9.「お守りに込められた願い」 俺は広島へと乗り込む為、前日荷造りをしていた。 全て入れ終わるとチャックを閉める。そして机に置いておいた小さい紙袋からお守りを出してスポーツバックにつけた。 ”応援にはいけないから代わりに持って行って?三井君達が勝てるようによーくお願いしといたからね” このお守りは名字が祭りの帰りに俺にくれたものだった。 「よーし!いよいよ全国だ。やってやるぞ!!!」気合を入れて俺は床についた。 次の日、広島へと出発する。 電車の中で読んだバスケ雑誌に、”Cランク”という屈辱的な評価をされていて正直複雑な気分になったが安西先生の言葉によりやる気を取り戻した。 そうだ。俺たちはついに全国の舞台に立つんだ。 3年前にまだ新入部員だった俺が”目標は全国制覇。日本一です”。とそう公言した目標がようやく叶う可能性がある段階までたどり着いたのだ。 これから全国の強豪と当たっていく。険しく困難な道が続いていくけれど、俺は1戦1戦悔いが残らねぇようやるしかねぇんだからな。 そう思うとぜってぇ負けねぇという気持ちがさらに増していった。 翌日いよいよ俺たちの全国デビューの試合が始まった。 相手は大阪代表豊玉高校。気にくわねぇ選手はいるわ、会場はヤジが飛び交うわで最悪な環境だったがやっぱり全国常連相手そう簡単には勝たせてもらえない。 途中流川が豊玉の4番の肘鉄を受けて交代したときはさすがにやべーとおもったが、何とか豊玉との戦いは俺たちが制して2回戦へと駒を進めることが出来たのだ。 無事1回戦は勝利をおさめたが、問題は2回戦の相手だ。 2回戦の相手は昨年の全国の覇者 山王高校。 1回戦が終わった後、宿泊している旅館に戻ると先生に去年の山王と海南との試合のビデオを見せて貰って俺は愕然とした。 今年のIH予選で俺たちがあんなに苦戦して結局負けてしまった海南相手にあの点差。 見ただけでもう無理だと諦めたくなるこの気持ちをどうやって持ち直せばいいのか。 そう思い俺は外へと散歩に出た。 旅館の近くにある桟橋から水の流れをボーっと眺めていると、俺は名字から言われた言葉を思い出した。 それはお守りを渡されたときに言われた言葉だった。 「三井君。もし、もしだけど”もうこいつにはかなわねぇ”っていう相手と当たって、もう駄目だって思った時に私のお守りを開けてほしいだ。 気休めかもしれないけど、きっと三井君の自信を取り戻すきっかけになってくれるはずだから。」と名字は俺に言った。 そうだ今こそ見るべき時だ。と思い俺はすぐに旅館へと踵返した。 部屋に着くと、何人かが部屋に戻ってきて談笑していた。 さすがに人がいるとこで読むのはなと思い、俺はお守りをカバンから外し再び桟橋へと戻ることにした。 桟橋に戻るとさっきと同じく誰もいない。 ”よし、ここなら”と思い、お守りを取り出すと紐を解いて開けてみる。 すると祈願と書かれた札のほかに小さく折りたたまれた紙が1つ入っていた。 よくここまで折れたな・・・と感心しつつ広げると、そこに書いてあったのは名字からの手紙だった。 「三井君へ これを読んでるってことは、今ピンチな状態なのかな? 本当ならこれを読まずに済めばよかったのにと思いつつ手紙を書いている私は馬鹿なのかもね。 さて、なぜ私がこれを書こうと思ったかと言うと、これまでの三井君を見ていて思ったことがあるからです。 この前三井君は、私に過去のことを悔やんでいる。そう言ってたよね。 三井君は、バスケを再開したのはついこの前で今は中学の経験だけでプレイをしている。そう思っているかもしれないけど、それは違うと思うの。 確かに中学の時の三井君も凄かったけど、今は中学の時以上に頼もしい仲間を得て信頼できるようになって少しずつ成長できているんじゃないかな? だからね、今度は仲間だけじゃなくて自分のことも信じてみませんか? 三井君ならきっと大丈夫。私はそう信じてるよ。」 「名字・・・」 俺は名字からの手紙を読んで、こんなにも俺のことを信じてくれていると思うと胸が熱くなるのを感じた。 信じてくれている名字の為にも、そして先生や仲間たちの為にも俺はここでくじけちゃいけねぇんだ。 そう思うことが出来た。 次の日、山王との試合の日を迎えた。 試合は本当に終始苦しいものだった。何度ももう駄目だと諦めそうになった。 だけどそんな時、”三井君ならきっと大丈夫。私はそう信じてるよ”という名字の言葉が俺を支えてくれた。 そして、勝つことが出来た。 みんなぶっ倒れそうになるまで懸命にやりぬいて昨年の覇者を倒したんだ! だが次の日に行われた3回戦で俺たちは嘘のようにボロ負けした。 桜木が怪我して出れなかったことも大きいが、きっと俺たちは昨日の試合に勝ったことで気が抜けてしまったのかもしれないな。 それから赤木と小暮は受験に備えて部活を引退した。 俺は1人バスケ部に残り冬の選抜を目指す。 本当だったら赤木や小暮と全国大会優勝という夢を一緒に叶えたかったのにな。 夢は夢のまま俺たちの夏が終わったのだった。 |