教授が突然言い出したことは、
またも私を驚かせた

25.『あの日シャッターを切ったのは』

名前は公園で流川に会った後、海南大へ挨拶へ行ってからと言うもの卒業制作で多忙な日々を過ごしていた。
今日はゼミの教授との面談日。
卒業制作の進捗状況と進路について話をすることになっている。

コンコン
どうぞ。と中から教授の声が聞こえると名前は失礼しますといい部屋の中に入る。
すると「おお、名字くん待ってたよ。」とパソコンに向かっていた体を名前の方へ向けた。
座ってと促され名前は腰を掛けると

「それで早速だが卒業制作の進み具合はどうかな?」
「はい。今のところ写真の選定も終了しストーリーを書いている所です。」
「そうかそうか。そこまで進んでいるなら問題ないね。あれ、確か君のテーマは・・・」
「『心を奪われたもの』がテーマです。」
「そうそう、そうだったね。どうかな?あのテーマを言ったときに私が言った言葉は実行できたかな?」

教授に言われるとふと流川の顔が浮んだ。名前は、少し考えると
「・・・私、教授にテーマを言われたとき、正直私には無理だと思っていたんです。
けれどある出会いによって私は無くしてしまった何かを取り戻すことができました。
だから今ではこのテーマで本当に良かったと思っているんです。」

「そうか。それじゃぁ出来上がるのが楽しみだ。」
教授は名前に笑顔を向けると、それじゃ卒業制作の話はこれくらいにして卒業後の進路のことだが・・・といい話を始める。

名前は、卒業制作の作業を進めつつスポーツ専門の写真家について調べていた。
流川に出会ったことと、前回湘北に行ったことがきっかけで名前にはやりたいと思えることが出来た。
そのため、就職をせずもっと勉強をしたいと大学院への進学を考えていたのだ。

「そうか。大学院への進学を希望していると。」
「はい。更に学びたいと思うことが出来たんです。」
「そうか・・・。あ、君はたしか英語は得意だったよね?」
「はい。高校の時、半年の短期留学にも行きましたし、日常会話なら問題なく話せます。」
「それなら申し分ない。もし君が興味があるなら・・・」
というと教授は名前に1冊のパンフレットを渡した。
渡されたパンフレットをみた名前は目を見開くと

「まだ正式ではないんだが、ニューヨーク芸術大学と姉妹校提携が来月にも決定することになっていてね。そこで大学生と大学院生から1人ずつ交換留学をとの話が出ている。」
「ニューヨーク、ですか・・・。」
「そう。もちろん試験はあるが君は英語も堪能のようだし十分いける可能性はある。チャレンジしてみる気はないかい?」
教授の突然の話に驚く名前は何も言えずにいると申し込みの締め切りは1週間後だ。よく考えて決めなさい。
そういい名前の肩を叩くと部屋を出ていった。
暫くそこで呆然としていた名前も同じく部屋を後にする。


それからどうやって家に帰ったかは覚えていない。
あまりにも突然、留学の話をされて戸惑わないわけがない。
正直ありがたい話である。ようやく何をやりたいか明確になってきた所で、願ってもみない話。
しかも憧れの地アメリカ。そこで学ぶことができたらどんなにいいだろうか。

そう思う一方、名前には気になっていたことがあった。
流川のことだ。まだ正式には返事をしていないが、お互いに気持ちは伝え合っている。
もし留学が決まればいつ帰ってこれるかわからないし、なにより返事をしたとしてもすぐに離れ離れになってしまう。
どうしよう。と悩んでいると名前の頭には一人の人物のことが浮かんだ。
そうだ、彼なら何かアドバイスをくれるかもしれない。
そう思い携帯を取り出し電話をかけ始める。

「もしもし。名前ちゃん?どうしたの?」
「実は、相談に乗ってほしいことがあって。時間作ってもらえないかな?」
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