その日何度か見かけたそのひとは
ツンツンでハリネズミみたいな髪をした
流川君より少し背の高い人

19.『あの日シャッターを切ったのは』

その日名前達は、授業で外へと来ていた。
今日のテーマは、自然体。
教授は、目に入ったものはどんどん撮っていけ。
ただそれだけ言って私たちを外へと向かわせた。

最終学年になった私たちには、同然ながら以前より難しいテーマを与えられる。
この前なんて季節外れなのに桜の木を撮ってこいなんて言われて困った記憶は新しい。
あと2時間ちょっとで自然体な写真を撮らなくてはいけないのだ。
しかも追加でいわれた条件は、知り合いの撮影はNG。
そう言われてさらに難易度の高い課題になった。

「名前はどこ行く?とりあえずどっか行かないとだよね。」
「うーん。私、海に行こうかなって。」

それを聞いてそっかそっか!と言うと友人名前は、じゃぁ私は街でなんか探すわ!
そういって別れた。

大学から歩いて20分のところに海がある。
もうそろそろ海に入れる時期だが、夏休みでもなんでもない今、海にいる人の数は疎らだろう。
あとは何を撮るか、問題はそこなのだ。

考えながら歩いていると海についた。
そこには、人を待ちわびているとでも言いたくなるような、太陽に照らされた海水がキラキラ光っている。
正直授業じゃなければ海の写真ぱかり撮っていたかも知れない。

とりあえず歩いてみるか、と海岸歩いてみる。
途中、打ち上げられた貝殻や海を進んでいくボートなどを撮ってはみたが、なにかしっくりこない。
うーんどうしようかな。そう思い周りを見渡すと、船着き場に数人がポツポツと座っているのが見えた。

「あれ?あの人たち、何してるんだろう」
興味が惹かれた名前はそちらへと足を向け歩いていく。

近づいていくとどうやら釣りをしているようだった。
釣りか・・・と呟くと、名前からみた一番近くに座っていた人の釣り竿に魚がかかったらしく、釣り竿がビクビクといい始めた。
それを見るととっさにカメラを構える。
すると持ち主が竿を手に取りレールを引き始め、暫くすると海水から魚が離れる音がし、
思いっきり引き上げるとそこには大きな赤い魚が釣れていた。
その瞬間を写真に撮った。


名前がカメラチェックをしていると、釣り上げた本人の自然な笑顔が印象的な写真になっていた。
これは、いい写真だ。と思い笑顔になるが、とっさのことで、名前は許可を取っていないことを思い出し、
先ほど魚を釣り上げた人へと向かって歩き出そうとすると、いつのまにか目の前にいたその釣り人は

「どー?いい写真は撮れたかな?」
「勝手に撮影してすみません。すごくいい表情だったのでつい。」
よくよくその人を見ると流川君くらい?いや、むしろそれ以上?高い背をしたハリネズミみたいな頭をしていた人が立っていた。

名前が見つめていたせいか、釣り人は参ったなといい目じりをさげる。
いかんいかん。と頭の考えを振り切ると名前は許可を取るべく
「私は桜明美大写真学科の学生なんですけど、今日の課題でどうしても先ほど撮影した写真を使わせていただきたいんです!・・・あの、使わせていただいてもよろしいでしょうか?」

釣り人は、ニコッと笑うと
「いいよ。けど条件が一つ。・・・その写真、現像したら俺にくれない?」

もちろんあげるのは簡単なことだったので、その条件をのんだ。
現像ってどれくらいかかるのと聞かれて、今日できますと答えると

「じゃぁ、今日の午後5時に海南大の校門の前で。そこで受け渡しね。」
それだけ言うと『俺、そろそろ行かなくちゃ』と呟き歩き出そうとする。

ずかさず名前は釣り人を呼び止め
「あ、あの!名前は?!」

「それは会った時に教えてあげるよ」と言い残しその場を去っていった。

不思議な人。そう思いながら名前は、学校へと戻ると急いで現像室に入り現像の準備を始めた。
いつもなら提出用の1枚だけだが、あの釣り人に渡すため2枚現像をする。

現像を終え、提出用の一枚にコメントを書き提出する。
その時はすでに4時半を回っており、急いで海南大へと向かった。


着いたのはぎりぎり5時前だった。
校門でと言われたのでそこで待ってみたが、10分たっても20分待ってもあの釣り人は現れない。
どうしよう、場所と時間聞き間違えたかな?そんな不安も出てきて険しい顔をしてると

