思い出を見返して気づいたことは
いま、私がやらなくてはいけないことだった

24.『あの日シャッターを切ったのは』

さて!始めますか。
名前はパソコンを起動させてデジカメとUSBで繋ぐと、先日湘北でとった写真の確認作業を始める。
ブレてしまったものやカメラテストで撮ったものなど不要なものを消していく為と、卒業制作で使えそうな写真を選定するためである。

見ているとこんなことあったな、あんなことあったなと、その時の情景が浮かんでくる。フフっと笑い作業を続けていると一枚の写真で手が止まった。
その写真は流川と仙道のマッチアップしている写真だった。
あの迫力は本当に凄かったな・・・。
2人の真剣な表情にしたたる汗、その場を流れる緊張感。
それを切り取ったような写真。
そんな2人の写真を見ていると名前は、試合前に彦一と話していたことを思い出した。

『てっきり名前さんは、スポーツ主体のカメラマンになりたいゆうとおもてました。』

「スポーツ主体のカメラマン・・・か」
最初は、スポーツって色々な表情を撮るのには最適だしその瞬間をとらえることが漠然と楽しいな。くらいにしか考えていなかった。
けれどここ最近、特に仙道が戻ってきてからの流川の凄みがいつも以上に増している様子を目の当たりにして試合や練習での変化を撮るのも楽しいけれどそれ以外の場面での感情や意識の変化を見れることや、またその瞬間をとらえることが出来ることに喜びを感じるようになっていた。
名前は、大学4年だ。この先就職かそれとも進学するのかも決めなくてはならない。
それにもう7月も後半になってきており卒業制作の制作も進めていかない間に合わない時期になってきている。
そろそろ流川の撮影も終えなくてはいけないのだ。

色々と考え事をしていて止めていた手を再び動かし始めると写真の選定を続けていく。
湘北で撮影した写真の中から、卒業制作で使えそうな写真を2〜3枚選ぶと、続けてこれまで1000枚近くは撮っていただろう流川の写真の選定に入る。


これまで写真を撮っていく中で2つのストーリーが浮かんでいた。
ストーリーは似ているが結末は異なる構成になっている。
まだどちらにするか決めかねていた名前はどちらのストーリーも作ることが出来るよう写真を選んでいくと沢山あった中から50枚まで絞った。だが、これだけでは足りない。
どうしても必要な写真を撮れていなかったからだ。

名前は携帯を取り出す電話をかけ始めた。

電話の呼び出し音が暫くなった後、はい。もしもし・・・。と今まで昼寝でもしていたのであろうか、眠そうな声で出た流川。もしかして寝てた?と聞いてみると、寝てたとの返事にクスリと笑いそうになる。

「で、どーした。休みに連絡してくるなんてめずらしーな。なんかあったのか?」

「うん。実はね、そろそろ卒業制作を始めなきゃいけなくて写真を整理してたんだけど、
どうしても追加で撮影したい写真があって・・・。もし、今日とか明日とか時間があるならお願いしたいんだけどいいかな?」

「・・・今日。これからあの公園で練習するつもりだった。俺もこれから準備して向かうから、迎えに行く。用意してまってろ。」
流川が電話を切ると、名前は出かける準備を始めた。

準備が終わり外で待っていると、流川が迎えに来た。
いつもどおり自転車の荷台へ名前を乗せると、あの公園に向かって自転車を漕ぎ出す。
今日は、初めて出会ったあの時と同じくとてもいい天気だった。


公園につくと、人の姿はなく撮影するにはもってこいの状態。
じゃぁ、早速だけど撮影したいからと、カメラの準備を始める名前を横目に、流川はボールをつきながら考えていた。

名前から連絡をもらった時、『卒業制作を始めないといけない』そういっていた。
始めるということは、もうすぐこうやって2人で会ったり、部活に来て名前が写真を撮影することもなくなるのだろう。
今まで毎日のように会っていた名前と会えないことに正直寂しさを感じる。
流川は、名前に告白をしたものの、返事はやるべきことが終わったらもらうことになっている。
もちろんこれからその制作を始めるわけだから、返事をもらえるのはずいぶん先のことになる訳で、暫く会えなくなるだろうなと考えていると

カシャ。とカメラのシャッター音が聞こえた。

「よかった!ちょうど撮りたかったショットだったから助かったよ!」
「・・・俺が考え事してる姿が撮りたかったのか?」
「うん!あ、けどそれだけじゃないよ?他にも撮りたいのあるし!流川君はそのまま練習続けて?」
そういうと名前は、少し流川から離れるとカメラを向けてくる。

流川は言われた通り練習を始めた。
ドリブルしたり、シュート練習したりを練習を進めて行くと、夕方になろうとしていた。
そろそろ帰るかと流川は練習をやめ、ボールをもってベンチに向かおうと歩き出すと、
今ままで何も言わず写真を撮り続けていた名前は、

「流川君。帰る前にお願いがあるんだけど。」
「なんだ?」
「ダンク、やってくれないかな?最後に。」
流川は、ああと思い出した。
そもそも名前が流川に写真のモデルをお願いしたきっかけは、この公園でダンクをしていた流川をみたのが事の始まりだった。
あの日、この場所に流川がいなかったら。名前がここに来なかったら。2人は出会うことはなかったかもしれない。
そう。ここでダンクをすることに最大の意味があるのだ。

「わかった」
流川は、すーっと息を吐くと、ドリブルを始めた。
名前は、カメラを構えて流川を撮る。
流川のドリブルする姿、ダンクをしようと飛ぶ姿。
そして、あの日見たボールをゴールに叩きつけるダンクをしている姿。
名前はあの日見たことを撮り逃さないようにとシャッターを切った。
写真を撮り終えると、名前の目から涙が一筋流れた。

「名前?」
「・・・流川君。」
「どうした?満足いくものは撮れたか?」

名前から流れる涙を指で拭う流川。
「・・・うん。ばっちり。」

流川は、なにも言わず名前を抱きしめた。
すると名前も流川へと腕を回してギュっとする。
「流川君、今までありがとうね?流川君のお陰で、私色々なもの取り戻せた気がする。これから、私、卒業制作頑張るから!・・・だから」

すると、流川は何かを悟ったように
「・・・大丈夫だ。待ってるから。」
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