04

 兄さんが京都校にいる。本当に憂鬱すぎる。俺が勝てるに決まっているが、仕掛けるなら個人戦ではなく団体戦だろう。俺の動きを封じる。それだけで十分だ。校庭で七海と灰原が夏油センパイに投げ飛ばされている。センパイは爽やかそうに見えて筋肉ゴリラの要素がある。全体的に黒いし、前世は顔のいいゴリラだったのかもされない。
 俺がくわりと欠伸をこぼし瞼を閉ざす。そよ風が俺の頬を掠め、灰原の叫び声が心地よく耳を過ぎる。意思は暗く深い、そして暖かで穏やかな場所へと誘われようとしていた。
 しかし、それを阻止するようにぴとりと冷たい何かが頬に触れる。思わず瞼を開けて、目線を逸らすとそこにはぷかりぷかりとタバコを蒸し、悪戯が成功した子どものように笑っている家入センパイの姿。

「飲む?」
「ありがと」

 起き上がりセンパイからコーラを受け取る。ずっとニヤニヤしていて何だか嫌な予感がするのは気のせいじゃあない。しかし、これにノるというのも大切なのである。リアクションの準備もできている。
 俺は躊躇することもなく、キャップを開ける。ぷしゅりというガスが抜ける音がし、次に訪れるのは噴火。そう予想したものの何も訪れることはなかった。メントスコーラでもさせる気なのだろうか。俺がある意味びっくりして目を丸くしているとセンパイは相も変わらずニヤニヤしている。

「家入センパァイ?」
「騙されてやんの」
「俺に渡されるモノなんて振られたコーラだって思うじゃん」

 悪態を付きながらコーラに口を付けた。口の中に広がる甘酸っぱく、喉を刺激する味。鼻を劈くような匂い。不のコンボに思わず吹き出す。なんの味かもわからない不可解な味。俺がセンパイを二度見すると、隣ではセンパイが腹を抱えて笑っていた。

「なに、これ!?」
「梅汁粉味のコーラ」
「なにそれ!?お汁粉なのに、梅なの!?」
「梅は後から入れた」
「なんでいれちゃうの、おしるこ味でも十分じゃん…」

 俺はげぇっと口を開ける。本当に魔改造にもほどがある。むしろ一度開けたものに入れたものだ。どうしよう。これ、飲める気がしない。五条センパイにでもあげようかな。夏油センパイは後が怖いし、七海と灰原に渡すには些か可哀そうだもの。
 キャップを締め、唇を歪めながら思考を巡らせているとふわりと臭く独特のにおいがする煙が俺の鼻を擽った。センパイが俺の頭に触れると髪についていた落ち葉をとってくれた。

「最近どう?」
「どうって、フツウだよ。五条センパイが向こうの人に喧嘩売っちゃったから余計に躍起になってるみたい。七海たちもそれに付き合わされてるし」
「名前は?」
「俺?」
「…そう、京都に兄貴がいるんでしょ?」

 そのことかと思い、再び横になる。眼前に広がるのはどこまでも続く青い青い空。美しい雲一つない空。冷たい風がほほを撫でる。
 兄さんのことはあまり気にはしていない。ただ、あの人。というか、兄さんとその母親の家系は性格の悪い人間ばかりなのである。

「兄さんのことは俺が何とかするけど、それ以外だよね。絶対あの人、なんか仕掛けてくるに決まってるもん。あの人たち日本の呪術界より悪い奴らだもん」
「ふーん、名前は?」
「えー、センパイも知ってるでしょ??俺、超絶良い子でしょ?」

 俺はふふんと鼻を鳴らした。センパイは「そうだね」とだけ言うと乱雑に頭を撫でてくれた。それを甘受する。グラウンドのほうから五条センパイが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。どうやら次は俺の番らしい。勢いをつけるように体を持ち上げて、起き上がる。

「本当に気を付けて、センパイの想像以上に性格悪いし、汚いから」

 俺はそれだけ言うと五条センパイたちの元へと向かった。
 五条センパイに飲みかけのコーラを渡すと何のためらいもなく口をつけ、噴き出していた。その日の俺の手合わせだけ本気と書いてマジではなく、殺すと読むくらいに厳しかった。途中で体力がなくなった俺は烏に五条センパイの相手をお願いした。五条センパイも夏油センパイも烏をみると顔を歪める。本当に烏は何をやらかしたのか。
 そもそも文句は俺ではなく、この魔改造コーラを作った家入センパイに怒ってほしい。あの人はあの3人の中でマトモそうに見えて、やっぱりクズなのだから。

「烏、あとはお願い」

 烏はこくりと頷くだけであった。
 それを横目で見ながら俺は休憩している七海達のそばに寝転がった。

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