俺の心はわずかに踊っていた。

6.Love Candle

あれからジョージと仙道君は、一緒に寮の案内をしてくれた。

「じゃあ一通り案内も終わったし、俺は帰るよ」
「ジョージさん、ありがとうございました」
「いや、いいんだ。これが俺の仕事だしな。#名前!これから頑張れよ!彰、名前をよろしくな!!」
そういいジョージは帰っていった。

「ジョージ、いい人だろ?」
「そうだね。少しドジだけどね。」
「確かにな。俺もここに来たとき、ジョージがコーディネータだったんだ。君と同じく間違った地図を渡されたよ」
俺が笑うと彼女もつられて笑ってくれた。

「あ、もうこんな時間だね。私、片付けがあるから部屋に戻るね。」
「ああ。なんか困ったことがあったらいつでも聞いてね。」
「うん、ありがとうね。今日は仙道君がいてくれてすごく助かったよ。それじゃあね!」
そういって彼女は部屋へと戻っていくと、俺も部屋に戻ろうと歩き出した。

ガチャ

「おー彰。戻ったか。」
「どうした?ケビン」
「さっき日本人の女の子が来てたよ。彰も見た?」
「ああ、さっき話してきたよ」
「なんだ、そうか!せっかく彰を驚かそうと思ったのに・・・」
「残念だったな!」
俺は目じりを下げて笑った。

「なんだ、彰。機嫌いいじゃん。何かいいことあったのか?」
「え?いや、別になんでもないよ」
彼女はやっぱりみちるさんに似てるな。
なんていうか、顔はそこまで似てないんだけどふとした瞬間とか、声とか。
後はなんとなく雰囲気が似てるかな。
俺の心はわずかに踊っていた。

***

名前は部屋に戻ると片づけを始めた。
話によると同室の子はバカンスに出かけててあと数日は戻らないそうだ。
慣れない場所だから不安ではあるけど、一人になれたことに少しほっとしていた。

段ボールからものを取り出していくと底の方にあったものを取り出そうとしたが躊躇して手が止まった。それは、姉の結婚式の時に撮った家族の集合写真だった。
本当にもっていきたくなくて、母が段ボールこっそり入れていたのを知っては出していたけど、どうやらその後、いつの間にかまた入れられてしまったらしい。

「こんなのみたら吹っ切れないじゃない・・・」
思い出して泣きそうになるのを無理やり振り切った。
写真を取り出し、机の奥底へとしまった。
私がいつか吹っ切れて、この写真を見れるようになったらいつか飾ろう。
それまでは、さようなら。

***

次の日、私は学校周りを見たくなって寮の外へ出た。
いろいろ買い出しも必要だし、昨日ジョージさんに紹介されたところも実際に見てみたいしね。と、とりあえず先に学校を一通り見てみるかと思い、学校へと向かった。
大学は、街中から少し離れたところにあるせいか、適度に自然もあってすごくいいところだ。
絵を描くにはピッタリ。
そんな場所だった。

学校内を歩いているとバスケットゴールが見えた。
さすがだな。外にバスケットゴールがあるなんて日本では考えられない。
興味をもって近づいてくと、見慣れた顔がそこにはあった。

「あ、仙道君だ」
仙道君は私には気づかないのか、バスケットゴールへ向かっていきシュートを打った

「ナイスショット!」
あっ。まずい。思わず声が・・・
私の声に気づいたのか仙道君がこちらに振り返った。

「あれ?名前ちゃん。どうしたの?こんなところに来て」
「あははは。ごめん、邪魔しちゃって。ちょっと学校内を歩いてたら仙道君が見えたから・・・」
「そっか。学校内見て歩いてるの?よかったら俺、案内しようか?」
「え?でも、今練習中じゃ・・・」
「大丈夫。軽くやろうと思っただけだから。ね?」

私は仙道君の言葉に甘えて案内してもらうことにした。

「ここは、アートルームだよ。」
「あ、ここがそうなんだ。」
「あれ?もしかして名前ちゃんは、アート専攻?」
「うん。日本でも美術の大学だったの」
「そうなんだ。どんな絵をかいてるの?」
「うーん。主に風景画かな。この大学は絵が掛けそうな場所が沢山あって嬉しいよ」
「そっか、風景画か・・・。そうだ!名前ちゃん、これから時間ある?いいところあるんだけど行ってみない?」
「え?あ、うん。時間は大丈夫だけど・・・」
「じゃ、行こう!」

案内をしてくれていた仙道君は、急に思い立ったかのようにそういうと私を連れだして学校の外へと出た。
暫く歩くとあまり舗装されてない森の中へと道が続いていた。

「仙道君。どこに連れていくつもり?」
「え?ああ、怪しいところじゃないから安心して。それにこの先を抜けたらその場所だから」
私は少し不振に思いながらも仙道君の後をついていった。
少し行ったところで仙道君は立ち止まり「見てごらん」と言われて、私は仙道君の前に出ると

「うわぁ・・・すごい」

そこには、森林に覆われた小さな湖があって、湖の真ん中だけ上から対応の光が降り注ぎ、水面がキラキラ光っていた。

「どう?」
「うん!凄く素敵!!こんな場所があったんだ」
私はその風景に見とれていた。
すごくキレイで吸い込まれてしまいそうだ。

「よかった気に入って貰えたみたいだね」
そう、仙道君は笑顔で言っていた。


暫くその場所を見ていると、それじゃぁ行こうかと仙道君に促されてきた道を戻っていく。

「俺、たまにあそこに行くんだ。一人になれるしね。けど、名前ちゃんは女の子だから一人で行っちゃ危ないから駄目だよ?
もし、行きたい時は俺に声かけて?一緒に行くから」
そういって仙道君は、優しそうな顔をして私を見た。

「うん。じゃぁ、また行きたくなったときは仙道君に声かけるよ。」
「じゃあ、約束ね。 あ、そろそろ夕方だね。よかったら一緒にご飯でもどう?」
「あ、いいね!私、まだこの辺分からないからどこか紹介してよ」
「分かった、任せといて。」

***

それから、2人で食事をして寮へと戻った。

「仙道君には、お世話になりっぱなしだね。今日も本当にありがとうね。」
「いや、いいよ。」
「それじゃぁ、おやすみ」
そういって部屋に向かおうとすると

「あのさ!」
「何?」
「また良かったらご飯でも一緒に行かない?」
「うん。いいよ」
「じゃ、また誘うから。それじゃおやすみ」
一言言って仙道君は自分の部屋へと向かって行った。
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