04
side other…
禪院甚爾にとって、彼は唯一無二の存在だった。幼い頃から自身の世話をしてくれた唯一の大人。ダラダラと生きており、パチンコに行くか、競馬にいくか、家でダラダラとしてるかのダメ人間っぷり。たまに1人で騒いでると思ったら漫画の必殺技の練習をしていたこともある。
正直、こいつもどうせと諦めていたが、この大人は甚爾にとって変わった大人だった。彼自身を腫物扱いせずに唯一の人間として接してくれる。悪いことをしたらダメだと叱ってくれるものの、ちょっと悪いことも教えてくれた。
学校行事も彼しかこなかったし、ご飯を作るのも送り迎えをするのも、一緒に過ごすのも彼だけだった。
ダメ人間っぷりは見習いたくはないけれど、これが唯一の大人。彼を反面教師にした結果、たまに真面目すぎんだよと笑われるのにも安心していた。
ずっと長く一緒にいすぎた。
その存在が当たり前だと思っていた。
真っ白の棺桶で下半身をなくし、上半身の殆どに火傷をおっており、見るに耐えない姿をしている。
ーーもう、俺にご飯を作ってくれないのか。
ーーあの約束はどうなるんだよ。
思いだけが溢れだして止まらない。
棺桶に張り付いていたのは、甚爾だけではなく、彼の両親もだった。
後ろの方から参列者たちがクスクスと笑い声が聞こえる。
「…これで目障りなものがいなくなった」
「……ほんと、アレがいなくなって、よかったわ」
クスクスくすくす。
大人たちの嫌な声がこだまする。
甚爾が殴りかかる前に、彼の父親がその大人たちを血祭りにあげていた。葬式の会場が喧嘩会場に早変わり。父親の式神が大人どもを襲い、真っ赤に染めていく。
誰も止めるものはいなかった。
ーーーははっ、ザマァねぇな。
その時、甚爾には自身の棺桶に腰掛け、タバコを吸い、祭りの様子を嘲笑う男の姿がみえた。
その後、甚爾は高専を辞め、女の家を渡り歩き、呪術師殺しと呼ばれるようになった。
ーー呪術師はいつも俺から奪っていく。
ーー俺の大切なものを。
ーー与えられるはずだったものを。
どうか、こいつは奪われないように。恵まれた人生を歩んでくれ、そう願いを込めて、名付けた。
小さな声で、子どもの頃からの相棒の名前を呼ぶ。
「…恵を頼んだ」
それに応えるように遠吠えが聞こえた気がした。
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