気の向くまま歩いていたあの日
私はあなたを見つけた
見つけた瞬間を私は決して忘れない

3.『あの日シャッターを切ったのは』

名前は、当てもなく道を歩いていた。
この道中いろいろなものを撮ってみた。
景色や建物を数え切れないほど。
だが、納得のいく写真は撮れていない。

「はぁ・・・」

天気はいいのにため息をつく。
ふと腕時計を目にすると、時計の針は3時を過ぎたところを指していた。
そろそろ帰る方向にいかないとな。
当てもなく歩いていたせいか降りた駅からだいぶ離れた場所にいた。
さっき通ってない道を通って駅のほうに行くか。そう呟き歩き始めた。
来た道ではどちらかというとお店が多かったが、今いる道は住宅街のような所。
正直期待できないかもと肩を落として歩き始める。

暫く住宅街を進むと

ダム。ダム。

ボールをつくような音が遠くから聞こえてきた。
なんの音だろう。
その音が気になってそちらの方向へと歩みを進めると、そこにはバスケットゴールがある公園についた。
ゴールがある公園なんてあったんだ珍しいな。と思い、手に持っていたカメラで一枚写真を撮る。
けれど、公園をぐるりと見渡しても先ほどまで聞こえていたボールの音も聞こえなければ誰もいない。
残念だったな。そう思って来た道に戻ろうとすると足音が聞こえ、またボールをつく音が聞こえてくる。

誰がいるのだろうと無性に気になって、すぐさまコートのほうに戻るとボールを扱う人物を見た。

その人はボールをつきながらゴールへと向かっていく。
まるでほかのものなど見えない。そう言うように。
するとその人はボールをもって飛び上がりゴールへと叩きつけた。
そのとき、名前の時は止まったように目を奪われた。

頭の中には
『心を奪われるような、これだけは逃がしたくない!という写真を・・・』
教授から言われた言葉でいっぱいになる。

これだ!!これしかない!!私が撮りたい写真は!
そう思いコートの人物に声をかけようと、入り口に向かうと

「なんだよ」

背の高い、切れ長の目をしたその人物に声を掛けられジッと睨まれる。

「あの、私・・・」

すると名前の肩から下がるカメラを見てから

「邪魔だ」

と言ってその人物は荷物を持ち名前の横を通りすぎた。

失敗だ。どうやら相手は気に障ったみたいだ。
これじゃとてもじゃないけど写真を撮らせてほしいなど言えない。

いつもならそこで諦めていたかもしれない。
けれどこれは、ようやくあの辛い思い出を乗り越えられるチャンスかもしれない。
これを逃したらもう二度と彼と会えない気がして、それだけは嫌だと思ったとき

「ちょっとまって!!!!」

去っていく彼に向かってそう叫んでいた。
すると彼は足を止め、先ほどと同じようにジッとこちらを見て睨まれる。
けれど名前はそれにも屈せず彼の元に駆け寄り、一度じっと相手の目を見てから頭を下げ言った。

「私、桜明美大写真学科の名字名前といいます。
 先ほどのあなたのバスケみてました。あなたの写真、撮らせてほしいんです!お願いします!」
「は?しらねぇー。そんなの。」

冷たい視線を名前に浴びせながら、またスタスタと歩いてく。

けどここで引くわけにはいかないと、歩いていく彼に向かって叫んだ。

「あの!次、いつこの公園にいますか?!」

すると彼は振り返りもせずこう言った。

「しらねぇ。」

それから彼は近くに置いてあった自転車に乗って行ってしまった。

”湘北高校”

自転車の後ろに張ってある擦り切れたラベルの文字だけ私の頭に残っていた。

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