あなた宛書いたメッセージ。
ちゃんと届いてますか?

29.『あの日シャッターを切ったのは』

流川が手に持っていた手紙が落ちた。
そうだ。今こそこの手紙を読む時ではないだろうか。そう思い封筒を開けると一枚の写真が入っていた。
それは、カフェでウォークマンを聞きながら寝ている流川の寝顔の写真だった。
それ以外には手紙らしいものは入っておらず、写真の裏を見てみると、

『流川君へ
この写真は、流川君にモデルをお願いした後、初めて話したカフェで待ち合わせをしている時に撮ったものです。
私ね、この写真をドキドキしながら撮ってたの、知らないでしょう?
「今展示されている写真の、最後のピースがこの写真。それが私からの返事です。」』

そう書かれていた。
それを見て改めて写真の下を見ると、全ての写真の下に小さくプレートが張ってある。
けれど、一番最後のダンクをする姿の写真の少し隣には、写真はないのにプレートだけ張ってあった。
そこには「最愛なる人〜erable〜」と記載されていた。

その小さいプレートだけの隣には、作者のコメントが書いてあるパネルがあった。

『この写真は、青年が夢を見つけて羽ばたいていく姿をイメージして撮影したものです。
私が、青年に出会ったのは本当に偶然でした。たまたま行こうとした街に、たまたま見つけた公園に、たまたまバスケをしている青年がいた。そんな偶然の重なり合いが私の心を奪って離さず、青年の魅力に引き付けられました。あの青年に出会ってから私は、失ってしまったものを取り戻し、沢山の人に出会い、そして夢を見つけることができました。
青年との出会いが私にとっての転機であり、これから私の人生を導いてくれる光となったのです。もし、また出会うことが出来るなら、この場所でまた会いたい。』


『もし、また出会うことが出来るなら、この場所で会いたい・・・?』
そのセリフが引っ掛かった流川は、半信半疑ではあったものの展示会場を後にする。
必ず会えるという保証はない。
けどなぜか、今日だったら彼女がいる。そう思えた。

向かっている途中、そういえばerableって・・・?と思い携帯を出し調べると
その訳はフランス語でエバーブル。日本語で「楓」だった。

なんだよ。こんな時に限って呼び捨てか?
呼ぶなら俺を目の前にして呼べ。
こんな文字上じゃなくて、目の前で。
早く名前に会いたい、その一心で再び流川は走り出したのであった。
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