16.「気が気でない日々」

冬の選抜が終わると直ぐに冬休みがやってきた。
俺は鳴らない電話を前に悶々とした日々を送っていて日に日にため息の量が増えていった。
まだ進路が決まっていないのだ。
俺の勝手な予定では、年が明ける前にはどうにかなっているハズだった。
今さら後悔しても仕方ねぇが、落ちぶれても勉強だけはしとくんだったと思っちまう。

リビングで年末の特番を頬杖をつきながら眺めてるだけなのにため息は止まらなかった。

「はぁ・・・」
「ちょっと!さっきっからため息ばっかついてんじゃないわよ!!!」
一緒にテレビを見てたねーちゃんが俺の止まないため息にイラついたのかついに声を上げた。

「んなこといったって仕方ねぇだろ?勝手にでるんだからよぉ」
「アンタねぇ、呑気にテレビ何てみてていいの?大学行きたいんでしょ?仮にも受験生なんだから勉強位しなさいよ!!!」
「いまさら、勉強なんかしても受かんねぇよ。」
「だからってもし、これから推薦の電話があって無事大学行けても勉強についていけなくなるわよ?!分かってんの?!」
「わーったよ!!!」

俺の言葉にねーちゃんの怒りの琴線に障ったらしく怒りが収まる様子はなく居づらくなった俺は自分の部屋へと戻った。
渋々机に向かって教科書なんぞ開いてみたがやる気がでねぇ。
ねーちゃんの言ってることは正しいから反論も出来ねぇ。
俺、このままどうなっちまうんだろうな。

***

年が明けてもまだ俺の進路は決まることはなかった。
昨日で冬休みも終わり今日からまた学校だ。
これまでだったら、朝早く起きて朝練に向かっていたが引退した俺にはもう朝練などない。
選抜終わった後、直ぐ冬休みになっちまったから今日ほどいまの現状を肌で実感することはなかった。

教室に入るとまさに受験ムードが漂っており今週末に行われるセンター試験に向けて休み時間も勉強する奴が多い。
なんだか現実を突きつけられて俺の気分は沈むばかりだった。
時間はどんどん過ぎていき放課後になった。
特に用事がなかった俺は帰ろうとカバンを持ち廊下を歩き出すと、

「ここに居たか三井。ちょっとこい!」
走ってきたのか息が上がっている担任にそう言われて首をかしげつつ後をついていった。

連れてこられたのは校長室。
ソファに座るよう促され座ると、なんでここに連れてこられたのかさっぱり見当もつかない俺は頭の中でぐるぐると考える。
俺、なんかやっちまったのか?
ま、まさか留年とかいうんじゃねーだろうな?!
なかなか来ない校長を待つ間、俺の心は不安で広がっていく。
きっとはたから見れば青白い顔をしていたかもしんねぇ。

ガチャ

「おお、待たせて悪かったね。三井君」

漸く現れた校長と・・・安西先生。
ん?安西先生がなんでここに?
今度は安西先生がここにいる意味が分からず脳内は疑問で埋め尽くされる。

安西先生は俺の前に座るとゆっくり口を開いた。

「三井君。大学からオファーが来てるんだがどうするかね?」
穏やかな笑顔を浮かべながら言う安西先生の言葉は、俺がずっと待ち望んでいた言葉だった。

「ぜひ!ぜひ行かせてください!!!」
「そうか。受けてくれるか!!よかったよかった。」
校長が頷きながら嬉しそうな顔をしていたが、まさかこれから聞く話が俺は悩ませることになるとは夢にも思っていなかった。

「それで、どこの大学からですか?」
「・・・2か所からオファーが来ています。」
「2か所・・・」
「まず1つ目は、愛知の愛和学院大。もう一つは・・・」

***

俺は校長室を出ると、そのまま家へと向かって歩き出した。

「どちらの学校にするかは、ご両親とも相談してよく考えてみてください」
安西先生の穏やかな笑みとその言葉だけが頭から離れなかった。

1か所目は愛知の愛和学院大。愛知代表の諸星が通っている学校の附属大だ。
そしてもう一か所は都内にあるバスケだけでいうと3流の大学。
大学リーグでも名が高い愛和にするかそれとも神奈川からも近い都内の大学にするか。
この話を聞いた時に浮かんだのは名字の顔だった。
なぜか気になって仕方がない。普通だったらすぐ愛和だと決められたハズだった。
愛和にすると言葉を発そうとすると名字の顔が浮かんで俺の口を閉じさせた。

俺が愛和を選ぶと言う事は、都内の大学を目指してる名字とは離れ離れになると言う事だった。
俺たちは付き合ってるわけじゃねぇけど、本当にこの半年いろいろな場面で名字には助けられたし色々なことがあった。俺はいつしか名字の事が気になってしかたなくなってた。
強がりでなかなか弱い部分を見せられねぇ俺によく似た名字のことを。

「どうすっかな・・・」

俺の発した言葉は、空へと吸い込まれて消えていった。

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