海で会った釣り人の 本当にいるべき場所は 海ではなく 体育館だった 20.『あの日シャッターを切ったのは』 体育館に響き渡った名前の声は、目の前にいる仙道の鼓膜を激しく震わせる。 仙道はいきなり目の前で叫ばれて、なにも防御ができなかった耳はジンジンしていた。 暫くして耳の痛みも少し収まるとへラッと目じりを下げて笑いながら 「やぁ。昼にあったね。写真家さん。」 「釣り人さん、校門で待ってたんですよ?まさか、体育館にいたなんて。」 二人とも名乗っていないので相手の知っている情報から写真家さん。釣り人さん。と呼び合う。 そんな様子を見かねた牧は飽きれた顔をしてお互い名乗り会ったらどうだといわれ、 互いに自己紹介をした。 「それで、名前ちゃんはどうしてここに?」 「あ、それはね・・・」 すっかり忘れてはいたが、校門で待ち合わせしているはずの名前がここにいることが気になり聞こうとすると、流川がこちらにやってきて名前の言葉を遮り 「仙道にはかんけーねー、名前答えんな」 仙道はなぜ流川がここでいきなり出て来たのか分からずポカンとしたが、なにかあるなと感じ、流川のことは無視すると 「あー名前ちゃん。悪いんだけど俺はこれから部活だしその写真練習終わるまで持っててくれない?」 そういった。 今だって本当は受け取ることは出来てたのに、こう言ったのには理由があった。 この理由であれば名前は待っているしかないし、待っている間に何かわかるかもしれない。 そう考えてのことだった。 まさか仙道がこんなことを考えてるとも知らない名前は、わかった持ってるね。といい 部活が終わったあと写真を渡すことに承諾したのだ。 名前と仙道の話が終わったを見計らって牧は集合といい部活を始ると、仙道はランニングしながら考えていた。 先程聞きそびれてしまったこともあり、名前について気になることが2つあった。 1つ目は、なぜここにいるのか。 ここは見学禁止である。仙道がいた1年前も、そして今もそれは変わらないはずなのに彼女は当然のごとく其処にいた。他校生だし、海南大にはない写真学科の学生だといっていた。先程牧と一緒に来たので親戚か何か?とも考えてみたが親類だとしたらよそよそし過ぎるし、それだけの理由で見学を許可したとも考えにくい。 2つ目は、流川となにか関係があるのか。 これは先ほど流川が出てこなければ思わなかったことだが、女性関係ではなにも襤褸が出て来ない流川のあの反応に、これは絶対何かあるなと純粋に気になったからであった。 そう考えているうちにランニングが終わると3on3を始める。 すると今までジッと見ていただけの名前は、持っていたカメラをこちらに向け始めた。 ますますおかしい。そう思いちらっと名前を観察しているとあることに気づいた。 カメラのレンズは常に流川を捉えている。 もし、彼女がただの流川ファンだったり恋人だったとしたら、部として撮影はおろか見学も許しはしないだろう。 けれど写真まで撮っているというのに誰もなにも言わないし、なによりそういうのが苦手であろう流川もいつものことだともいうように変わりなくプレーをしていた。 これは面白いことになりそうだ。 そう心で呟くと仙道はプレーに集中した。 名前は、ランニングしている皆をみつつ考えていた。 あの海であった釣り人が、まさか流川の学校の人でなおかつバスケ部の人だったなんて。 本当に最近バスケ絡みの知り合いが増えたなとつくづく感じていた。 そういえば仙道は、どこからか帰ってきて今日ここに来たみたいなことを言っていた。 今までどこにいたのだろう。 どこかにいってたっていうならすごいプレーヤーなのだろうか。 そう考えていると3on3が始まり、いつもの如く流川へとカメラのレンズを向けた。 しばらくすると流川の相手が仙道にかわり、カメラ越しからなにか空気が変わったことが伝わってきた。 「久しぶりだな!お前と戦うなんて。」 「今日も俺が勝つ。」 ギロっと流川は仙道を睨みつけると、参ったなと呟きつつ嬉しそうな顔をする仙道。 相変わらず流川の仙道へ対する闘志は、高校時代も、1年前も、そして今でさえも変わっていないのだ。 名前は、2人のプレイにくぎ付けになっていた。 どっちもお互いに引かず真剣に勝負する姿。 流川がすごいプレーヤーということは、いままで見ていてよく知っていたが、それに負けないくらいに、むしろそれ以上に仙道はすごいプレーヤーなのかと素人目でもはっきりわかった。 あまりにもすごいプレーを見せつけられて、思わずカメラのレンズを覗くことをやめていたが、これは撮らなくちゃダメだ。 そう思い、再びカメラを持ち仙道と勝負する流川の姿を写真に収めた。 流川と仙道のプレイを見ていたらあっと言う間に部活は終りの時間になっていた。 仙道に写真を渡さなきゃ。そう考えていたが、なにしろ仙道は久々に部活に来たばかりで色々な人につかまりなかなか帰る様子がない。 するとその様子に気づいた神が名前に声を掛けた。 「名前さん」 「神君。」 告白の返事をした日以来、面と向かって神と話していなかった。 自然に話せるかなと心配していたがそれはどうやら考えすぎだったようだ。 普段通り受け答えができていた。 「仙道のこと待ってるんですよね?さすがに今日はあいつ、なかなか帰れないと思いますよ?」 「そうだよね・・・。けど、写真渡さないと帰れないしな。」 「なら俺が預かって仙道に渡しましょうか?」 神から受け渡しを買って出られお願いしようかとも思ったが、やはり協力してもらったのだから自分の手で渡すのが筋だろうと考え 「うーん。神君の言葉はありがたいけど、自分で渡すよ!気を使ってくれてありがとね!」 そういうと神に向けてにっこり笑った。 「やっぱり名前さんは笑顔が一番ですよ! ・・・正直、今こうして話してますけど話しかけるときちゃんと答えてくれるかなって不安だったんです。けれど、話しかけてよかったなって今は思いましたよ。」 「神君・・・」 ああ。神君も私と同じ気持ちだったんだな。そう思うと申し訳ないとも思ったが、 これからもいままでどおり神君と話したりできるんだなと思い心が晴れた。 そんなやり取りをしていると、部室から仙道が出てきてこちらに向かって手招きをする。 それをみた名前は、神の元を離れ仙道の方へと向かっていった。 「お待たせ。みんなに捕まっちゃってさ、遅くなってゴメンね名前ちゃん。」 「いえ、大丈夫ですよ」 そういい名前は写真を渡そうとすると、 「まった!まだここでは受け取らないよ?」といい、名前の耳元で 『これからちょっとつき合って?それにつきあってくれたら写真受け取るからさ。』 といい耳元から離れると名前をみてニッコリ微笑んだ。 ああ、これは断れない。そう思った名前は、わかりました。と返事をすると 今、流川は部室にいるから気づかないうちにといい、急いで外に出ようとする仙道に、おいて行かれまいと名前もその後に続いた。 |