伏黒甚爾又は、烏の独白

 烏にとって、苗字名前という男は自分をこの世に蘇らせた主人であり、幼い子どもだった。
 烏と名付けられる前の人物、伏黒甚爾は死んだ。死にその肉体だけが今も動いている。肉体だけが、動いている筈であった。
 だが、彼の中には常に靄がかかった様に伏黒甚爾という人間の魂の記録が残っていた。肉体に宿った魂の残穢。基本的にはそれが表に現れることはない。ごく稀にそれが少しだけ表に現れ、意思を持っている様に見える個体も出てくることもある。それはどれだけ僵尸として使役されていたかという年月が長いほど現れやすくなるという。
 しかし、彼はこの世に蘇った時から霧がかったようにぼんやりとその黒々とした瞳で見ていたのだ。霧は時間をかけてゆっくり、ゆっくりと晴れていく。
 目の前をちょろちょろと動き回る少年が自分の主人だというのは本能で理解していた。自分が誰かに使役されるなんて思いもしていなかったうえに、こいつも相当性格が悪いなと諦めていた。だが、彼の主人は死者を蘇らせるという嫌がらせ以外に特に何かするわけでもなく、普通の人間の様に接してくる変わった男。
 呼ばれれば向かうのは本能の様なものなのだろうが、それに逆らったところでぷんぷんと怒るふりをするだけ。高専内をふらついていても文句も言われない。
 歩くのが疲れたのか、自分に抱っこをせがんでくるのは幼い子ども。仕方がなく抱えあげれば、それは羽根の様に軽く、その重みは昔抱えてた記憶がある様な気がした。あれは一体何だったか。そう思っても忘れてしまっているのか思い出せなかった。烏にとってはその程度の記憶。
 なんとなく、そう、なんとなく。これを手放せば、二度と手に入らないと思った。そんなことを考えながら名前のことを見つめていると不思議そうに小首を傾げている。

「どうかした?」
「……」

 ちょっと力を込めればすぐに壊れてしまいそうなそれを抱え直す。首を横に振れば、「そっか」と言いながら彼にもたれかかる様に体を預けた。触れたところからじんわりと熱が広がっていく。もう二度と感じるはずのない熱がじんわりと。
 靄がかかったような意識の中で彼はずっとぼんやりとその様子を見守り続けていたのだ。嫌いにはなれない幼い彼のことを。
 そんな彼が初めて、自身に下した命令。それは二人を連れて逃げろという残酷なものだった。名前の長かった絹の様な美しい髪は、結っていた根本から剣で切り落とされ、短く切り目はざっくばらん。それを手渡すと、名前は目の前で呪霊にその身を捧げる。
 主人の命令に逆らう事はできず、彼は二人を抱え上げて、走り出すことしかできない。
 何かから抜け出た感覚と共に、主人と繋がっていた糸がぷつりと途切れたのを感じたが、命令に背く事なく、真っ直ぐと進んでいくだけ。
 そこからはぼんやりとした記憶だけ。
 動かぬ身体になることもなかった彼は、名前の幼なじみである秀英(シゥイン)にどうするのかと聞かれ、残る方を選ぶ。
 秀英(シゥイン)は彼を墓地へと連れて行った。墓石を動かせばそこには下へと続く階段が見える。秀英(シゥイン)は明かりをつけることもなく、迷いなくその場へと足を踏み入れていった。ここは墓地の地下。怨念が一番溜まる場所だという。ここにいれば呪力消費を抑えられ、怨念を吸収して自らの力とできるという。

「ここなら暫くは持つだろう。名前が呼べば起きればいい」

 秀英(シゥイン)はそう言いながら、名前の髪に術をかけ、残った呪力を増大させると彼の腕に巻き付けた。そこから少しずつ、少しずつ、残るのに最低限の暖かい呪力だけが流れ込み、ゆっくりと瞼を閉ざす。
 ただ薄暗い場所で眠っているだけ。主人が復活するその時をまるで忠犬のように大人しく待つ。
 ぼんやりとした意識の中、閉ざした瞼の裏に映るのは彼が伏黒甚爾、ではなくまだ彼が禪院であった頃の記憶。懐かしい夢。僵尸は夢を見ない筈なのだが、彼は生きた人間の様に夢を見ていた。
 今から十年程前の話だ。
 禪院の屋敷に中国からの来訪者がやって来た。その人間達をもてなす為、屋敷の中は大忙し。彼もいつもよりもこきを使われ、こっそりと屋敷の裏手で休憩という名のサボりをしていた時だ。