「名字、そこで何してるんだ?」
そう言ってきたのはバスケ部キャプテンの牧だった。

「牧君!」
「すごい険しい顔してたぞ?」

といい牧はクスクスと笑う。
その姿をみて恥ずかしくなったのか名前は赤面していると

「それで?こんなところで何してるんだ?」
「うーん、待ち合わせ。けれど約束の時間過ぎてるのに相手が来なくて。」
「待ち合わせ?流川とか?」

名前がここで待ち合わせするなら流川しかいないだろうと思い牧はいうと、
意外な答えが返ってきた。

「いや、ちがくてね。釣り人を待ってるの。」
「え?釣り人?」
「うん、実は・・・」

名前は、牧に詳しい事情を話し始める、
それを聞き終えると牧は、先ほど名前が険しい顔をして考えていたことと同じことをいい、諦めて部活を見に行け。と言った。
確かに聞き間違えたのかも。そう思い牧の勧めにしたがい体育館へ向かうことにした。


体育館につくといつもと違い少しざわついていた。バスケをするわけじゃなく、体育館の真ん中に人が集まっている。
牧は、通常始まっているはずの部活をやってる様子も無いのを変に思い、なにがあったのかとその人だかりへと向かっていき

「何をしている」
そう牧がいうと、人だかりの中心からツンツン頭の人がひょこっと現れた。

それを見ていた名前は、あれ?あの人釣り人さんに似てる。と思ったが、後ろ姿だけで顔は見えず確信が持てないでいた。

ツンツン頭の人が牧に近づくと、

「牧さん、ご無沙汰してます。」
「どうした仙道、なんでここにいるんだ?」

牧がそう言ったとたん周りが笑いの渦へと包まれる。
牧はなんで笑いが起こってるのかわからずキョトンとした顔をしていた。
それを見かねた神は、

「牧さん。仙道が戻って来るって昨日言ってたじゃないですか。」

神に言われ牧は、「ああ、そうだったなと」といい、全く気にする様子もなくいうと
「ひどいなぁ」といいつつへラっと笑う仙道。

すると急にあ!っと何かを思い出したのか声を上げた仙道に周りは注目する。
「そういえば、約束してたの忘れてました。」

ん?なんのだ?と牧に問いかけられると
昼に写真を撮られてそれを受け取ることになっているんですよと仙道はいう。
それを聞いた牧は、そういえば名字もそんなようなことをさっき言っていたなと思い、

「仙道、もしかして約束した人ってのは小柄でショートカットの女性か?」
「え?なんで牧さん知ってるんです?」

驚いた顔をして言う仙道に牧は少しため息をつくと、名前のいる方向を指さした。

「お前の約束した人は、あの人か?」
牧にいわれ指をさしている方向を見ると、そこには先ほど会った名前がおり、
「あ!そうです。そうです」といいながら、名前の元へと向かって行く。


一方名前は、あのツンツンの人は誰だろうと思っていた。
バスケ部は何度もみたけど彼のことは一度も見たことがない。
誰だろうと考えていたため先ほどのやり取りは全く目に入っていなかった。
そして、ふと視線を感じ前を見るとそこには今まで考えていた張本人がいた。
顔をまじまじ見るとあの釣り人と同じ顔をしていて名前は、

「あー!!!!釣り人さん!!!」

その叫び声は体育館の中に響き渡っていた。

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