私がここにいられる日も
残りあと少しだった。か

27.『あの日シャッターを切ったのは』

仙道へ相談したあの日から2週間。
名前は海南大の校門の前にいた。
時刻は午後8時半。そろそろ部活も終わる頃だろう。
本来なら連絡を入れればよかったが名前はあえてそれをしなかった。
今日もし流川に会えたら伝えよう。
そう思ってここに来たからだ。

残っていることを信じ校門の前で暫く待っていると遠くから自転車を押しながらこちらに向かう足音が聞こえてくる。

「名前?」
呼ばれた方向を向くとそこには流川が立っている。
近くにくるとどうした?と声を掛けられた。

「流川君に話があってきたの。少し話せないかな。」
流川はコクリと頷くと2人で近くの公園へと歩き出す。
その間2人は何も話さなかった。

公園につくと出入り口近くのベンチに名前が腰かけ、流川も少し間をあけて隣に座った。

「流川君。久しぶりだね。元気だった?」
「ああ。名前は元気だったか?」
「うん。私は元気だったよ。」

2人であったのは実に2カ月ぶりだった。久々に会ったので少し緊張していた。なかなか名前は言葉を言おうと思っても言い出せなかったが、暫くして落ち着くと覚悟を決め流川の目をじっとみて

「流川君。私、留学するの。1か月後に。」
その言葉に流川は驚いた顔をした。
当然のことだ会うのも久々だし、卒業制作が終わるまでは連絡とかできない。そう言われていていたしこれまでそんな話を聞いたこともなかったからだ。

「・・・いつだ?」
「え?なんの?」
「いつだ?留学決まったのは。」
「留学を決めたのは、1カ月前かな。正式に決まったのは2週間前。」
「そうか・・・。それでどこへ行くんだ?」
「ニューヨーク。」


決めたのは1カ月前で決まったのは2週間前?正直なんでもっと早くいってくれなかったんだ。と思ったが2人は付き合っていない。別に言う必要もないのだ。
けど、それでもいってほしかったと思ってしまう。
きっと彼女なりの考えがあって言わなかったことは分かっている。
だけど、寂しい気持ちだけは拭うことができなかった。


「流川君。流川君が告白したくれた時、私がなんていってたか覚えてる?」
すると流川は、コクリと頷いた。

「どうしてもやり遂げなくちゃいけないことがあるから、それが終わったら返事するっていってたよね。・・・そのね、やり遂げなきゃいけないことって来年の3月になったら終わるの。
私は流川君が好き。それは今でも変わらないけど、私はこれから留学していつ戻って来るか分からない。それなのに私には流川君に返事を待っててくれなんていえない。

だから・・・さよなら!」

流川になんて返事をされるのか怖くなり、
言うだけ言って名前は、駆け出し公園を出て行った。

残された流川は呆然としていた。
始め何が起こったのか分からなかった。
要するに俺は振られたのか?けど名前は好きだと言っていた。
留学する。待たせるのは悪い。だからゴメンねってそういうことなのか?
なんで俺に何も聞かないんだ。
待っててくれって。その一言が聞けたなら俺は待ってると答えたのに。

名前は公園から出た後、家へと向かって走っていた。
家に着くとベッドの上へと流れ込む。
すると安心したのかブワッと涙が溢れてきた。
ごめんね。流川君・・・。本当にごめんねと何度も繰り返す。
仙道に相談した後、流川に会うまでの間考えていた。何度も待っててほしい。と言いたくて仕方がなかった。
けれどそれを言ってしまったら流川のことを縛り付けることになってしまう。
そう思うとどうしてもその言葉が言えなかった。
私は流川君より自分のやりたいことを優先した。
最低な奴だと思ってくれたらそれでいい。
その日、名前の涙が収まることはなかった。

それから、1か月後名前はニューヨークへと旅立っていった。
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