好!コンニチハ!オニーサン」
「あ?」

 長く絹の様な黒髪を一つにまとめ、黒いチャイナドレスの様なものを見に纏った、自分の半分も歳がいっていないであろう小さな少年が、音もなく目の前に立っていた。
 ちょこんとなんの警戒心もなく、拙い日本語で一方的に話す少年に少しだけ毒気が抜かれた気がし、呆れた様な顔で煙草を蒸した。

「ボクトアソボウヨ」

 なんとなく居心地の悪さを覚え、きらきらと輝く黒い瞳から目を逸らした。この少年が持つ独特の雰囲気に耐えきれなくなった様にも思えた。
 その見た目から中国の来訪者であることだけが彼には理解できた。どうせ、付き人の子ども何かだろうと。態々日本に旅行に来るだなんてきっと相当な暇なのだろう。ずっとくいくいと彼の裾をひいて催促してくるが無視だ。
 無視だ、無視。

『遊ぼう、遊ぼうよ!ねぇったら、ねぇーー!!』

 少年は無視されたことに怒ったのか、彼にはわからない言語で話しながら、随分とブスくれた表情でぐいぐいと着物が脱げるのではないかと思うほど引っ張ってくる。だが、彼は微動だにしない。子供の力では彼はテコでも動かすことはできない。

『暇じゃないの?』
「……」
『なんか言ってよ…』

 ぎゅっと袖を掴んだまま、座り込んでしまう。蒸していた煙草もフィルターぎりぎりのところまで燃えている。子供の相手なんて殆どしたことがなく、どうしたものかと思っていると、空気を震わせる様な怒号が響き渡る。

『名前!!どこにいる!!』

 その言葉に彼の服の袖を掴んで離さない少年はは顔を上げ、声のする方を見ると彼の側で隠れるように身を縮こめる。それでも彼の袖を離すことはない。此方へ近づいてくる足音はどんどんと大きくなっていく。それと比例してどんどんと小さくなってくのは少し面白い。
 その足音の主がぴたりと、彼らの目の前で音の主は止まった。男は少年と同じようなチャイナ服を身にまとい、少年よりも年上の男だった。

『名前!オマエ、こんなところで何してんだ!!』
『…名前なんていないヨ』
『いるだろう!』

 彼の袖を離さない少年をぐいっと引き剥がそうと男は動くが、少年は袖を離すことなく、服の袖が引っ張られるだけ。少年のその力の強さは幼い子供のそれには思えない。

「…すみません、すぐに引き離すので」

 少年よりも流暢な日本語で話した。少しだけ申し訳なさそうな顔をしたが、すぐに眉間に皺を寄せて少年を引き剥がそうとした。彼の片袖が脱げてしまったが、二人の攻防は続いていた。

『あそこやだ!暇だもん!』
『だからといって迷子になる奴がいるか!!』
『やーだー!』

 そんな攻防を続け、先に折れたのは男の方だった。呪力操作で強化した力に劣ったようだ。彼はこれも呪術師かと思うだけだった。
 それでもこの少年は何を感じとったのか、一言も言葉を発さず、ただ煙草を吸っていただけの男に何故か助けを求める。初めて会った彼の足の間に慣れたように腰を下ろし、膝を抱える。この体制では煙草も碌に吸えやしない。どうしたものかと頭を掻いた。このままサボる口実ができるのはいいがヤニ切れは困る。
 何言っているのか分からない子どもの相手。本家が嫌なことだけは彼もなんとなくだが、理解できた。男も困った様子で少年を見て、彼をいなすように名前を呼ぶだけ。

