- ナノ -



そんなこんなで、ユガミさんが居候するようになって1週間経過した。
休日の社畜特権である二度寝を満喫してから身を起こすと、いつも見慣れたテーブルに赤い布(ヒモウセンというらしい)が敷かれていて、和の雰囲気を醸し出していた。家主である私のあずかり知らぬところで和テイストになったテーブルの上には、梅や菊を模した練り切りが懐紙の敷かれた半月盆に置かれている。
遅い起床を目で咎めているユガミさんが、家のコップを我が物顔で使っているのはこのさい見逃そうじゃないか。

「こ、これもユガミさんが?」
「あたぼうよ。馬毛の裏漉し器があれば良かったんだがなァ」

元々家にあった金属製のモノで仕方なく代用したのだと、口惜しそうに零していた。なんて器用で職人気質なんだ。和菓子屋さんにでもなれるんじゃないか。

「まァ、今の時間にはお誂え向きだろ。さっさと顔洗って出直しなァ」
「げ、もうそんな時間ですか……」

時計を見ると正午はゆうに過ぎていて、外から子ども達の笑う声が聞こえていた。開けたカーテンから眩しい光が差し込んできて、思わず顔をしかめる。洗濯、今からでも間に合うかな。

「洗濯ならもう済ませたぜ」
「……ありがとうございます。出来れば、事前に、声を、掛けて欲しかったですね!」
「お前さんが涎垂らして寝てたからなァ。起こすのも気が引けちまってよォ」

クックッと笑うユガミさんにぐうの音も出なくなり、黙って洗面台へ向かって顔を洗った。下着類諸々を見られたという羞恥心と、何となく後回しにしていた洗濯物を片付けてくれたという感謝の気持ちが頭の中でせめぎ合っている。
むしり取ったタオルで顔を覆いつつ、鏡に視線を向けると予想通り顔が真赤になっていた。見られてしまったものはもはやどうしようもないが、見よったな変態、と詰りたい気もする。ああ、あまりにも恥ずかしくて思考がループしている。来週は絶対にユガミさんより早起きしてみせる。
頬をぺちぺちと叩いて気合いを入れ直し、もう一度お礼を言うために自室へ戻った。

「うわ、抹茶まで点ててる!」
「あァ?当然だろうが」

(す、凄いぞユガミさん!)

prev |top| next