01

 夢を見た。懐かしい夢。
 俺がまだ苗字名前ではなかった頃の話。

 桜の花びらは散り、葉桜になった頃。俺は呪術高専への門を叩いた。家の方が少しゴタゴタしており、父さんが落ち着くまで遊んできなさいと送り出してくれたのである。黒い詰襟の制服はちょっと窮屈だったので勝手にカスタマイズさせてもらったが、気にしない。皆んなしてるって父さんいってた。日本人はみんなと一緒が好きで、そうしてたら問題ないと。

「苗字名前。あだ名でもなんでも好きに呼んでよ」

 そう言い笑ったが、1人は無表情で、1人は「よろしくね!」と元気よく返してくれる。この3人で後4年間を過ごすのか。ちょっと楽しみになってきた。俺の胸の高鳴りに共鳴する様に草木が揺れる。

 俺の同級生の七海は真面目で、良くも悪くも日本人タイプ。優等生という言葉が似合う、ちょっと捻くれた奴。なんだかんだで、俺らの面倒を見てくれるいい奴。
 もう1人の同級生は本当に根明でいい奴。他人に気を使えるし、周りを明るくしてくれる呪術師には珍しいタイプ。人を見る目はあるし、信用しても大丈夫。
 2人とも呪術師らしくない極々普通の人間。話を聞くと一般家庭出身という。なぜ、これ程までに厄介な世界に首さえ突っ込まなければ穏やかな安寧を得ただろう。上の先輩達もそうだと言うし、意外と日本の呪術界とはそんなものなのかもしれない。日本は家柄重視と聞いていたのに、意外と受け入れてるんだな。向こうはその辺り自由だけど、烏合の衆と言った感じ。まとまりがなく、常に誰かを蹴落とそうとしている。
 俺にとっては今の方が楽だけど。自由気ままに出来る。

 因みに、俺のお気に入りは五条家の時期御当主様。漫画に出てくるヤンキーみたいな見た目して、性格も悪ければ口も悪い。見た目通りの男。散々甘やかされて過ごしたのか、はたまた同い年の友人がいなかったのか、その為あまり悪戯されなれていない。悪戯経験がないのだ。その反応が新鮮でついついちょっかいをかけてしまう。
 もちろんその反撃は腹が立つほどエグいけど。だって、あの人ちょっとした悪戯に術式使って反撃してくる。本当カギっぽくてやめられない。

「あははっ、そんなに怒んないでよ」
「今日という今日は許さねぇ!」

 背後からの攻撃を華麗に避けるとクレーターが出来ている。その内、本当に当ててきそうで怖い。廊下を走っていると見覚えのある背中を目の前に見つけ、思いっきりダイブして捕まり、その人を盾にするように隠れた。

「あ!オマエ、なに傑を盾にしてんだ!」
「夏油センパイ助けて、センパイが追いかけてくるんだっ」

 夏油センパイはやれやれとでも言うように呆れた様子で怒り狂っている五条センパイを宥める。俺はその隙にと逃げ出そうとしたが、壁に阻まれてしまう。見上げればそこには見知った顔。

「やはりここにいましたね」
「ナナミン、ちょぉっとそこどいてほしいなぁ」
「そいつ、捕まえてろ!」

 五条センパイの言葉に面倒臭そうにため息を漏らし、こちらを見据えている。俺と五条センパイの顔を見比べ、俺を彼らの方へ差し出した。

「…任務なので早めに終わらせてください。それでは」
「ひどいよ、七海!」
「自業自得」

 夏油センパイにも裏切られ、前と後ろを190cmの壁が立ちはだかる。青筋を立てる五条センパイは俺の柔らかな頬を鷲掴むと無理矢理上を向かせる。ぐえっと蛙を潰したような声が漏れた。

「しぇんぱあい、おりぇなんか怒りゃれるようなことした?」
「オマエが、俺のプリン食ったんだろうが!俺のプリンを!」

 後ろの夏油センパイがそんなことかと呆れてるのが見なくても分かる。キャンキャンと仔犬のように騒ぐ五条センパイを宥めている。ここは夏油センパイに任せてしまおう。俺は顔を掴む五条センパイの手を振り払い、2人の間からするりと抜けた。

「センパイ、ごめんって今度プリン買ってくるから許してよ」
「あ!てめぇ待て!!」
「今から任務なんだって!またね」

 廊下を颯爽と駆け抜ける。風を切るように七海たちが待っている方へと向かった。後ろから怒号が聞こえているがそんなことを気にしていたらキリがない。センパイはなんだかんだでいっつも怒ってるしね。主に俺のせいだけど。


 任務はしんどいし、面倒だけど、同い年の奴らと一緒にやれるのは本当に嬉しい。向こうでは嫌な大人たちに囲まれていたし。話をするのは歳が近いと言っても5つ上の俺の幼なじみくらいだった。幼なじみと言っても将来は俺の部下になることが約束されたような男。俺を対等に扱ってはくれるが、やはり俺のことを上司として見てるようなところはあった。
 そんな家の関係で作られた厄介なしがらみもなく対等に接してくれる彼らと共に任務に行けること、同じ時間を過ごせることは今の俺にとっては貴重な時間だった。

 帰れば俺にそんな時間は無くなる。
 今を楽しまないと。

 それだけははっきりと分かっている。
 俺は地面を蹴り、前を歩いていた灰原に飛びついた。少し前にぐらついたが、「どうしたの?」と優しく聞いてくれる。そのまま、おぶられた。灰原の肩に腕を回しながら背後に反ると、来た道を眺めながらべぇっと嘲笑うかのように舌を出す。それに同調するように、俺の視線の先にあった枯葉は嘲笑うかのように舞い上がった。

「あだ名、危ないよ」
「はーい」

 俺が飛びついた衝撃により、コンビニの袋に入ったプリンがこてんと横に倒れ、形が崩れた物を献上したら、また五条センパイは怒った。

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