私たちの運命は、ここから始まる

30.『あの日シャッターを切ったのは』

今日は、3月9日。
名前は、今、あの公園のベンチに座っていた。

ニューヨークへ旅立ってから約半年ぶりに、卒業展示会を見るために日本へと帰国した。
一般公開前に自分の展示を見ると、受付担当者へ流川への手紙を託したのだ。
流川には展示会があることは話していない。
正直見に来るかどうかも分からないし、見に来てくれたとしても彼はここには、こないかもしれない。
けれど、なぜか彼はここに来てくれるんじゃないか。
そんな気がしてここで待っている。

名前は留学した後も流川のことが気になって仕方がなかった。
あの日流川のことを突き放して、しまいにはさようなら。
流川の話も聞かないで、そう言ってしまった。
けれど、名前の中で彼を思う気持ちは変わることはなかった。
むしろ、離れれば離れるほど流川への思いは募っていった。
会いたくて仕方がないと、こちらに来てからもずっと思っていた。

それから、2月に入ったある日。
1本の電話を受けた。
電話の相手は仙道だった。

内容は、展示会のこと。
どうやら人づてに展示会の話を聞いたらしく、帰国しないのかと言われた。
勉強もあるしと迷っていたところ「流川に展示会のこと言わないのか。」と仙道に聞かれた。
もちろんモデルをお願いしたし、自分の写真を流川に見てもらいたい。けれど、あんな別れ方をしたのだからいまさら展示会見に来て?なんて言えるはずもなく「私の口からはいえない」そう答えると、分かった。とだけ言われた。
そして電話を切る前に一つだけ、といって仙道は名前に質問をした。

「今でも流川のこと好き?」

前にも聞かれたセリフだった。名前は少し間をあけて、正直に好きだと答えた。
だったら気持ちをちゃんと伝えなよ。じゃないと後悔するよ?っていい電話を切ろうとした仙道に「もし、流川君が展示会に来てくれたなら、きっと私の気持ち伝わるから」
と伝えると電話を切った。

仙道との電話を切った後、仙道の気持ちをちゃんと伝えないと。じゃないと後悔する。という言葉が頭の中を支配していた。
仮に流川が展示会に来てくれたとして、私の気持ちに気づいたとしてもなにも私自身がいないんじゃ奇跡も起こらない。
このままだと一生離れたまんまだ。
なら、傷ついてもいいからもう一度、流川に自分の言葉でちゃんとした気持ちを伝えたい。
そう思って帰国することを決めたのだ。

この公園に来てから2時間が経っていた。
正直もう来ないかもと諦めかけていたその時。
こちらに向かってくる足音が近づいてきた。
名前は、ベンチから立ち上がり足音がする方向を向くと流川がこちらに向かって走ってきていた。
それに気づいた名前は、流川に向かって走り出す。

1歩1歩着実に近づいていく2人の距離。
そして、2人は抱きしめ合った。

「名前、会いたかった」

「流川君。あの時のこと、本当にごめんなさい。私怖かったの。流川君と離れたら気持ちも離れちゃうんじゃないかって。
だから、私が戻ってくるまで待ってて。なんて言えなかったの。だから私あんなことを・・・。
けどね、ずっと後悔してた。さよならなんていったこと。ずっと後悔してたの。」

流川が来てくれたことに安心したのか、ボロボロと涙を流しながら名前は話した。

すると流川は抱きしめた腕をほどくと、もういい。そんなこと。それより、もう一度やり直させろ。とそういって名前の目をじっとみると

「名前、好きだ。俺と付き合ってくれ」

そう言われると、同じく名前も流川の目をじっとみて

「流川君、私も流川君が好きです。こんな私だし、また遠距離になっちゃうけど、私でよければお願いします。」
そう笑顔で答える。

すると、気持ちの通じあった2人は再び抱きしめ合うと口づけを交した。

暫くして唇を離す。
はずかしそうに名前が俯いてると、流川が名前の顎に手をかけ顔を上げさせる。

「もうはなさねー。ずっと名前は俺のもんだ。」
「流川く・・・」
「楓。」
「え?」
「楓。なんだ名前は、俺の事を口に出して名前でよんでくれねーのか?」
「・・・」
「俺の目の前でじゃ呼んでくれねーのか?」

そう流川が言う、彼が展示をみて私のメッセージに気づいたことに気が付いた。
名前は、恥ずかしそうに流川の目を見ると

「楓」
そう呼ぶと、頬にチュッと流川が口づけた。

「か、楓?!」
「向こうでは挨拶みたいなもんだろ?」
そういって初めて流川が満遍な笑顔を見せた。

私たちはこれからがスタートだ。
何があるかわからないけど、今度こそ2人で乗り越えて行こう。


偶然通りかかった公園で
目が奪われ立ち止まる
四角いボードに向かって飛び上がるボールを持った君に
思わずシャッターを切った

「あの日、シャッターを切ったのは」 fin....

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