大学のセンター試験の日当日。
私の志望校は海南大。
会場に向かう私は焦っていた。

「只今人身事故の為、運転を中止しています。運転再開の見込みは・・・」

私は東京から神奈川へと移動している途中、人身事故の影響に巻き込まれた。
試験時間より大幅に早く出たから予定通り運転再開の時間に動いてくれれば、まず遅れることはないだろう。
そう思っていた私が甘かった。

電車は確かに動きだしたが、駅に着いたとたん一気に降りた人だかりのせいでなかなか前に進まない。
本来なら海南大方面行きのバスにすぐ乗れれば問題なかったが、人が多すぎたせいで乗ることが出来なかった。
それから10分後にきたバスに乗り込む。普段ならイライラしないはずなのに試験時間が迫っているせいか信号で止まる度にイライラしていた。

そして、海南大前のバス停につくとすぐさまバスを降りて大学へと走る。
けれど、大学内は広く貰った地図だけだと方向音痴な私はどこへ行っていいかさっぱり分からない。
地図を持ちどうしようと戸惑っていると

「どうした。道が分からんのか?」
声を掛けられて顔を上げると、色黒でガタイのいい男性が私に声を掛ける。
あぁ、救いの神様はいたんだと心の中で喜んでいると

「受験生だろ?急がないと、間に合わんぞ?」
男性に言われてハッとし、すぐさま地図を見せていきたい場所を聞く。

「あぁ、そこなら俺も行くところだ。一緒に行こう」
そういうと、男性に手を取られ2人して走った。
私はちらっと横顔をみる。
走っている姿が爽やかでかっこいいなと思ってしまう。
そんなことを考えてたら、握られている手が熱くなった。


走って行くと、会場に着いたのはちょうど5分前だった。
会場について足を止めると、手を離される。
それに対して名残惜しさを感じていると

「ついたぞ。早く入れ。」
なかなか会場に入ろうとしない私に男性は、入るように促した。

ハッとした私は、
「先生!ありがとうございました!」
と頭を下げるとすぐさま扉を開け部屋へと入った。

「俺、先生じゃないんだけどな・・・」
だから私にはその後男性がいった言葉を知る由もなかった

***

それから私は無事海南大に合格し、入学してから4カ月たった頃。
今日は大学で出来た友人から誘われて、海南大のバスケ部の試合を見に行くことになっていた。

「私、バスケの試合みるの初めてなんだ」
「そうなの?面白いよバスケ!それにね、海南大にはあの有名な牧紳一がいるのよ?」
「え?マキシンイチ?誰それ?」
「あ、そっか!名前は東京出身だから知らないよね。」
そういい、友人は笑うと私は不思議そうな顔をした。

「その牧紳一はね海南大の附属高の出身で、練習は厳しいことでかなり有名なんだけど、
その厳しい部で1年生からレギュラーを取ってたの。しかも3年の時はキャプテンで16年連続優勝に導いて、
県のMVPもとったのよ!そして全国大会も2位で、県内ではbPのポイントガードなの」

友人の説明を聞いて、ポイントガードってのはよくわからないけど、とにかくすごい人だってことだけは伝わってきた。

「へーそれで、お目当てはその牧ってひと?」
「ううん。わたしは、神宗一郎君!長身なんだけどベビーフェイスでね。優しそうだし、ドストライク!!!」
そんなことを話していると

キャー!!!!

急に会場から歓声が沸いた。
見ると控室から選手たちがコートへと続々出てくる。
隣に座っている友人は、お気に入りの神君を見つけたのか「キャー神くーん!!!」といってはしゃぎ始める。
私は、そのままコートを見ていると最後に見覚えのある人が出て来た。

キャーキャーいっている友人に、その人のことを聞いてみた。
「ねぇねぇ、あの色黒の人って誰?」
「え?色黒の人?」
そう聞くと、友人は神君にやっていた視線をその人へと移す。
すると
「あぁ、あれが噂の牧紳一よ?なんだ、名前知ってたんじゃない。」
「ううん。見たことあっただけで名前は知らなかったよ。あれが牧紳一・・・ん?て、ことは学生だよね?」
「うん。学生だよ?1個上だから2年生」
「え?!2年生?!」
友人の言葉を聞いて私は腰を抜かした。

私は、受験の日のことを思い出していた。
会場に入る前、私は確かに牧紳一に「先生!ありがとうございました!」と言った。
思い出した瞬間、私の顔は真っ赤に染まる。
あーあ、やらかしたな。折角の再会に喜んでいたのに、逆に真実を知って気持ちが沈んでいった。