「オニーサン…」

 何かに縋るようにちらりと彼を見上げてくる。その黒々とした大きく丸い瞳と目が合い、居心地の悪さを覚える。
 これは仕方がないこと。そう自分に言い聞かせると少年を抱き上げ、立ち上がる。急に抱き上げられて、体勢を崩してしまった少年は慌てた様子で彼に抱きついた。少し着崩れた着物はそのままで彼は少年を抱えたままどんどん前へと進んでいく。

「ついてこい」

 探しに来たであろう男に向かい、彼はそう言うだけだ。どうする事も出来ず、大人しくついていく男が見たのは屋敷の中に散り行く桜の木だ。その色鮮やかな桃色に、その色を写しとったかの様な池である。花弁が浮かび一面が桃色で、池の底すらも見えないほど。白と黒とで彩られた世界に差し色のようにその薄桃色が映えている。その光景に少年は歓喜の声をあげる事もなく、ただぽかんとその口を開け、大きな丸い瞳は目玉が飛び出てしまうくらいだ。

「満足か」
「ウン!キレイナトコ、アルノシラナカッタ!」

 今度はそのきらきらと輝く瞳で彼を見上げる。ふわり風が舞えば、その烏の濡れ羽色の様な髪を彩る様に花びらがついた。少年はそんな事を気にする事もなく、嬉しそうに笑い、そして、今まで彼が向けられた事のない瞳をこちらに向けてくる。

「謝謝!オニーサン!!」

 少年はそういうとするりと彼の腕の中からいとも容易く抜け出した。再び風が吹いた時、そこには誰もおらず、赤い結紐だけがぽつんとその場に残されてあるだけであった。
 まるで狐に化かされた様なそんな気分。自分の知らない言語を話す少年達だ。可笑しくもないだろう。この家にそんなモノが来るとも思えなかったが。
 彼が落としたであろうその紐を拾い上げてぼんやりと空を見上げた。もしもあれが化け狐であったとしても、随分と変わった呪霊。それにあんな瞳を忘れることは出来ないだろう、そう感じた様な気がした。
 厄介なものが屋敷に来たものだと、面倒臭い人間達に見つかる前に重い脚を動かしこの場から立ち去ったのである。
 その日。あの一瞬だけではあったが、彼の世界にもあの少年が身に纏っていた薄桃色が彩り、世界を少しだけ鮮やかなものにしたのは確かな出来後であった。
 そんな桜の様に一瞬で散ってしまう様な色鮮やかな夢を見た。
 そこから先の意識は彼の中にはなかったのだ。


――十年後。


『起き上がれ』

 名前が呼ぶ声で瞼を開け、立ち上がり、動き出した。今まで動かしていなかった筋肉は死後硬直後の様に固まっている。無理矢理動かせば、筋が切れるような音が鳴る。彼はそんな事はお構いなしに進んでいく。
 墓石を押しのけ、主人が呼んだ方向へと。まっすぐと走っていく姿はまるで風の様。一般人にも認識されている筈なのだが、殆どの人間が彼を認識することが出来ない。それこそ、六眼でもあれば別ではあるが。
 突風の様に駆ける彼はあっという間に、主人の元へと辿り着いた。
 十年ぶりに見た主人は元々小さかったのに更に小さくなっており、驚いた様子で彼を見たが、すぐに平静を取り戻し、指示を出す。彼のその頬は少し緩んで見えた。
 名前に敵対をする男を抑え込み、動きを封じる。昔からこの男は名前に甘いということを彼も知っていた。そして、自信に敵対心を抱いていることも。だが、今の状況でもこの男は名前に攻撃を当てることはないとそう勝手に信じ込んでいた。
 男の手から出て行く、その呪霊は名前に当たり、壁に打ち付けられた。
 その時、血の気が引いた様な感覚がした。死んでいる筈なのに。その肉体は主人の願いに反し、頭から血を流している名前の元へと向かう。

