。あのクソガキめ。
 その事実を噛み締め、胸の奥が締め付けられる。


 人が感傷に浸っていると悠仁がジジィの荷物が入っカバンを渡してきて、駆け出した。

「わりぃ!俺ちょっと行ってくるわ!」
「はぁ!?」

 全く何も話を聞いていなかった。式の気配で行方を追う。行っているのは学校の方面。ジジィが死んで、悠仁に残っていた残滓のことをすっかり忘れていた。あの呪具に関係することか。駆け出す辺り本当にヤバいのだろう。
 俺は外に出ると式を呼ぶ。ぽふんと音を立て現れたのは黒い子犬。

「へいすけくん。これ、家まで運んでもらえるか?」
「わふっ!」

 小さくもふもふしたへいすけくんは鞄を加えると、駆け出すとすぐに姿を消した。へいすけくんは俺の式神の中で愛玩系の護衛用わんこ。幼い時に悠仁につけていたものである。吠えると姿を消す可愛い子犬である。

ーーークソ面倒臭いことに首突っ込みやがって。

 俺はタバコを蒸し、ため息と共に煙を吐いた。そして、再び別の式を呼び出した。現れたのは人を乗せられるほどの大きな鷹。恐ろしい印象はあるが、心優しく穏やかな子である。名前はさかもとくん。

「さかもとくん、学校までよろしく」

 さかもとくんはひと鳴きすると飛び上がった。俺は飛び上がったさかもとくんの足に捕まり、そのまま学校まで運ばれていった。さかもとくんが臭そうに顔を歪めた。




 俺が学校に着いた時、弟の気配は別物になっていた。あのヤバい呪具と混じり合った感覚。上から様子を見ていたが、完全に取り込まれてはいないようで、むしろ抑え付けたみたいだ。俺の弟はドンドン化け物になっていく。
 さかもとくんにそっと、悠仁達の近くに下ろしてもらう。2組の目と目があった。俺はゆっくりと煙を吸い味わうと、そっと吐き出す。俺が作った煙の輪は悠仁に絡みつき、動きを封じる。

「なぁ、悠仁。変なモン拾い食いすんなよ、犬かてめぇわ。…余計なモン喰いやがって、後先考えやがれよ」
「名前…?」

 俺はさかもとくんとへいすけくんを引っ込める。紙は俺の手元に収まる。俺はまた別の紙を取り出し、顕現させる。
 コイツが今を抑え込めていても抑え込めなくなる時が来る。その時に、困るのは殺されたヒトではなく悠仁自信。人一倍優しく、良い奴だから人の死を背負うのは荷が重過ぎる。
 そうなる前に俺が。

「…お前が人様に迷惑かける前に俺が殺してやる。安心しろ、お前を殺したことを背負って生きてやるからよ」

 俺の後ろに現れた狼達が低い唸り声をあげる。こいつらは前の時に使っていたものをイメージをして作った。
 悠仁は目を丸くし、アイツのそっくりさんも同じように丸くする。あのクソガキも同じ表情してたっけな。
  悠仁が困惑したように目線を動かし、ゆっくりとその紋様が姿を消す。

「…喰らえ、餓狼。エサの時間だ」

 それと同時に腹を空かした狼達が悠仁に襲いかかる。俺はその様を見つめながら、タバコを蒸した。
 しかし、狼達が悠仁に近づき噛みつく直前で止まる。狼の間にそっくりさんがその間に入っていた。

「退けよ、クソガキ」
「お前こそ、なにしてんだよ」
「あ?てめぇ、頭ん中腐ってんのか。今殺すのが最善くらいわかるだろ」

 苦虫を噛むような顔をする。ソイツもきっと分かっている。わかっているからこそ、俺の前に立ち塞がる。
 アイツと似た顔してるのが本当に腹が立つ。強く出られねぇだろうが。俺は思わず奥歯を噛んだ。

「今どういう状況?」

 俺が苦虫を噛み潰したように眉を顰めた時、その男は突然現れた。思わず、後ずさる。男と目が合ったような気がし、俺を値踏みをされる。俺は頭を掻きむしり、煙を吐いた。

「…あー、もういいや。うん、めんどくさくなった。帰っておいで」

 コイツはたぶん、この中にいる呪術師の中で一番の格上だろう。俺が出る幕もないと判断だ。
 正直、ここで悠仁を殺さなければ後は呪物に飲み込まれるか、クソジジィ共に殺されるか、オモチャにされるかだろう。結果は後で考えれば良い。それに俺が今コイツを殺そうとしてもこのカ◯シ先生もどきは邪魔をする。
 なくなりかけたタバコを靴底で消すと、俺はさかもとくんを出した。

「じゃ、俺、帰っから」
「はぁ!?」

 ばさりとさかもとくんがホコリを舞わせる。俺は飛び立つさかもとくんの脚に捕まり、そのまま飛び去った。
 恐らく、あの目隠し野郎が俺を逃したのはすぐに見つけられるからだろう。クソ面倒臭い。さっきまでの俺の決意を返しやがれクソッタレ。

ーーー酒!飲まずにはいられないッ!

