15.「頑張りどき」 俺は冬の選抜で大学推薦を取るため、名字は教師を目指して志望校への合格をするためにそれぞれの時間を過ごしていた。 これまでみたいに名字が俺のバスケに見に来ることはなくなり、まるで再会した前みたいに会うことはなくなっていた。 「そういえば、名前さん最近来ませんね?」 部活の休憩中、コートに外でドリンクを飲みながら座っているとタオルを渡しにきた彩子に言われた。 バスケ部のやつらはどうして名字が来なくなったかの理由を知らない。 まぁ、わざわざ言う事もねーしな。 「いろいろ事情があんだよ。名字だって俺と同じ受験生だぞ?」 「そうですけど、この前まで見に来てたのに。もしかして三井先輩なにかしたんですか?!」 「はぁ?!なんでそうなんだよ!俺はなにもしてねーよ!!」 答えを聞いて怪しいと言いたげな目を向けた彩子に俺はひと睨みするとコートへと戻った。 名字も俺と一緒で目標に向かって頑張ってんだよ。誰にも聞こえない位の声で俺は呟いた。 明日はいよいよ冬の選抜大会の初戦だ。 俺の進路もこの試合に掛かってると言っても過言ではない。 名字も頑張ってんだから俺も頑張るんだと意気込み3Pシュートを放った。 *** それから冬の選抜が始まった。 試合は順調に勝ち進み決勝戦まで行くことができその試合は今日行われる。 俺は、IHに行く時に名字からもらったお守りを握りしめ会場へと向かった。 ”もう、ここまで来たらやるしかねーんだ!!!” いつも以上に気合が入る。 不安がないと言ったら嘘になる。 万が一、大学推薦がとれなかった時の進路は全く考えていない。 考える暇がないくらい練習に打ち込んでいた。 ただがむしゃらにバスケだけに打ち込んでいたのだ。 試合会場につくとすぐ着替えてウォーミングアップに入る。 コートに入り辺りを見回すとある場所に目が留まった。。 IH予選の時にいつも名字が座っていた席だった。 今日もその席は主を待っているかのように空いている。 「まさか、くるわきゃねーよな」 目を細めながらそう呟くと、宮城の集合!という声とともに俺の意識はバスケへと戻っていった。 ブザーとともに俺たちはコートへと入っていく。 並んで挨拶を済ませるとすぐさま試合が始まった。 決勝の相手は海南だった。 牧達が抜けたとはいえ、やはり手ごわいことには変わりがなかった。 最初は取った取られたの繰り返しでそれほど点数は広がらなかった。 もしかしたら行けるかもしれねぇ。 そう思った時に、ジワジワと来る王者の力は劣ることなく俺たちに襲い掛かってきた。 残り1分、4点差。 俺の3P2本で逆転できる。 もし、延長になんかなったりしたら俺たちに勝ち目はねぇ。 もう体力の限界だ。 勝つ以外には道がねぇ。 同点じゃダメなんだと俺の目の闘志が宿る。 残り30秒という所で、皆が必死に繋いだボールが俺の元へとやってきた。 ディフェンスはあの因縁の清田。 コイツはジャンプ力があるし、勘がいいやつだ。 焦って打ったら折角のチャンスが消えてなくなる可能性もある。 よーくタイミングを見計らって・・・ よし!今だ!!! 俺は、ボールをリングへと放ったその時だった。 「いけー!!!三井君!!!!」 会場はざわめいているはずなのに、俺の耳にはこの声しか聞こえなくなった。 そう、その声は確かに名字の声だった。 ボールはどんどんゴールに近づいていく。 俺は入るのを確信しガッツポーズをした。 シュッ ボールはきれいにゴールへと吸い込まれ、湘北に3点点数が入った。 だがその後、俺たちはあと1ゴールを入れることが出来ず海南に負けた。 歓喜に包まれる海南をよそに、俺はその場に立ち尽くしていた。 負けちまった・・・だけど、これでよかったのかもな? 負けはしたが精いっぱい試合をした。悔しくねぇといったら嘘になるが妙にすがすがしい気分だ。 俺は顔を上げると、名字が座っていた席を見た。 だけど、名字の姿はそこのはなかった。 俺の幻聴か?けど、あの声があったからあのシュートは決まったかもしれねぇな。 そう思うと、俺の気持ちは満たされていった。 *** 準優勝で終わった冬の選抜。 これで俺の高校でのバスケ人生も幕を閉じたわけだ。 後は、期待できそうにないバスケ推薦を待ちながらこれからどうするか考えるか。 とベットに寝ころびながら考えていると 「寿!!!電話!!!!」 1階から、ねーちゃんの声に俺は渋々1階へと降りていく。 「誰からだよ。」 「いいから、早く出なさい?お・と・も・だ・ち。からよ?」 ニヤつくねーちゃんの顔を疑問に思いながら徳男か?と首を傾げつつ子機をもって部屋へと戻ると保留を解除する。 「もしもし。」 「もしもし。三井君?こんばんは」 「え?名字?!」 まさかの名字からの電話で俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。 俺の顔は見る見るうちに赤くなって、この場に名字がいなくてよかったと安堵した。 「急に電話なんかしたから驚いたでしょ?」 クスクス笑いながら言う名字の声を聞いて妙に嬉しさが込み上げてくる。 けれどそれを悟られまいと普段通りの口調で答えた。 「ああ驚いたぜ!で、どうした?電話なんかしてきてよぉ」 「あ、うん。テレビでね、試合見てたんだ。それで・・・」 試合みててくれたのか!だから心配して電話くれたんだろうな。 名字は優しいやつだかんな。俺が落ち込んでんじゃねーかと思ったんだろうな。 「おお!準優勝だぜ!まーた海南に負けちまった。」 俺は、名字に変な気を使わせないようにできるだけ明るくそう言った。 「残念だったね。三井君、あんなに頑張ってたのに・・・」 「まぁ、結果はああだったけどよぉ。俺、案外落ち込んでねーんだぜ?全力でプレイしたから後悔もねぇよ。 それとな残り30秒って時に俺が3P打っただろ?あの時さ不思議なことに名字の声が聞こえたんだぜ? その場にいないのに不思議だよな。お陰で入ったようなもんだ!だから、サンキューな!」 「・・・え?そうなの?」 姿は見えねぇから予想だけど、名字が目を丸くしてたんじゃねぇかな。 「おお!驚いたぜ!ボール放ったと思ったら”いけー!!!三井君!!!!”っていう名字の声が聞こえたんだからよ」 「・・・その時、テレビの前で私そう言ってた。」 今度は俺が目を丸くする番だった。 「本当だったのか・・・」 「うん。ちょうどその時テレビの前で急に叫んだもんだからお母さんに驚かれちゃった」 「なんかすげえな。いろいろ。不思議なこともあるもんだな」 「まさか声援が届くなんてね。ホント不思議だね!」 そういって俺たちは笑いあった。 それから俺たちはこれまでの近況を話して電話を切った。 名字は、センター試験に向けて追い込みを始めたそうだ。 俺は受験はしねぇ。今日試合が終わったばっかだしこれから声がかかることを祈りながら、 さすがに疲れたのかそのまま眠りについた。 |