「ん、だいじょうぶ」

 そう言う名前を抱き上げて、この場から逃げ出した。
 今この時、彼にとっての最優先事項は主人の身の安全であった。頭から血を流している彼を安全な場所へと連れて行く。
 抱き上げた時の主人は昔よりも随分と軽く、小さくなっていて、このまま力を入れれば簡単に壊れてしまう様なそんな脆さを感じたのだ。
 彼は安全地帯として、武具が収めてある倉庫へと逃げたのである。ここが何故安全なのかとそう思ったのかは本人しか分からない。眠る主人を膝の上に寝転ばせ横抱きにする。
 とくんとくと鳴る心臓の音と振動が空っぽの肉体に共鳴していく。ゆっくり瞼を閉ざして、その熱から彼の熱を、呪力が流れてくるのを感じとれた。生きているという実感を。
 前は最期を看取ることは出来なかったが今度こそ……なんて、笑ってしまう。
 それから暫くして、迎えがやってきた。迎えに来たのは、昔から彼に対して何故か敵対心、というよりも反抗心や嫌悪等を抱いている男。名前がいつも不思議そうになにがあったのかと首をかしげていたのを覚えていた。生前になにがあったのかは分からないが、あまり名前には触れないでほしと思うこともある。
 その後、目が覚めた名前を連れて、保健室へと向かった。男の指示ではなく、名前の今も昔も保護者の様な立場の七海と彼の意思も少しだけあったからである。


▲▽


 百鬼夜行と呼ばれる事件から一年後。
 彼のご主人様は夏に海に遊びに行ったと思ったら、事件に巻き込まれ、またボロボロになっていた。名前には疫病神でも憑いているのではないかと思ってしまうほどによく怪我をする。元々、脆く弱い肉体であるのに、そんなに怪我をすれば命がいくつあっても足りない。死んでいる彼ですらそう思ってしまうほどに。
 だが、そこから数か月後。十月三一日。彼にとっても事件が起きた。
 最近、どこか少し様子のおかしい名前ではあったが、それでもハロウィンを楽しみにしていたようで袖が長いチャイナ服を着て、くるくると回り袖を振り回す。それを掴んでみれば怒りながらも嬉しそうに笑っていた。
 その日の夜。
 天に還っていた彼の魂が何者かに呼ばれた。それは魂が元々宿っていた肉体も共鳴する。七海達から様子を見ていてと言われた名前は大人しく、ご飯を食べて、お風呂に入った。一方、彼はその魂がある方向をじっと見つめるだけ。
 暫くの後、魂が肉体から乖離し、その魂は天に還ることはなかった。魂は本来あるべき場所へと戻ったのだ。魂だけが戻っていてもそれは生命が蘇るというわけではない。だが、魂が戻ったことにより彼という意識が覚醒した。烏と名付けられる前の記憶と共に。
 自身の隣に立つ小さな少年。彼にいいように使われている、と。不思議と思わなかった。死んだはずの男が小さな少年の戯れにより呼び起こされたというのに。彼は特にこの少年が嫌いではなかった。僵尸となり私利私欲に利用できる筈のものを普通の人間のように扱うこの小さい子供が。本当に嫌なら、彼ならきっと簡単に壊せる。彼にはそれをできるだけの力がある。そうしなかったのは彼の中にほんの少しだけ、名前という人間に絆されたのかもしれない。
 魂がやってきた方だが、んやりと眺める彼の隣に、名前は立ち不思議そうにこちらを眺め、どうしたの?と声をかける。そんな名前に静かに告げる。

「…行くか?」
「しゃ、しゃべった…!」
「どうする」

 言葉を話す、僵尸に戸惑いの色をみせた。名前ですら言葉を介する僵尸に会ったことも見たことなかったのだから当然といえば当然だ。だが、それでもすぐに平静を取り戻した。ぎゅっと視線を上げ、いつものふにゃふにゃとした気が緩む様な顔ではなく、引き締まった表情で告げる。きっと名前も何かが起きているのだと気が付いていたのだろう。