 頭の中でディ◯がそう言った。



 次の日。
 俺は猛烈な頭痛と吐き気に襲われていた。外の様子の確認しようとカーテンを開けると朝日が眩しすぎ、目が痛くなり、思わずカーテンをしめた。久々にかなりの式神を呼び出したからなのか。

 頭がガンガンする。
 動く気力もなく、その場に倒れると悠仁が顔を出きてきた。

「名前?大丈夫か?」
「へーき」

 俺は倒れながらひらひらと手を振った。
 昨日あんなことをしたのに、普通に振る舞ってくる辺り善人すぎるのか、ただのアホなのか。ただのアホだろう。
 起き上がる気力もないが、今日はジジィの火葬。なんとか、起き上がり、ふらふらと立ち上がった。

 リビングに行くと悠仁があさりの味噌汁を作ってくれていた。

「あんがと…」
「昨日どれだけ飲んでたの?」
「覚えてねぇ…」

 味噌汁を飲みながら、項垂れていると悠仁は仕方がないような顔でこちらを見てきた。

「今日、昼からだからな」
「…おぅ」
「俺用事あるから先行くけど、ちゃんとこいよ」
「…おぅ」

 やれやれと言った感じで悠仁は立ち上がり、家を出て行く。
 きっと、今、悠仁が生きているということは恐らくあの呪術師になにか言われたんだろう。宿儺を全部取り込んで殺すとか、実験体にして殺すとか、ほんとう趣味悪い。ただ、すぐに殺さないあたりあのカ◯シ先生もどきがなにか手を回したとしか思えない。
 俺はぐっと伸びながら天井をみあげた。


 頭の痛みもだいぶマシになる頃には、ジジィの火葬。随分と穏やかであのジジィに似合わず笑ってしまう。炎の中に入っていく。
 ジジィが骨になるまで、喫煙室でぼーっとタバコを蒸していた。田舎に未成年を注意する大人なんてそれほどいない。俺はただ口から吐き出されるだけの煙を眺めた。

「未成年が喫煙なんていけないんだよ」
「…バレなきゃいいんだよ」

 俺に声をかけてきたのはあの変質者。しれっと俺の隣にやってくると、「くっさ」とか言ってくる。なら入ってくるなよという言葉を飲み込んだ。

「なんのようっすか、不審者」
「なんのようなんてわかってるくせに、このこの
「…うぜぇ」

 鬱陶しすぎて思わずゲェッと舌を出した。

「まあいいや。君も今度から呪術高専ね。君が今まで見つからなかったのがおかしいくらいんだよねぇ?」
「お前らの目が節穴だっただけなんじゃねぇの」
「クソガキ」

 どうせ、それが目的なのは知っている。それ以外で俺に話す理由がないだろう。

「なんで、今まで黙ってたの?君くらいの年頃の子なら周りに言いふらしたいでしょ?」
「弟に見えねぇもんを言いふらしてどうすんだよ」
「弟想いだねぇ」
「…ほっとけ」

 俺はタバコを吸い殻に押し付け、禁煙室から出て、ジジィが入った火葬炉の前に辿り着くと壁に体を預けた。暫くすると悠仁もやってくる。

「…名前、俺」
「別に言わなくていい」
「聞いてってば」

 悠仁はこちらを向き、視線が刺さる。あまりの痛い視線にそちらに目をやった。悠仁はゆっくり口を開く。
 悠仁からは呪物を食べたこと。宿儺の指を20本食べることになったこと。今度から呪術高専に通うことになったこと。
 最悪自分が死ぬということをぼやかさられた。そんくらい知ってるっての、バァカ。

「…名前は?」
「ガキんときから見えてたし、使えてた。それだけ」
「言えよ」
「見えねぇやつに言っても意味ねぇだろ」
「それもそっか」

 悠仁はそれだけを言い前を向く。こんな事実をそっかだけで済ませられる悠仁も相当イカれてやがる。
 暫しの沈黙の後、ジジィが骨となってでてきた。無駄に長い箸で小さなジジィの骨を骨壷に収めていく。あのジジィでもこれだけの大きさになるのか。

ーー随分と小さくなりやがって、クソジジィ。

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