- ナノ -



「オレにはよく分かんねえけどよ、相当ぶっ飛んでるヤツだってことは分かった」

お前の弁当が最近やけに豪華すぎると思ったぜ、と笑い飛ばしたその人は、私の勤務先の上司だ。ここ数ヶ月お昼ご飯に出かけなくなった私を疑問に思い、聞き出す頃合いを見計らっていたらしい。
面倒見がいい人には違いないのだけれど、少しでも時間を浪費すると三段重になったお弁当が食べきれないので、放っておいて欲しい気持ちもあった。

「寝るときどうしてるんだよ。お前の家1Kじゃねえか」
「その日の晩に布団が届きました」
「ハッ、随分と用意周到じゃねえか!お前が通りがかるのを見越して倒れてたとしか考えられねえな」

名探偵もびっくりの推理を披露する彼に一瞬気を取られると、一個しかない唐揚げを横取りされそうになったので慌ててお箸でガードした。彼は不機嫌そうに顔を歪める。

「一口くらいイイじゃねえか」
「味の感想を全部言わないと小一時間拗ねるので。すみません」
「面倒くさい彼女みたいだな」

ありのままを話すと多少は同情してくれたのか、ようやく上司も攻撃の手を緩めてくれた。ああ、あと15分で休憩が終わってしまう。歯磨きまで辿り着けるかなあ。

「で、付き合ってんのか?」
「付き合ってません。宿の女主人としか思われてないと思います」
「それはどうだかな。……そういや、検事様ってのは一人一人に執務室があてがわれるらしいが、そいつは違うのかい?」
「そんな特権があるんですか!?」
「いや、オレも詳しいことは知らねえ。知り合いの検事から聞いただけだしな」
「信憑性満点じゃないですか」

ユガミさんはなんで私に黙っているんだ、そんな大事なことを。いや、長年の刑務所暮らしで知らないだけかもしれない。帰ったらすぐに教えてあげよう。
そんなことを考えながら、デザートの手作りプリンに舌鼓を打った。ユガミさんの作るプリンは蒸し器で作る本格派で、私の作るインスタント式(粉をお湯で溶かすやつ)とは全く違う出来栄えなのだった。
こんな美味しい食事が出来なくなると思うと、それはそれで寂しい気もする……ひょっとしてこれも心理操作の一環なのだろうか。

「さ、午後も気合い入れてくぞ!」
「そうですね、内藤さん」

ようやく空になったお弁当箱に、ご馳走さまと小さく両手を合わせた。

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