7日の彼女;stage of the confirmation

俺は体育館を飛び出すと、そのまま自宅へと戻る。
帰っている間に、花形はもちろん長谷川や浅海まで俺に何度も連絡をして来たけど俺はそれを無視した。

「あーあ。なんで帰ってきちまったんだろうな。」
今さら後悔が俺の心を支配していた。

***

藤真が飛び出していった後の体育館では、俺たち翔陽の面々はいまいち何が起こったか分からず呆然としていた。

「藤真どうしたんだ?花形。」
「いや、俺にも良く・・・」
「藤真、なんかすごい勢いで飛び出していったよね。」
「そうだな。」

俺たちが藤真の事を話していると、先ほど起こったことのしらない面々は藤真はどうしたんだと何人かに問われる。
すると、湘北の面々と話しを終えた名字さんは、俺たちの姿をみて声をかけてきた。

「あれ、花形君に浅海さん。それに長谷川君。どうしてここに?」
「え?あぁ、今日俺たちも誘われたんだ。」
「そうなんだ!まさか翔陽も来てるなんていってくれたらよかったのに。」

そう名字さんがいうと湘北の赤木と小暮が俺たちの輪に入ってきた。

「なんだ、名前を驚かそうと思っていわなかったのに。」
「そうなの?ひどいなぁ公延は!」
「そうだぞ小暮。だからいってやれと言っただろうが」
「でしょ?ひどいよね!赤木君。」

名字さんと2人はかなり親しそうだった。
しかも赤木は名字に対して小暮のことは名前で呼んでいる。

「あのさ、名前ちゃん・・・」
「ん?なに浅海さん」
「その・・・この人と付き合ってるの?」
飛鳥が小暮を指さして名字さんに聞いた。

「え?私と公延が?まさかぁ、ねぇ?」
「うん。俺と名前は付き合ってないよ」
「そうなの?じゃあ、この人と?」
今度は赤木の方を指さして再度飛鳥は名字さんに聞いた。

「いや。俺も違うぞ。」
そういって首を横に振る赤木の姿を見て俺たちは不思議な顔をしていると名字さんが答えてくれた。

「浅海さん。私と公延は幼稚園から、赤木君とは中学校の時の同級生なの。」
「そうだったんだ。だから仲がいいのね!」
そうか、そういうことか。
俺は話を聞いて納得していた。

「あれ?そういえば藤真はどうした。」
「藤真は・・・「え?藤真君のここにきてるの?」

赤木に聞かれて、俺が答えようとすると藤真が来ているのを知らない名字さんは聞いて来た。

「そういえばこの前、高校の時のバスケ仲間と試合するって言ってたけど、それって公延たちのことだったんだ!」
彼女は藤真に試合の話を聞いていたのか俺が答えに戸惑っている間にそう言った。
ん?藤真から話を聞いてるってことは、藤真は名字さんを誘ったってことだよな。
だけど、今日名字さんが来るともいってなかったし、さっき見た時の”誘ったのは俺じゃないと”と言っていた。

「ねぇ名字さん。もしかして藤真からも誘われてたの?」
「あ、うん。けど今日、教員試験の結果も出るしその後、公延と先に約束してたから、藤真君の方の誘いは断ったの。」

ああ、そういうことか。

「あ、俺もちょっと用事思い出した。すまんが帰るな?」
そういって皆の元を離れた。

すると後ろから飛鳥がついてくる。
「え?透、どうしたの?」
「藤真のとこ行ってくる」
「え?藤真って・・・」
「たぶん藤真の奴勘違いしてる。だからそれを言ってくる。電話しても全然でないからな」
「それじゃ、私も・・・」
「いや、俺だけの方がいい。終わったら迎えにくるから待ってて」

そういってついて来ようとする飛鳥を俺は止めた。

***

「そういえば小暮の事、名前で呼んでたな・・・。それに親しそうだったし。」

俺は帰ってからも先ほどの体育館での出来事を考えていた。
それは試合の休憩中のこと。
タオルを取りに部室に戻った俺は電話で話している小暮と一緒になった。

『そうそうその角を曲がって右をまっすぐに行ったところ。』
『え?近くまで来てるのに分からない?』
『住所教えろ?わかったわかった。少し待ってて』

話の内容的に誰かがどこかへ行きたいのに迷っているようだった。
小暮は、携帯を片手にカバンへと手を突っ込むと名刺入れを取り出す。
あれ・・・あの名刺入れって・・・。
小暮がもっていた名刺入れは、間違いなく俺たちと一緒に行った店のものだった。

「あれ、絶対名字さんからもらったやつだよな・・・。って俺、何考えてんだ・・・」
本当の所どうかも分からないのに、俺は悪い方向へと思考が進んでいた。

ピンポーン

俺が部屋で悶々とした気分でいると家のチャイムがなる。
下に母親がいるから出るだろうとそのままでいると、コンコンと俺の部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

「はい。」
「藤真、俺だ。」

え?花形?
てっきり母親がなにか言いに来たくらいにした思ってなかった俺は驚いていた。
すると、花形と母親の話す声が聞こえてきて、母親が俺の部屋のドアを開けて部屋の中へと入ってくる。

「健司、花形君よ?・・・あら、寝てたの?」
「いや、寝てないよ。」
「だったら早く返事しなさい?花形君が困ってたじゃない。」
そういうと母親は花形にゆっくりしてってねと言って、持ってきた飲み物をテーブルに置くと部屋から出て行った。

「すまんな。藤真、急に来て。」
「いや。まだ懇親会が残ってただろう?それに浅海はどうした。置いて来たのか?」
「今はそんな話はいいよ。」
「いいって・・・「藤真、ショックだったんだろ?」

俺の言葉を遮って花形は俺にショックだったのかと聞いてきた。
ショック?俺が?・・・まぁそうだな。ショックだったのかもな。

「何も言わないと言う事は、肯定ってことでいいんだよな。」

花形は俺の顔をジッと見てなにも話さない俺に

「事のいきさつは名字さんから聞いたよ。やっぱり誘うには誘ってたんだな。
きっとそうじゃないかと思ってたからそれを聞いて驚きはしなかったよ。
むしろ藤真が急に帰ったことの方が俺には驚いたよ。」
「・・・悪かったな。」
「いや、別に帰ったことが悪いとかそういうんじゃないんだ。藤真、名字さんと小暮の関係が気になってるんじゃないかと思ってな。それで俺はここに来たんだ」

俺は、花形の発言を聞いた瞬間はすごく驚いた。けれとその事のいきさつを聞いたと言ってたからそこで聞いたのだろう。

「なんだよ。その2人の関係って」
「2人は幼稚園から知り合いだそうだ。」
「・・・そうか。それでだろ?どうせ2人は付き合ってるとかいうんだろ?」

花形は俺の言葉を聞いて「はぁ」とため息を一つつくと

「やっぱり誤解してたんだな。2人は付き合っていないそうだ。ちなみに赤木ともな」
そう俺に言った。

なんだ、2人は付き合ってなくて昔からの知り合いなのか。
そうか。そうだったのか。

「・・・藤真。もうお前の中で答えは出てるんだろ?名字さんは人気だぞ?ウカウカしてるとすぐ誰かに取られちまうぞ。」

そうだよな。
俺の中で答えはもう出てる。
もし俺の気持ちを伝えて、彼女がどう返事をくれるかは分からない。
けど、俺は彼女を他の奴になんか取られたくないんだ。

「花形。礼をいうぜ。ありがとな」

そう花形に一言言い残すと、俺は再び湘北の体育館へと向かった。

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