***

試合が終わると、友人に連れられて外へと出る。
いわゆる出待ちというやつで、友人は神君に作ってきたクッキーを渡したいらしい。
私は、牧紳一に会うのが嫌で断ろうとしたが、友人のお願い攻撃に根負けして渋々ついてくることになった。

暫くすると選手たちが出てくる。
友人は、神君が出てくると私の隣から素早く離れて神君の元へと向かった。
一人取り残された私は、居心地の悪さを感じつつ友人が戻ってくるのを待っていると、
後ろから肩を叩かれた。

「海南に合格したんだな。」
振り向くと、噂の牧紳一がいた。

「あ・・・」
何て言おうか、戸惑っていると

「そうだよな。忘れてるよな。ほら、センター試験の時・・・」
「い、いえ・・・覚えてます。」
笑いながら言う牧に、既に事実を知っている私は申し訳なさげに口を開いた。

けれど、牧はそんな私の様子を気にすることもなく
「そうか。試合見てたんだろ?楽しめたか?」
そう聞いて来た。

「あ、はい。すごく面白かったです。」
「そうか。よかった。」
笑顔になった牧はとてもかっこよかった。

「・・・じゃあ、俺行くな?」
私が次の言葉が言えず黙っていると牧は気を使ったのか行くと言い始めた。
あ、謝らないと。それが私の頭を支配してて歩き出した牧を何とか止めるべく私が発した言葉は

「あ、あの!牧さん好きです!!!!」

勢いで言った言葉は謝罪の言葉じゃなくて、告白の言葉。
周りは静まり返り、牧は驚いた顔で私を見ている。
ことの大事さに気づいた私は顔を赤くしてその場から逃げ出すように走り出した。

後ろからは友人が私を呼ぶ声が聞こえたけど、そんなの構っていられない。

街中まで来たところ急に腕を掴まれた。

「まて!」
その相手は牧だった。

再び走るべく捕まれた腕を振りほどこうとするけど、相手は男性。もちろんびくともしない。
仕方なく諦めて牧の方をみた。

「なんだ?さっきのは・・・」
戸惑った顔をして聞いてくる牧。

「あ、いや・・・本当は謝ろうと思ってたのに咄嗟にあんなことを・・・」
「謝る?」
「その・・・センター試験の時、牧さんに先生って・・・」

そう私がいうと、あぁと納得したような顔をした後、

「平気だ。気にしてない。高校の時も良く言われた。バスケの試合の時に敵チームの奴に言われたのは、
OBだぞ?しかも、それからソイツにつけられたあだ名はじぃだ。」
牧は笑ってそう言った。

「本当ですか?気にしてないんですか?」
「あぁ、本当だ。気にしてない。」
そう言われ、頭をポンッと撫でられた。
よかったぁ。と安心した顔をすると

「それより、さっきのは・・・」
「さっきの?」
「ほら、俺を・・・」
あ!勢い余って告白したんだった!!!と顔を真っ青にすると。

「ははは。ホントに面白いなお前は。百面相ばかりしている」
と笑い始めた。
「あ、あの・・・」
「俺を、引き留めるために言ったんだろ?驚いたけど、そういう言葉は本当に好きな相手に・・・「いいました。」
「え?」
「私、好きな相手に言ったんです。」

私が牧さんを好きなのはホント。
手を握られ走ったあの日から頭から離れなかった。
だから、海南大に入ってからすぐ教授名簿やらなんやらで調べたけど勿論居なくて、
ああ辞めちゃったんだってガッカリしてた。

「牧さんの事、私ずっと探してました。先生だと思ってたから名簿にもないし、辞めたんだって思ってて・・・。
今日、友人にバスケの試合に誘われなかったらきっと牧さんに再び再会することはなったかもしれません。
完全に勢いでいっちゃいましたけど、私、牧さんのことが好きなんです」

私が再び牧さんに気持ちを伝えると、

「そうか。俺も、あの日から君を気にしてた。咄嗟に手を取ったけど、会場に着いた時離したくないって思ったんだ。
だから、ずっと海南に来てるのかどうか気になってたんだぞ?そしたら今日会場で君を見つけた。
会場から出たら君がいたから声をかけないとと思って声を掛けたんだ。」
「ってことは・・・」
「俺も、君のことが好きだ」

勘違いから始まる

「ある意味運命的な出会い?」
「そうかもな」

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