5.「不安定な試合」 あれから名字は試合を見に来てくれるようになった。 海南戦はもちろん武里戦にも彼女の姿があってただ一つ気にくわねぇのはいつもいつも名字の隣に座る水戸達の姿。 アイツらに恩があると言えど気にくわねぇもんは気にくわねぇ。 それに回を重ねるごとに仲良くなってねぇか?、ほら、今も飲んでたコーラを回し飲みしてんじゃねぇか! 俺は試合に集中しつつも名字の事が気になり気が気でなかった。 武里戦の試合後、いつもなら名字と一緒に帰ってたが海南対陵南の試合を見るために今日は一緒に帰ることが出来ないと伝えると少し言葉を交わして会場で別れた。 その後、俺は陵南の姿をみて”このままじゃマズイ”と感じ、先に会場を後にするのだが湘北の体育館についた早々既に戻っていた桜木に安西先生が倒れたと聞かされて俺は耳を疑った。 ”明日、安西先生は来られない”そう聞いて一瞬不安が頭に過ったが事が事だから仕方がない。 何としててでも明日陵南に勝って先生にIHの切符をと心に誓う俺だった。 *** 私が会場へ入ると初めてきた翔陽戦より観客の数が多くて驚いていた。 キョロキョロと辺りを見回すと前を歩く洋平君の姿を見つけ声を掛ける。 「洋平君。おはよ。」 「よぉ名前ちゃん。いつもの席、取ってあるから行こうぜ」 「うん。いつもありがとうね!」 そういうと今日は湘北は勝つかな?とか桜木君の話なんかで盛り上がりながら席へと向かう。 席に座ると直ぐに海南対武里戦が始まった。 試合は終始海南優勢で進みその優勢は崩されることなく海南が勝利を勝ち取る。 これで海南の1位通過が決まり湘北と陵南で残り1つの椅子を掛けて戦うこととなったのだ。 そろそろ試合が始まるという時に選手紹介のアナウンスが流れ始める。 湘北から先に紹介が始まり流川君の次は三井君の番。 「14番 三井寿」 三井君の名前が呼ばれて「三井君!頑張ってね!」と言って手を上げると「おお!」といって三井君も手を上げてくれた。 陵南の選手紹介も終わると試合が始まる。 お互い守りがいいのか得点を重ねられず3分経ってともに2点ずつ、そろそろエンジンを掛けたいところ。 そう思った矢先シュートを打とうとした赤木が魚住に倒された。 そこからだった。赤木の様子がおかしくなったのは。 赤木にボールを回してもシュート出来ずに30秒バイオレーションで相手ボールになったり、魚住と勝負せずボールを外に出したり。 そんな赤木の異変を陵南が見逃すわけもなく、魚住にボールを集め得点を重ねていった。 「小暮!これが入ったらタイムアウトだ。赤木のやつちょっとおかしい」 俺がそう小暮に告げたのは、魚住が3連続ゴールを決めた後だった。 だが魚住がエアボールでフリースローを外した為、タイムアウトにすることが出来ずゲームを続く。 すると今度は魚住をマークしてなくてはいけない赤木が魚住をフリーにさせていた。 魚住がシュートを打とうとした瞬間、桜木が慌ててフォローに入る。 だがそれは失敗し桜木のファールとなると再び魚住のフリースローになった。 魚住が2本目のフリースローを打った時だった。 リングに跳ね返ったボールのリバウンドを取るはずの赤木が簡単に仙道にポジションを明け渡す様子を見て俺は目を見開いた。 そのままボールは仙道の手によってゴールへと吸い込まれていく。 俺はすかさず赤木に詰め寄った。 「なにやってんだ赤木!!なにやってんだよ。」 何も言わない赤木に痺れを切らした俺は赤木の胸倉をつかむと 「仙道に簡単に入られてるじゃねーか!この試合に全国がかかってんだぞ。わかってんのか?!」と言った。 何が理由か知らねぇけど赤木の態度に俺は怒りを覚えた。 この試合に負けたら全国へと扉は閉まってしまう。 唇をぎゅっとかみしめ赤木を睨みつけ「もう、あとはねーんだぞ!」と、いうと「わかっとるわ」と赤木に掴んでいた手を払われた。 「三井君・・・」 私はコートで起こっている様子をみてそう呟いた。 赤木君の様子がおかしいのが原因なのだろう。 湘北の雰囲気はよくなかった。 私に出来るのは、またしても”信じる”ということだけだった。 タイムアウト明けから少しすると赤木君の調子が戻り始めた。 ああ、これなら何とかいけそう。そう思った時、今度は陵南がタイムアウトを取る。 問題はその後だった。陵南の13番がどんどんゴールを決め点差が徐々に広がっていく。 前半残り2分という所で点差は12点にまで広がっていた。 桜木君の怪我の一時離脱により13番のマッチアップが三井君に変わる。 すると13番の得点が止まり三井君や宮城君の得点により前半終了時には4点まで点差は縮まっていた。 *** 後半が始まる。 前半ほとんど得点をしていなかった流川君が点を入れ始めた。 それから三井君や赤木君達もシュートを入れ順調に点数を重ねていく。 そんな時だった。桜木君の攻めが陵南4番ファールを誘いベンチに下がることになった。 そこからセンターの穴に漬け込み後半残り10分。湘北が3点リードした。 その後も湘北の勢いは止まらずどんどん点差を広げていく。 残り7分。ベンチに下がっていた陵南4番がコートに戻るもその勢いは止まらず、残り6分には、すでに15点リードで試合を進めていた。 このまま湘北の優勢のまま行けると思っていた。 だが4番復帰後初得点を入れた陵南は、ここからどんどん流れを引き戻していく。 特に目立ったのは陵南の7番。どんどんゴールを決め広げた点数を縮めていった。 |