14.「未来に向かって」

「なんだお前ら。そろいもそろって赤点かよ!」
あの夏を思い出すような光景に、俺は職員室の前で高々に笑い声をあげた。

テストが終わって1週間。
どんどん手元に戻ってくる結果をみて、俺はホッと胸を撫でおろす日々が続いていた。
本日ようやく最後の一つも返却され、1つの赤点も出さずこの危機を乗り越えることが出来た。
ほかの奴らはというと(まぁ。宮城・流川・桜木のことだけどな)そろいもそろって赤点を取り、
引退したはずの赤木が青筋を立てながら奴らを一瞥すると、赤点軍団とともに職員室へと消えていった。

そして廊下に残ったのは、俺と小暮と彩子。
この前は軍団の仲間だった俺も、今回は優等生の仲間入り?で廊下で奴らを待っていた。

「三井先輩は大丈夫だったんですか?」
「おお!問題ねぇよ」
「三井だけでもなんとかなって俺は安心したよ」
「ホントですね、小暮先輩」

この前の状況を知っていた小暮と彩子は俺の顔を見るとそっと胸を撫でおろした。
そんな様子をみて俺は不機嫌な顔になる。
ちっ。俺だってやるときゃやるんだよ!馬鹿にしやがってよぉ!!!

「それにしても三井。ずいぶん成績が上がってるじゃないか。受験勉強始めたのか?」
「え?そうなんですか?小暮先輩」
「ああ、張り出しを見たらだいぶ順位が上がってたんだ。」
「まさか三井先輩・・・」
彩子がまるで犯罪者を見るような目で俺を見てきた。

「はぁ?俺はカンニングなんてしてねえよ!実力だ!実力!!!!」
「なんです?誰もカンニングなんていってませんよ?」
どー見たって疑ってんじゃねぇか!!

「ちゃんとみっちり勉強したんだよ。実力だ!実力!!」
「三井が事前に勉強するなんてどうしたんだ?」
おい!小暮もかよ!!どんだけ馬鹿にすりゃ気が済むんだ?

「名字と一緒に勉強したんだよ!!!わりぃか!!!!」
俺がそう叫ぶと、彩子は目を輝かせて質問攻めするかの如く、ジリジリと俺に迫ってきたけど、
丁度いいタイミングで職員室のドアが開いた。

ぞろぞろと出てくる赤木と赤点軍団。
今回も何とか追試を受けられるらしく、赤木に小言を言われている奴らを見ながら俺は笑っていた。


***

1週間のテストを終え、私は湘北へと向かっていた。
テスト期間がずれたこともあり、行くのは約2週間ぶりだ。

ガラガラガラ

体育館のドアを開けると三井君の姿はなく、
主要メンバーを除いた部員が部活を既に始めていた。

「三井君いないな」
折角話したいことがあったのに・・・と少し肩を落としていると

「名字、来たのか。」
後ろから皆と一緒に来た三井君に声を掛けられた。
三井君は私の前で立ち止まると、他の人たちは私たちを置いて部室へと入っていく。

「うん。今日でテストも終ったから!それに三井君に話したいこともあって」
「話したい事?」
「うん。あ、でもたいしたことじゃないの。部活終わるの待ってるから一緒に帰らない?」
「おお!もちろんいいぜ!じゃあ俺も練習はじめっからここで見て待ってろよ?」
「うん。三井君、頑張ってね!!」

私が声を掛けると三井君は、二カッと笑顔を向けて部室へと消えていった。
数分後、三井君達が部室から出てきて練習が始まる。
ミニゲーム中にシュートが決まると、私に向かってガッツポーズをする三井君は本当に輝いていた。

***

「またせたな」

部活が終わると三井君はすぐさま部室に入り、着替え終えると走って私の元へと来てくれた。
残っている部員に挨拶を済ませると2人ならんで家路への道を歩き出す。

「三井君、テストどうだった?」
「あ?ああ。平均点以上取れて成績もあがったぜ!」
「そっか!よかったね!」
「おお!これもすべて名字が勉強につき合ってくれたおかげだぜ。ありがとな?」
「そんな。三井君の実力だよ。」
三井君も嬉しそうな顔をみて私も自然と笑顔になる。

「で、話ってなんだ?」
漸く本題を切り出す時となった。
私は、少し息を吸うと話はじめた。

「うん。その話なんだけどね。」
「おお」
「この前三井君と勉強した後、いろいろ考えたり調べたりしててね・・・」
「うん」
「私、教師を目指そうかなって。」
「そうか!目標見つかったんだな!!」
「うん。私の経験が誰かの役に立つならと思って。」

三井君は自分のことのように喜んでくれた。
そんな様子に三井君に話してよかったなと思えた。

「それでね、これから本格的に勉強しなきゃいけなくて暫く湘北にはいけないと思う。
三井君にバスケを見に来ればって誘って貰って本当に感謝してんだ!
だから今日は話もだけど、三井君の姿を目に焼き付けようとも思って。」

「そうか。俺はさ名字が目標を見つけてくれてよかったと思うぜ?
俺はバスケを頑張るからさ、名字は勉強頑張れよ!
ほら、もし”あーもう駄目!!”って思ったら気分転換でもしに来ればいいしよ。
電話とかしてくれりゃ話相手になってやれるからさ!!」

三井君の笑顔がとても眩しかった。
けれど、その笑顔がしばらく見れないと思うと少し切なさも感じた。
もし、大学に合格したら私は・・・
その時に私はあることを誓ったのであった。


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