- ナノ -



「バッカじゃないの?カンゼンに恋愛対象から遠のいてるじゃない」
「……胃袋を掴めと姉貴が、」
「男がやったらオカンになるだけよ。アンタで実証済でしょうが!」

恥を忍んで一世一代の悩みを相談したにもかかわらず、姉のかぐやはバッサリと切り捨てた。例の―死刑執行日のタイムリミットがあったせいで、先述の事件を起こさせてしまったが故に、かぐやには昔以上に頭が上がらないのだった。
当のかぐやも弟の身元引受人を他に立てておかなかったことを負い目に感じていたのだが、まさかそんなことが面会室の外で起こっていたとは想定外だったため、いつもの調子を一時的に取り戻せていた。

「大体アンタはクソ真面目すぎるのよ。どうせ家事とか買い物とか色々やってあげてたんでしょ?毎日毎日クソ真面目に」

唯一の身内から繰り出される容赦ない罵倒に耐性はあるはずだったが、流石にコタえるものがあった。それでも、冷静に状況整理する姉の姿に、やはり同じ血が流れていると他人事のように感心していると。

「ま、近い将来わたしの義妹になるかもしれないしね。ホネのある子かどうか試してみたいわ。ジン、ちょっと耳貸しなさい」

義妹だと……と思考が停止しかけたが、一度しか言われないであろう姉の計画に耳を澄ませるため、普段以上に居住まいを正した。

「出張か旅行にでも行って、家を数日空けなさい。そうしたら、今の便利屋ポジションから抜け出せるはずよ。その子にとってアンタがどんな存在かもハッキリするし、一石二鳥だと思うわ」

防弾ガラス越しから伝わったその計画に、思わず低く唸った。その方法は自身でも考えてはいたのだが、どうも彼女を試すようで気が引けていた。
法廷以外の、ましてや恋愛の駆け引きなど全くの門外漢である自分は、丁寧に信頼関係を築いていく以外の道がなかった。しかし悲しいかな、なまえは超の字がつく程の鈍い女なのだ。折良く某国への短期出張を打診されたことを思い出し、これ位の駆け引きは許されても良いのではないかと考え直した。それに、自分はなまえにとって(日常的に)欠かせない存在であるという確信はあったので、少しは勝算があるやもしれぬと頭の中で算盤を弾いた。

「……ヘッ、押してダメならってことかァ」
「早い話そういうコトね。まったく、この位自分で考えなさいよ。いつまでも世話の焼ける弟で困るわ」

心底呆れ果てた表情をしながらも、かぐやはフン、と得意気に鼻を鳴らした。

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