八月二十九日 / 微へしさに 短

草の焼ける匂いは冷たい血肉の焼ける匂いで、立ち上る入道雲は火葬炉からの煙だ。この時期世界は、大きな大きな斎場になる、と。
夏空の下、目に焼き残る鮮やかな黄色の向日葵畑の中へと私を連れ出した付喪神、へし切長谷部はそう言った。
「夏は嫌いです、死の匂いがする」
可哀想だ、と思った。神様でいて中途半端に人間の感情をもった彼は、人斬り刀の癖に死別の悲しみを抱く。
「お嫌でなければ、手を、繋いでくださいますか」
普段の彼からは想像出来ない情けない声だった。
「向日葵が貴女を攫って、俺は1人で本丸に帰る。そんな夢を幾度も見ました」
「だからここには来たくなかったんです。でも、他の奴と行かれるのはもっと嫌だったから」
「人間はいずれ死ぬんでしょう。貴女も俺を置いて逝くんでしょう。それはいつですか。50年後ですか、半年後ですか、それとも明日ですか」

「俺は貴女に看取られて死にたい」
そんな悲しいこと言わないで。用意した言葉を吐こうとして口を閉じた。だってあまりにも、彼は幸せそうだったのだ。



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