17.「決意」

家に帰り普段なら腹が減って立ち寄るリビングを素通りしそのまま部屋へと直行する。
カバンを放り投げるとベットへと身を投げた。
一度考えるのを止めようと眠る体制に入ってみたものの、頭の中が先ほどの事でいっぱいで眠れる気がしない。
仕方なく天井をボーっと見つめていたがそれも効果は全くない。
こんな時に相談出来る奴は・・・。
受験の時期で申し訳なさはあったが、頭に浮かんできたアイツに連絡をすることにした。

***

「いらっしゃいませ」

俺は、待ち合わせ場所のファミレスに入った。
電話をしたら俺の様子が変な事に気づいたのか、それとも気を使ってかは分からないが丁度気分転換をしたかったと言われファミレスで会うことになったのだ。

「何名様でしょうか」
店員に声を掛けらながら周りを見渡すと既に席に座っているのを見つけ、連れがいると言ってその場所へと歩く。

「よぉ。わりぃな、こんな時期に」
「いや、三井が電話してくるなんてよっぽどだと思ったし、本当に気分転換したかったから別に気にするな」
俺が連絡した相手は小暮だった。
それから俺の後を追って来た店員にコーヒーと注文をし、向かい側の席に座る。

「で、相談ってなんだ?」
席につくと小暮は間髪入れずに話を振ってきた。
「実は・・・」
俺は、2つの大学から推薦の話が来ていることを小暮に話した。

「それなら、迷わず愛和じゃないのか?」
小暮は何故俺が迷うのか不思議だとい言いたげな顔をして言った。
「いや、俺も迷わず愛和って答えると思ったんだが・・・」
言いにくそうにしたのを小暮は気づいたのであろう、
「もしかして、藍蘭の子の・・・確か名字さん?だっけ。その子のことか?」
そう言ってきた。
俺は小暮の言葉に静かに頷き少ししてから言葉を発した。
「・・・アイツさ、都内の大学を目指しててよぉ。
 もし、俺が愛和を選んだら今みたいに近くにいてやれなくなるだろ?
 ああ見えてアイツは強がりでなかなか弱い部分を見せられねぇし、何かあった時にすぐに行ってやることも出来なくなる。
 出来れば側にいてやりてぇってのと、愛和に行って上を目指してぇってのがあって決めきれなくてよ」
小暮は黙って俺の言葉を終わるのを聞いていたが、終わった後直ぐには答えず少し経った後

「三井は名字さんの事が好きなんだな」

その言葉に俺はハッとした顔をした。小暮はそんな俺の様子に構わず言葉を続ける。

「だってそうだろ?もしそういう感情がなければそこまで彼女に重きを置く必要はないし、悩まず愛和って言えただろう?」

小暮に言われて俺は自分の感情の名に初めて気づいた。
いや、今まで気づかない振りをしていたのかもしれねぇ。
気づいちまったらこれまでのいい関係が壊れちまうのが怖くて。
少しでも名字の近くにいたくて。
俺は、自分の気持ちに気づかないようにしていただけなんだ。

「三井。これはお前の人生の選択だ。確かに三井の彼女を側で支えてやりたいっていう気持ちもわかる。
けど後々その選択をしたことを彼女が知ってどんな気持ちになると思う?
お前自身じゃなくて、彼女の事を優先して進路を決めたって知ったら悔やんでも悔やみきれないと思うぞ?」

小暮に言う通りだった。
名字はきっと俺が名字の事を優先して行きたい愛和を蹴ったって知ったらきっと自分を責めるはずだ。
アイツはそういう奴だ。
なぜそのことにすぐ気づかなかったんだろう。俺って本当に馬鹿な奴だ。
そうして俺は決断した。

「・・・小暮。」
「なんだ?」
「俺・・・愛和に行く。」
小暮は俺の言葉と真剣な目見ると安堵な顔をして「三井ならそういうと思ったよ」といった。

***

そして月曜日、放課後になるのを待って俺は安西先生の元へと向かった。
小暮と別れた後、両親へは話をして俺の真剣な気持ちが伝わったのだろう。応援するよと言ってくれている。
後は、先生に俺の答えを伝えるだけだ。

「安西先生」

先生を呼び掛けると、安西先生はジッと俺の顔をみて
「先日の件、心は決まったようだね。」と言った。

「はい。俺、愛和に行こうと思います。」
「・・・そうか。三井君ならそう答えると思っていましたよ」
いつものように朗らかな顔をして先生は言うと、
「三井君。私は君に広い世界を見てもらいたいと思っている。
 大学でも活躍するのを楽しみにしているよ」と告げた。

安西先生に気持ちを伝えた翌日から推薦試験の為の準備を始めた。
試験はスポーツ特待の為、実技と面接のみとなる。
昼休みは実技の練習に当て、放課後は面接の練習の時間に当てることにした。

昼休みになり体育館のドアを開ける人は誰もいない。
転がっていたボールを拾うと、ボールをつく。
冬の選抜以降あまりボールを触っていなかった為、久々に障るボールの感触に懐かしさを感じながら
3Pラインにドリブルしながら向い、シュートした。
シュパッ
放られたボールはキレイな弧をかいてゴールを潜った。
まるで今後の運命を占うようだった。

***

数日後、試験が行われた。
実技も面接も自分なりには満足いくものだったと思う。
後は、結果を待つだけだ。
もし、いい結果だったら俺は・・・。
俺は名字に自分の気持ちを伝えるんだ。

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