夏休みももう終わる。
ここ毎日の私の日課は、サーフィンをする紳一の姿をボーっと眺めることだ。

「俺な、3年でバスケを辞めるつもりだ」
そう紳一に言われたのは、インカレの優勝がかかった決勝戦の夜だった。
1点をジッと見ながら言う紳一に、相当悩んで決めたんだろうなと思った私は何も言葉を掛けることなく頷いただけだ。

そして次の日、長かった私たちのバスケ生活が終わった。
結果はインカレ2位という輝かしい結果を残し、部を引退した私たち。
紳一はプレーヤーとして、そして私はマネージャーとしての仕事に区切りを付けたのだった。

それからというもの紳一は早朝からサーフィンをしに海へと出かける。
別についてこいとも言われていないのに私も当然のごとく海に行っていた。
今日も、水面からキラキラと光を放ちながら出てくる太陽を合図に紳一が戻ってくる。

「名前行くぞ」

呼ばれて振り返ると、タオルで取り切れなかったのか髪から水の雫がポタポタと肩へと落ち、引き締まった紳一の肌を濡らしていた。
すぐさま立ち上がり紳一の隣へと並ぶと、肩にかけたタオルに手を伸ばし、そっと髪に触れ水気を取るようにタオルで髪を拭いた。

「悪いな」
「紳一ってほんと相変わらずよね」
「そうか?」
「まぁ、紳一らしくていいけど」

毎日繰り返される光景だけど、紳一とのこの空気感が好きだった。


私と紳一が知り合ったのは、今から約10年前だ。
お父さん子だった私は、サーフィンはしなかったけどサーフィンをしに出かけるお父さんについて海へと出かけた。
そんなとき、たまたま来ていた紳一のお父さんが私のお父さんと知り合いだったのがきっかけで紳一と出会ったのだ。
紳一は中学でもバスケをしていたから長い休みとかしか会わなかったけど、高校が一緒になったのをきっかけに紳一といる時間が一気に増えた。
大学に入った今でもそれは変わらず、ほとんどの時間を一緒に過ごしている。
正直お互いに気持ちを伝えあったことはないが、それなりのことをしていた私たちは言葉はなくても付き合っているも同然だと思っている。


***

今日も変わらずサーフィンをする紳一の姿をボーっと見ながら待っていた。
そしていつも通り、水面からキラキラと光を放ちながら出てくる太陽を合図に紳一が戻ってくる。
ここでいつもなら「名前行くぞ」と言われて立ち上がり、紳一の濡れた髪を拭いてあげるのだが今日は違った。

「名前」と呼んで私を包み込むように座ると、紳一は私の肩に頭を置いた。

「どうしたの?疲れた?」
「ああ。まぁ少しな。」

紳一の髪から滴る水分が私の肩を濡らしたけど、紳一の様子が変な気がしてそんなことはどうでもよかった。
すると、今まで私の方に置いていた頭を上げると、紳一はギュッと私を抱きしめた。

「紳一?」
やっぱり様子が変だと思い紳一の名前を呼ぶ。

「俺たちが出会って10年だな。
お前といると安心できる。なんでもわかってくれてる気がしてな。」


私は紳一の言葉を黙って聞いていたけど、一抹の不安を感じた。
何が言いたいのかさっぱりわからない。
紳一は私に何を言おうとしてるの?
聞いているうちに不安は徐々に広がっていき、涙がでそうになる。
今、泣いたら確実に気づかれるだろう。
太陽の光が目に染みたとか嘘でもつくしかないだろうか。
肩が震えそうになるのをなんとか抑えて紳一の言葉に再び耳を傾けた。

「けど、ちゃんと言葉で伝えなきゃいかんこともあるだろう」
そういうと、紳一は抱きしめていた腕に少し力を込め、

「名前。卒業したら一緒に暮らさないか?」

そう言った。


「・・・え?」
私は、思わず驚いて流れそうになる涙がピタッと止まる。
紳一からそんな言葉を貰えるなんて思ってもいなかった。
キスをしたのも、大人の関係になったときも紳一は何も言わなかった。
好きとか愛してるとかそんな言葉は一度も。
だから、私は付き合っているんだろうなと思いながらも時々不安に襲われていた。
言葉では何も伝えてくれない紳一に。
けど、今はこうして言葉で伝えてくれている。

紳一は腕を解いて、私を紳一の方へと向かせるとジッと私を見て言った。

「返事をくれないのか?」

紳一の目に圧倒されそうになる。
今まで見た中でも一番真剣な目だ。
私の答えは決まっている。
悩むことなど何もない。

「はい」
私はそう答えると、紳一に飛びついた。

言葉なんていらないから

「ねぇ?そもそもいつから付き合ってるの?私たち」
「高1の時からだろ?」

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