「お邪魔します。」
「どうぞ。」

あれから数週間後、私は彼の家を訪れた。
彼は流川君という大学生だった。
渡された連絡先に名前が書いてなくて電話を掛けた時、とにかく焦ったもんだ。

廊下を彼の後ろに続いて歩いていると、リビングに続くドアから爪をとぐような音が聞こえた。

「たく。またアイツ・・・」
そういうと彼は少し早歩きになり、ドアを開けると私たちの登場を待ってくれてたかのようにあの子猫が出迎えてくれた。
彼はすぐさま猫を抱きかかえると

ニャーと嬉しそうに彼に顔を擦りつけて嬉しそうにしている子猫。
抱きかかえられている猫をみて、私は声を掛ける。
「かわいい!久しぶりだね。元気だったかな?」
子猫は私の声を聞いてこちらをジッとみて目を丸くした。

「今、茶入れるから」
そう彼がいうと子猫を私に渡してくる。
落とさないように受け取ると、子猫は私にも顔を擦りつけてきた。
そんな姿が可愛らしくて猫の頭を撫でながら

「あーもう。この子、ほんとかわいいね!人見知りしないの?」
「あぁ、全然。家族に合わせた時もフツー」
「そうなんだ。いいなぁ。うちのあずき・・・あ、家で飼ってる猫ね?あずきはダメ。人見知りだし、他の猫なんかきたときなんか大変なことになったしね。」
そう苦笑いしながらいうと、マグカップを二つ持って流川君はテーブルに置いた。

「お茶、ありがとう」
「いや。・・・あんたんちの猫はあずきっていうのか。」
「うん。おじいちゃんがつけたのよ?しかもその理由がね、あずきバーが好きだからよ?笑っちゃうよね」
私が笑うと、流川君も少し笑った。

「そういえば、この子の名前は?」
「わらび。」
「わらびちゃんかぁ。かわいい名前だね!」
「・・・わらび餅が好きだから。ばぁちゃんがつけた」
「あはははは。なんかウチみたい!」
「そうだな。なんか似てんな。」

そう私たちが話していると、私の腕の中にいた猫は安心したかのように眠っていた。

「あぁ、寝ちゃったね。」
「そうだな。わりぃ、このソファの上置いてくれ。」
「ううん。大丈夫だよ?重くないし、それに起したらかわいそうだから」
そういい流川君に私は笑顔を向けた。


「そういえばあんた、どうしてコイツのこと知ってたんだ?」
「え?あぁ私、毎日ランニングしてるんだけど丁度土曜に時間があった日があっていつものコースより長く走ることにしたの。その時に見つけた。」
「そうか。俺も、バスケの練習してる帰りに見つけたんだ。」
「流川君、バスケしてるんだね。今も現役?」
「あぁ。あんたは?」
「私は、中高が陸上部だったけど大学では辞めたんだ。けど、なんか癖っていうか習慣でいまでも走っちゃってるんだ」
「そうか・・・。」

それから私たちは、お互いの猫のことやいろいろなことを話した。
猫の事を嬉しそうに話す流川君の姿がすごく輝いて見えた。
そんな様子に猫に対してのハズなのに、少し私はドキドキしていた。


私が流川君の家に来てから数時間がたった頃、

「じゃぁ、私、そろそろ・・・」
そういうと私は、席を立つ。
既に目を覚まして歩き回っていたわらびは、私が立ち上がるのを見て足に擦り寄ってきた。

「あはは。すり寄ってきた。ホントわらびちゃんは可愛いね。」
私は膝を折って、わらびのことを撫でてあげると

「・・・また来いよ。コイツも待ってっから」
顔を上げると、私と同じく膝を折った流川君の照れたような顔が目に入った。
「え・・・その・・・」
その様子を見て私もなんだか照れてしまう。

「・・・俺もアンタに会いたいから。」
顔をそむけて言う流川君の顔が少し赤くなっているのに気づき私は思わずかわいいと思ってしまう。

私は手を伸ばすと、流川君の頭に手を置いて撫でながら

「うん。また来るね」
そう返事をした。

続・好き男子

「ねぇねぇ。これからは、アンタじゃなくて名前で呼んでね」
「・・・名前」
「あはは。流川君可愛いね。なんだかわらびみたい。」
「・・・俺は猫じゃねぇ。」

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