背の高い、切れ長の目をしたあの人
いまはどこにいますか?

4.『あの日シャッターを切ったのは』

「おっはよー」
「おはよう」

友人名前は相変わらず元気に私に向かって走ってくる。
昨日の出来事があったせいかよく眠れず寝不足だった。

「なぁに、元気ないじゃん!どうしたのよ!」
「なにもない。」

明らかに元気のない名前の姿をみて何があったのか問う友人名前。
けれど答える気力もなく名前は、肩を落としてスタスタ歩いていく。
それを見かねた友人名前は名前の腕を掴み

「嘘いうんじゃない!食堂いこ!食堂!!」

そういうと強引に食堂へと引っ張っていった。


食堂につき適当な席に名前を座らると、飲み物買ってくるといい友人名前はその場を離れた。
その間に逃げようかとも思ったが、そんなことしたら後々面倒だと思いその場に留まった。


少しするとレモンティーを2つ持ち、それを席に置くと

「で。なにがあったの?」
「・・・」
「ちょっと!黙ってたんじゃわからないじゃない!」

黙りこくっている姿を見て必死に声を荒げる友人名前。
すると少したってから名前は答えた。

「・・・卒業制作」
「卒業制作?それがどうしたのよ?」
「見つけた。撮りたいもの」
「ならよかったじゃない!なに?風景とか?それとも建物?」
「・・・人」
「人って・・・名前大丈夫なの・・・?」
「うん。・・・あの事ならもう平気だよ」
「そっか。」

友人名前はあの事を家族以外で知ってる唯一の人だ。
だから大丈夫なのかと心配しているんだろう。
名前が平気と言っても納得しているとは言い難かったが話を続ける。

「で、その人のこと撮ったの?」
「・・・」

黙る名前の様子をみて何かあったなと思った友人名前は

「どうやらそうではなさそうね。言ってみな?」

そう言われ黙っている訳にはいかないなと思い友人名前にことのいきさつを話す。
声を掛けることは出来たこと、撮りたいといったこと。
そして「しらねぇ」といわれたこと・・・・

「なによそれ!それってひどくない?まったく人の話聞いてないじゃん!!
そんなやつ撮るのやめたら?もっと他に・・・」

話を聞いた友人名前は、怒りながらそんなのやめろと言い始めたが、名前は言葉を遮り言った。

「駄目!彼じゃないと意味がないの・・・」
「名前・・・」
「あんなに目を奪われたのは初めてだった。これは撮り逃したくない。そうやっと思えたの。」

名前の真剣な目を見て言う姿に友人名前は驚いていたが、納得したような表情になり

「名前がさ、あれ以来積極的に人を撮ろうとしたのは初めてだよね。よっぽど撮りたいんだね。」
「うん。」
「よし!じゃぁ撮るしかないじゃない!ほらさ、まだ駄目って言われたわけじゃないんだし?また行けばいいのよ!!」
「・・・」

黙る名前の表情をみた友人名前は、少し考えると

「あのさ。その彼?の手がかりとかないの?名前とかさ、そういうの」
「・・・湘北高校」
「?しょうほく高校?」
「うん」

名前がそういうと、友人名前は携帯をいじり検索しているようだった。

「名前!湘北高校、ここから近いよ!行こうよ!私もついていくからさ!!」
「え?高校へいくの?」
「そーよ!行かないとなにも始まらないじゃない!!!」

善は急げっていうじゃない?と言いながら友人名前は、名前の腕を引っ張り外に出ようとする。

「ちょっと!!ほら授業もあるしさ!」
「そんなのいーから!ほら行くよ!」

これは行くしかないと名前は諦め、湘北高校へと向かうこととなった。


「え?卒業した?!」

私たちは湘北高校へ着き、彼がバスケをやっていたことを頼りにバスケ部のある体育館に向かった。
ドアを開けると既に部活は始まっていてコーチみたいな人に話かけたのだ。名前は三井というらしい。
公園でみた彼の名前がわからないため特徴をいうと、三井は「あぁ。あいつか」といい部室にある写真を持ってきてくれた。
「こいつだろ?」そういいながら彼を指さす。

「名前?この人?」
「うん。間違いない」

少し幼さが残っていたが間違いなくこの前の彼だった。

「あの。連絡先とか学校とかわかりませんか?」

名前がそう聞くと三井は困ったようにあごの傷を掻いた。

「んーその、写真を撮りてぇんだろ?たぶん無理だと思うんだよなぁ・・・」
「なぜですか?」
「ん?あいつそういうの嫌いだろうし、こう女にキャーキャー言われるのも苦手というか・・・」
「私、彼に好意をもってるとかキャーキャー言うつもりで写真を撮りたいといっているわけじゃないんです」
「あんたはそうかもしれねぇけど、この前流川には断られたんだろ?じゃぁ猶更・・・」
「駄目なんです!」

名前が少し大きな声で言うと三井はびっくりしたような顔をした。

「彼じゃないとダメなんです。こんなにも心奪われ、こんなにも絶対撮り逃したくないと思ったのは。まだちゃんと話もしていないし、どうなるか分からないけど何もしないで諦めたくはないんです・・・。
もし、説明してそれでも彼がダメというのならその時は潔く諦めます。」

真剣な目をして話す名前をみて、三井はため息を一つ付くと

「名前は流川楓、海南大の2年。」

これでいいか?といい教えてくれた。

「あのさ、いちようあんたの名前も教えてくれねぇか?俺も教えた手前責任があるからよ」
「桜明美大の名字名前です。」

分かった。で、隣のあんたは?と友人名前にいう三井。
え?私のはいいでしょ?
いーから教えろ。
私彼氏いるしー
はぁ?お前なぁ!誰もそんな!!
それよりもさ、三井さんの自己紹介は?レディに聞く前に名乗るのは当たり前でしょ?
俺?俺か?俺は三井寿 三浦体育大の4年だ。

私は友人名前と三井さんのやり取りなどすでに耳にはないっていなかった。

流川楓 その名前だけが私の頭に木霊していた。

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