12.「お互いの進むべき道」 「名字さ、一緒にテスト勉強しねぇ?」 三井君のその一言によって私たちは土曜に一緒に勉強することになった。 そしてついにその土曜日がやってきた。 只今三井君の部屋で勉強中。 2人して教科書を並べて勉強に励む。 室内に話し声は無く紙をめくる音とシャーペンで文字を書く音だけが響き渡っていた。 「なぁ。」 教科書をペラペラ捲っていた三井君がシャーペンを持ったと思ったら複雑気な顔をしながら声を掛けてきた。 「ん?どうかしたの?」 「・・・いや、ここわかんねぇんだけど教えてくんねぇ?」 そういってシャーペンでコツコツと分からない問題の所を三井君は叩いた。 私は三井君が叩いた問題を覗き込んでみる。 うちの学校では既に習っていた問題だった。 これなら何とか答えてあげられそうだと安堵の顔をした後、三井君に解き方を教えてあげる。 「ここはね、この公式を使って・・・」 三井君のノートに公式を書いて、詳しくやり方を説明してあげる。 うんうんと頷きながら真剣に私の話を聞く三井君の姿になんだか微笑ましく感じる。 「そうか!やっとわかったぜ!先公の教え方より断然わかりやすいぜ」 パーっと明るい笑顔を私に向けながら三井くんはそう言うと、俄然やる気を出したのか問題をスラスラ解き始めた。 *** それから暫くたった後。 「あー疲れた。名字、ちょっと休憩しよーぜ?」 「そうだね、ちょっと疲れたし休もうか。」 「俺、食いもんでももってくるからまってろ。」 三井君はそう言うと部屋を出た。 私は壁に寄りかかると三井君の部屋を見渡す。 ユニホームにバスケットボール、そして県大会2位の記念に取ったであろう湘北の面々と写る集合写真。 三井君の部屋には至る所にバスケのものが沢山溢れていた。 本当にバスケが好きなんだなと、誰が見ても分かるだろう。 ガチャ 「待たせたな。」 三井君が部屋に戻ってきて、テーブルの上に飲み物とお菓子を置いてくれた。 「確か名字はオレンジジュース好きだったよな?」 そう言うと私の前にオレンジジュースを置いた。 「え?なんで知ってるの?」 私が疑問そうな顔をして問うと、三井君は少し照れたような顔をして答えてくれた。 「ほらよぉ、部活見に来たときにいつも飲んでただろ?だから好きなんかと思ってよ」 三井君見てたんだ・・・。と、今度はこっちが恥ずかしくなってきた。 何とか言葉を発さないとと思った時、 「名字はこれからどうすんだ?進学すんのか?それとも就職か?」 咄嗟の質問で直ぐ答えることができなかった。 三井君は構わず言葉を続ける。 「いやさ、ほら名字は高校は陸上の推薦でそのまま上がっただろ?だから、その・・・。これからどうすんのかなって気になってよ」 きっと心配して三井君はそう聞いてくれたんだと思う。 私がもう陸上に戻れないことを三井君は知ってるから。 今の境遇は違えど、お互いに挫折を味わった者同士だ。 「うん。その事なんだけどね・・・。3年だっていうのに正直迷ってるの。これっていう目的もなくて・・・。」 もう3年の秋だというのにこの有様だ。 普通ならもういい加減に決めないといけない時期なのに目標を無くしてしまった今、大学に行くべきか? それとも就職か?そんな段階で悩んでいた。 「そうか。俺も2年間バカやっちまったから勉強で大学行くなんて絶望的でよぉ。 だから、冬の選抜で活躍してバスケ推薦で大学行ければなって思ってんだ」 そう言うと少し切なそうに笑う三井君の気持ちが伝わってきて私の胸もなんだか痛くなった。 「名字さ、先公になりてーとか思ったことねぇの?」 「え?教師?」 「おお。お前教え方上手いし悩んでる生徒の気持ちとか分かってやれそうじゃん? だから向いてると思うけど。名字なら良い先公になれそうだし。」 「・・・教師ね。」 「お?!乗る気になったか?まぁ、俺が言ったのは参考程度に思ってくれよ?名字の将来がかかってんだからゆっくり悩めばいいじゃねぇか。俺のがよっぽど危ない橋渡ってんだからさ!」 そう言うと三井君は笑った。 三井君の不器用な優しさが私にはとても嬉しかった。 「さて!続きやっか!崖っぷちの俺らに休んでる暇なんてねぇからよ!」 「そうだね!さて、やるよ!三井君!!」 そして私たちは再び勉強を再開した。 シャーペンをもって一生懸命問題を解く三井君を盗み見して笑みをこぼす。 もし私が教師になったら三井君みたいな生徒に出会えるかな? 流されるわけじゃないけど、帰ったら教員免許取れる大学でも調べようと心に決めたのだった。 |