7.「夏の約束」

俺は病院を出るとそのまままっすぐ家へと帰った。
試合で疲れていた俺は少しだけ眠ろうと飯も食わずにベッドへ潜り込む。
さすがに腹減ったなと起きると丁度夜の7時を少し回ったところだった。
俺は部屋から出るとリビングへと向かう。
母親は会合で出かけているようで家にはおらず、その代わりにラップにくるまれた夕飯がテーブルの上に並べてあった。
すぐさまそれをレンジにかけ温めると食べ始める。
やけに部屋が静かでテレビをつけてみたが、ロクなのがやっていなくてすぐテレビを消す。
食事を終え風呂でも入るかと思い椅子から上がると、センターテーブルの上に広がったままの雑誌が目に留まる。

「なんだ?ねーちゃんの読みかけか?」
表紙を見ると女性のファッション誌のようだった。
ちょうど暇だしとパラパラ捲ってみていると”夏のお勧めスポット”といういかにもこの時期にありそうな特集のページがあった。
折角だしと思いそのページを見始める。内容としては、カキ氷やプール、海、そして花火大会の情報が載っていた。

”もうすぐ夏休みだしな。バスケもいいけど、せっかく高校最後の夏だし祭りとかもいきてぇよな。”と雑誌を眺めながら考えていた時、
ふと浴衣を着て俺に手を振る名字の姿を想像した。けれどすぐ、いけねっと頭を左右に振りその想像を振り切ると雑誌を閉じ風呂に入ることにした。

風呂につかりながら俺は考えていた。
「そういえば名字って付き合ってるやつとかいんのか?まぁ、あいつ可愛いしな。いてもおかしくねぇよな・・・。」と呟くと妙に虚しさを感じる。
すると急に今日抱きしめられた時の感触を思い出し俺は一人風呂で赤くなっていた。

***

風呂を上がるともうすぐ9時になるところだった。
この時間なら迷惑じゃねーよなと子機をもって部屋へと移動する。
先程へんな想像をしたせいか電話番号を押す指が緊張で震える。
なんとか番号を押して受話器を耳につけると呼び出し音が鳴り始める。

ちょうど3回呼び出し音がなった後「はい。もしもし」という声が聞こえてきた。
彼女の母親が出たと思い自分の名を名乗ると以外にも電話に出たのは本人だった。

「三井君。IH出場決定おめでとう!ホントは会場でお祝いの言葉をいいたかったんだけど、ちょっと用事があって先に帰ったの。ごめんね?」
「あ、いや。俺も先生の見舞いとかあってどうせ一緒に帰れなかったから・・・」
「ならよかった。あ、監督さんはどう?大丈夫なの?」
「ああ。検査入院だし数日後には退院できるってよ。賞状もって見舞いにいったら喜んでたよ。」
「そっか!きっと監督さん皆が勝ってくれて嬉しかったんだろうね。」
電話だから顔は見えないが、名字が笑顔で言ってくれた気がして俺も自然と笑顔になった。

「そういえばもうすぐ夏休みね。IHはいつからなの?」
「一カ月先だな。8月の1週目からだぜ?」
「そっか。たしか広島だっけ?さすがにそこまで応援にはいけないけど神奈川で応援してるから頑張ってね!」
「おう!任せとけ!」

それから俺たちは他愛のない話をした。

「じゃあ、そろそろ切ろうか。」と話をはじめて1時間くらい経った頃名字がそう言って来た。
すると先ほど読んでいた雑誌の内容が頭に浮かんでくる。
考える間もなく俺は咄嗟に「・・・夏休みさ、祭りでもいかねぇか?」と名字を誘っていた。
急の誘いで名字は驚いたのか「え?お祭り?」といって戸惑っているようだ。
俺は自分自身の行動に驚きつつも断られっかなと不安を抱きながら名字が次の言葉を発するのを待っていた。

「行こうか。お祭り。」漸くして発された名字の言葉に驚きを隠せずに何も言えないでいると電話越しに「もしもし?三井君?あれ?寝ちゃったかな・・・」と不安げな声が聞こえてくる。
「お、起きてるぜ。本当にいいのか?俺と一緒で」と聞き間違いじゃないと確かめたくて再度名字に聞くとクスクス笑い声が聞こえて「三井君と一緒にお祭りにいくよ」と言われた。

その後、また時期が近づいたら決めような?と言って電話を切る。
切った後、俺は夜だというのに部屋で「よっしゃ!!!!」と叫んでいた。
既に帰宅したねーちゃんや母親にうるさい!と怒られたけど、舞い上がってる俺にはそんなのどうでもよかった。

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