4.「次の約束」

試合は湘北の勝利で幕を閉じた。
選手たちは挨拶を終えるとコートから去り控室へと戻っていく。
観客も続々と席を立ち、入り口は人で埋め尽くされる。
それを見て少し落ち着いてから行こうとそのまま席に座っていると「名前さんも、行きますか?控室」と水戸君たちに誘われた。
けど、私は遠慮させてもらうことにした。
きっと今頃は仲間たちと勝利を喜んでいるはずだから。

「じゃあね!水戸君たち。また会場で会ったらよろしくね?」
そう告げると控室へと向かう水戸君たちを見送った。

水戸君達が去った後、私は一人観客席に座り今日の試合の事を考えていた。
”すごかったな、三井君。諦めずに立ち向かっていって。止められても止められても、みんなの為に一生懸命で。
中学の時となにも変わってない。変わったのは私だけなんだな・・・。”

一人席に座って寂しげな笑みを浮かべながらそんなことを思っていた。

***

俺達は試合が終わり控室に戻ると相当疲れたのかに眠気に襲われそのままそこで寝てしまった。
恐らく寝てたのは30分くらいだろうか。
俺は一足先に起きるとまだ寝ている赤木達の間を通り抜けて控室の外へと出る。
すると近くにあるベンチに座っていた小暮は俺たちが目を覚ますのを待っていたのだろうか、ドアが開いたのを見て立ち上がると部屋から出て来た俺の所へとやってきて声をかけてきた。

「おお、三井。起きたか。」
「わりぃ。ねちまったみたいだな」
「はは。みんな相当疲れたんだろう。仕方ないさ」と苦笑いをする小暮をみる。
だが辺りを見回すと他の部員の様子が見当たらず、俺は「あれ?他の奴らは?」と聞く。
すると「先に帰ったよ。みんな起きたら俺も帰るつもりだ。三井は用意を済ませたら帰って大丈夫だぞ?」
小暮に言われて俺は準備をすると言葉に甘えて先に帰ることにした。


体育館の外に出ると歩き出ながら、名字は帰っちまったよな・・・。と考えていた。
すると後ろから「三井君。お疲れさま。」と俺を呼ぶ名字の声が聞こえた。
名字は俺の隣に並ぶと「勝ったね!決勝進出おめでとう」と笑顔で言ってくれる。
「おお。ありがとな!」と俺も笑顔で答えた。

「まだいたのか?名字。もう中には誰もいないだろ?」
「うん。入り口が混んでたから落ち着いたら行こうと思って待ってたの」
「そっか。」
”俺のこと待ってた”っていう答えを期待しつつ聞きはしたが、期待していた答えと違えど名字に会えたことに嬉しさを感じる。

「名字、これから予定とかあるか?」
「ううん。ないよ?どうして?」
「あーいや、一緒に帰ろうかなと思ってさ」
俺は少し照れながら誘うと、直ぐに”もちろん一緒に帰ろう”と返事をしてくれた名字の姿に安心した。


それから私たちは並んで家の方向へと向かう。
三井君から水戸君たちとは知り合いだったのか?と聞かれて、今日初めて会って隣の席は空いてるか聞いたら湘北の人だったから話してただけと答えた。
その答えに”名字らしいよな”とハハッと笑いながら言う三井君の様子をみて私も合わせて笑った。

私はあ!っと三井君のバスケをみた感想を伝える
「三井君凄かったね!シュートもそうだけど、特に最後のボールを追ってる姿がとってもかっこよかった!」と言うと三井君は急に黙り込んでしまう。
その様子にどうしたのかなと顔を覗き込むと真剣な目をした三井君と目があった。
目があった私は、なんだか恥ずかしくなって三井君から目を逸らしてしまう。
すると三井君は口を開いた。

「俺さルーズボールを追ってる時、名字の声が聞こえた気がするんだ。その声を聞いてなんだか力が湧いてきてさ。それでボールを繋げられたんだ。」
そんな三井君の言葉を聞いて急に恥ずかしさが戻ってきて「あ・・・その・・・。」というと私は下を向く。
すると「名字、ありがとな!」と言われ顔を上げると、私の頭をポンポンしながら、優しそうな笑顔で私を見る三井君に胸がドキドキがした。


それからなんとなく気まずくなってお互い黙っていると名字の家の前に着く。
もう少し長くいたかったな。なんて思うが仕方ない。

「三井君、今日もゴメンね?送って貰っちゃって。」
「いや、いいよ。どうせ通り道だしな」
「あはは。それもそうだね。それじゃおやすみ」

俺に手を振り名字は家の中へ入ろうとすると、それを阻止しようよ俺は名字を呼び止める。
不思議そうな顔をして名字が振り返ると、次の試合に来て欲しいと思って俺は”次も見に来てくれねぇか?”と誘う。
すると「うん!もちろん見に行くね。」と名字は笑顔で答えてくれた。


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