3.「君の声が聞こえて」

そんな心配をよそに、タイムアウト明けに得点を決めたのは三井君だった。
彼の3Pシュートによって同点へと追いついた。
これで振り出しに戻った訳だしここからが本当の勝負だね。
そう考えていると先程の三井君のシュートを見た会場がザワザワし始めた。

内容を聞いてみるとどうやら三井君は久々に試合に出たみたいだ。
全中に出てMVPを取るほどの選手だった三井君がどう見ても選手層が薄い湘北でレギュラーも取れないなんてことがあるのだろうか?と疑問に感じる。

そういえばと少し前に聞いた噂を思い出した。
「三井が悪そうな奴らとつるんでるのみたよ?」
「ロン毛で雰囲気も全然違って声かけられなかったぜ」

まさかと思っていた私はこの時聞いた三井君の悪い噂を信じてはいなかった。
だってこの前久々にあった三井君は目の前のコートで走っている爽やかなスポーツマンの三井君だったのだから。
もし、もし仮にそうだったとしても過去の話だ。あの様子だとすっかり立ち直っている。
今さら蒸し返す話でもないのだ。

三井君の3Pシュートの後、俄然気合が入ったのか翔陽に徐々にペースを持っていかれる。
そのまま前半終了となると思いきや今度は桜木君のリバウンドで10点差になるのをなんとか食い止め後半戦へと進むことになった。

***

後半。
前半に引き続き桜木君の活躍で一気にペースを掴みむと開始5分で1点差まで詰め寄よる。
その後、桜木君と11番のプレイによりついに逆転した。
すると翔陽ベンチに座っていた人が立ち上がり今までPGを務めていた9番と交代した。
ユニホームをみると4番。

「4番ってことはキャプテンよね・・・。」
試合が始まってから直ぐ翔陽には4番がいないなと思っていた。
バスケのことを良く知らない私でも番号が4番から始まることくらいは知っている。
ということは、余力を残して翔陽は戦ってたってことなの?私は一抹の不安を胸に感じた。

試合が再開されて時間が過ぎていくのにつれ私の不安はどんどん胸に広がっていった。
翔陽の4番が入ることによって他の選手たちのプレイがどんどん良くなっていったからだ。
湘北もよく食らいついているけどどうみても翔陽ペース。

それと私にはもう一つ気がかりがあった。
それは三井君のことだった。
後半に入ってから三井君はどんどん疲れてきているようで、開始10分も過ぎた頃には肩で息をしている。
「三井君・・・」
そう呟くと私に出来るのは三井君が勝つと信じることだけだった。

***

タイムアウト後、俺はコートに出るまでに一瞬名字の方向を見た。
けれど今の俺には彼女の表情まで読み取ることが出来なかった。

「三井。翔陽のディフェンスを広げるぞ。バンバンパス回すから決めろよ?3P」
そう赤木にいわれ、俺は余裕の笑みを携え”任せろ!”と自信満々に言ったはいいが、実際俺にボールが回って来て3Pを打った瞬間、翔陽の6番に止められてしまった。
それからというもの俺はボックスワンでディフェンスにつかれ振り切るために走り回る。
しつこい相手をマークを振り切り、ルーズボールを取ると3Pラインに立ち直ぐさまシュートを打つ。
だが力んで態勢が悪いまま打ったボールはゴールに嫌われてしまった。

それから時間は刻々と過ぎて行き、残り時間5分では逆に12点差まで差が開いた。
俺の様子を見て、桜木や赤木が声を掛けてくる。だが正直俺は、歩くことも精いっぱいだった。
ベンチを見ると俺を心配そうに見るチームメイト。そして、観客席で不安げな顔で俺をみる名字の姿。
居た堪れない気持ちになる。
するとボールが回ってきてシュートを打とうとすると翔陽の6番にファールをされ俺は床へと倒れ込んだ。
倒れ込んだ後、皆が心配そうに俺も元へと駆け寄ってくる。
少しして俺は起き上がると肩で息をしながら中学時代の事を思い出していた。
あの時はもっと苦しかったんだ。今なんかよりもずっと。
そうだ。あの時もギリギリの状態だったのに諦めなかったから勝てたんだ。今日だってそう出来るに決まってる。
俺はそう思うと立ち上がる。

「こういう展開でこそ俺は燃える奴だったはずだ」と不敵な笑みをこぼすと、俺はやってやる!と再び闘志を燃やすのであった。

***

三井君が敵チームに倒されたとき、思わず立ち上がってしまった。
本当に三井君は大丈夫なのであろうか。と心配でたまらない。
けれどその後立ち上がった三井君の目には、力が戻っているように見えた。

それからの三井君は今までの疲れが嘘だったかのようにどんどん動きが良くなり、シュートもバンバン入って3点差まで詰め寄ることが出来た。
水戸君たちがミッチーコールを始めて私も同じくコールを始める。すると、三井君がこちらをみて少し笑ってくれた。
それからまた1本をシュートを決める三井君。その姿に、安心感を覚える。
あぁ、もう三井君は大丈夫だな。そう思った。

11番から三井君へとパスが渡ろうとしたその時、翔陽の4番がボール触ったのかボールが三井君がいる方向とは別の方向へと飛んでいく。
三井君は、すぐさま方向転換するとボールを追い始める。あと少し、あと少しという所で、

「三井君取って!!!」
思わず立ち上がり、私はそう叫んでいた。

私の言葉が聞こえたかどうかはわからないが、三井君はボールに触ると仲間へとボールを投げる。
するとそのまま三井君の体は、ベンチへと突っ込んでいった。
三井君がつなげたボールは仲間へと渡りシュートを決め湘北の点数となった。
コートに戻ることなく、ベンチに下がった三井君の姿を見て、頬を伝う涙を私は止めることができなかった。


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