「……行く。連れてって、俺を渋谷まで。なんだか嫌な予感がするんだ」
「あぁ、ご主人サマ」

 彼は名前を慣れた手つきで着替えさせると、抱え上げてベランダから外へと飛び出した。
 やってきた渋谷はまさに地獄。化物が闊歩し、人間は泣き叫ぶ。白いはずの床は赤く染まっている。普通の人間がみたら失神してしまうような光景。その光景をみた小学生は叫び声をあげるどころか目的地へ向けて式を飛ばす。目指すは大切な友が待つところへ。
 地下深くへと潜っていき、お目当ての人物が見えた時、小さな少年はするりと彼の腕から抜け出した。血塗れでボロボロの肉体に触れれば、それは時間が巻き戻っているかのように欠損こそしていないが、皮膚のただれた部分から再生をしていき、もとに戻っていく。
 無事に治した七海を彼に託すと、名前は格好をつけて、目の前にいた人型呪霊に虎杖と共に立ち向かおうとしていた。だが、その戦闘が始まる前に名前を真っ先に回収した。殆どやったことのない反転術式。それにより名前の呪力は底を尽きそうなっていた。名前がどれだけ優秀な呪術師であろうとも、死ににいかせるなんということは二度と彼にはできなかったのだ。
 反論し、暴れる名前をよそに彼は地面を蹴り上げる。この場は彼が仕込んだ虎杖に任せれば大丈夫だろう。虎杖の肉体は天与呪縛といっても過言ではないほどのギフテッド。ちょっとやそっとのことでは負けないだろうという判断だ。
 名前を連れて逃げれば、その先には比較的安全な場所。その場にぺたんと座り込めばじっと彼を見上げた。その瞳からはなぜ、どうしてその言葉が読み取れる。

「今のオマエが行っても足手纏いになんの分かってんだろ。…あのまま、どうするつもりだったんだ?あ?」

 その言葉に名前はぎゅっとこぶしを握り黙る。すると何かを決意したように彼の胸ぐら引き寄せ彼唇へと噛みついた。下唇に歯を立て、柔らかい皮膚に傷をつける。ぷつりと破られた皮膚からは赤い液体が溢れ出たものをなめとり、得意気に笑う。

「これで、元通り!文句ないでしょ!?」
「急に噛み付いてんじゃねぇよ」

 彼は呆れた様子でそう言った。
 名前が行ったのは体液から行う呪力供給。正確に言えば元々、彼に渡していたものの一部を返してもらったという方が正しい。
 乱雑に触れた唇を服の裾で拭い、立ち上がり彼を見上げて笑う。それが気に食わなかった。とても。

「烏、七海のことは頼んだ、んぐッ」

 そういう名前の服を引っ張り、ふわふわと柔らかくマシュマロのような唇にかぶりつく。ぼんやりとうっすらと開いていた口に無理矢理、舌を差し込む。ぐじゅりと名前の口内を犯した。息苦しいのなかぎゅっと瞼を瞑りささやかな抵抗しようとしているさまがおかしく、自分のなすがままになっているその姿がいかんせん面白い。段々と口角が上がってくるのがわかった。

「んっ…」

 小さな声を上げる彼へ舌から唾液を送り込む。飲み込むまいと押し返そうとする名前の抵抗もむなしく、彼は無理矢理に飲み込ませる。その喉がこくりと動いたのを確認するとゆっくりと唇を離せば、銀色の糸が二人を繋ぎ、ぷつりと途切れる。
 顔を真っ赤にしながら息を整えている名前の様子をにやにやと見降ろすだけ。やっと意識を取り戻した。

「変態!ショタコン!ペド野郎!未成年淫行罪!バーカ!バーカ!!」

 そう思えば、文句の嵐。それもそうだろう。彼がやったことはただ彼の道楽。これだけあれば足りるだろうというのは彼の言い訳でしかない。そんなことは梅雨も知らない名前はぷんぷんとでも音がついてしまうかのように起こりながら彼に指をさす。

「俺、いくから!七海のこと頼んだよ」
「あぁ」

 そういうとまっすぐと目的地へと歩いていたった。
 こちらも動き出そう。
 倒れ、意識のない七海を抱き上げると、医療班である家入のほうへと向かっていった。
 あれだけ、呪力を返せば問題ないだろう。今度こそ、名前に何かあれば。いや、そうなる前に主人の命令にでも背いて、今度こそ名前の命を、その尊い生命を天に返すなんて真似はしない。
 人々の悲鳴を耳にしながら彼は地面を蹴り上げた。

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