人のやさしさに触れて
泣きそうになる
私は泣いていい立場じゃないけれど
やさしいあなたは私を責めなかった

18.『あの日シャッターを切ったのは』

名前と友人名前は最近できた洋食屋にいた。
ここはハンバーグが有名らしい。
ゆっくり食事を楽しんだ後、友人名前は気になっていたことを名前に聞いた。

「それで、この前の神君の件はどうなったの?」
「・・・告白された。」
聞いて、ああやっぱりと友人名前は呟いた。
で、返事は?と聞こうとすると名前が先に話はじめる。
話された内容は、友人名前にとってすごく驚くべきことだった。

「それと・・・流川君にも告白された」

それを聞た友人名前は思わず大きな声を出しそうになると、名前は急いで友人名前の口を手で塞いだ。

「お願い!ここで叫ばないで・・・」
ごめんごめんと友人名前が言うと、口を塞いでた手をとった。
すると友人名前は、ニヤニヤした顔にかわり

「告白、しかも2人から!ほんと名前すみにおけないわね!」
「本当にびっくりしたよ。」
「それで?返事したの?2人に」
「んー神君にはまだ。流川君には返事したっちゃしたかな」
「なに?神君の方は分かるけど、流川君のはいったい何?」
なんとも歯切れの悪い言い方に友人名前は突っ込んで聞いてきくと、名前は、事情を話した。
聞き終えると、そっか。といい納得したようだった。

「で、神君にはいつ言うの?もう答えは出てるんでしょ?」
「うん。そのことなんだけど、今日にでも言おうかなと思ってる。」
そういうと名前は、時計を見た後席を立った。

「もう行かなくちゃ。今日は体育館に行くって流川君と約束してるの。」
「そう。いろいろ頑張って!」
友人名前の言葉を聞きながら店を後にして海南大へと向かった。
体育館につくと練習は既に始まっていて、静かに体育館の中へと足を踏み入れる。
いつもの位置に行き流川君の撮影を始めた。
写真を撮っていると普段は流川君と目が合うことはないのに今日はレンズ越しで何度か目があっていた。

暫くすると練習は終わり、そのまま帰宅する人と自主練する人で体育館はザワザワしていた。
人が少なくなったのを見計らって、名前は神に声をかけた。

「神君。」
「名前さん!」
「シューティングが終わるの待ってるから、その後少し話せない?」

そういうと神はピンときた表情を一瞬した後、笑顔で
「はい!すぐ終わらせるんでちょっと待っててください」


神の自主練を待っている間、名前はあまり見ることのなかった神のシューティングの姿を見ていた。
すごいな。
素直にそう思った。
どの場所から打ってもほとんど外さないのだ。
ボールはそこが居場所なんだというようにキレイにゴールへと吸い込まれていく。
私も運動できたらな!なんて考えていた。


しばらくすると、すると神から声を掛けられた。

「名前さん」
「ん?何?神君?」
終わったのかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。

「あの。次、ラスト一本なんですけど・・・俺の写真撮ってもらえませんか?」
そう言ってきた。

それを聞いた名前は、ああ、きっと神君は分かってるんだなと思い、「うん。いいよ!」と返事をいって撮ることを了承した。

じゃぁ行きますね!と、コートからこちらに向かってそういうと神はシュートモーションに入る。
その言葉を聞き名前は、すかさずカメラを構える。
神の最後に放った一本は今まで打ってきた中でも一番いい弧を描いてゴールへと吸い込まれていった。
ゴールを通ったボールが弾んでいる。
その他にはなにも音がしない。


「名前さん。俺、名前さんのこと好きになってよかったです。だから、名前さんは自分の好きな人の所にいてください」
そう笑顔で言った。

名前はそれを聞いて涙が零れるのを堪えながら
「ありがとう。神君!」
同じく笑顔で答えた。

そしてそのまま名前は体育館の外へと出ようという時、神は名前を呼び止めるように
「写真!撮ってくれてうれしかったです。」

そう言われ名前は、振り返って神を見ると

「私も!神君のこと撮れてよかった。」
といい、体育館の外にでた。
体育館を出た後、一筋の涙が流れたがすぐに吹き去り校門へとむかって歩き出した。


するとそこには流川が立っていた。

「・・・言ったのか?」
名前は、うんと頷いた。

その様子をみて流川は返事については何も聞かず、「送る。後ろに乗れ」といい自転車の荷台を指さした。
名前が自転車に跨ると、流川は、家へと向かって自転車のペダルをこぎだす。
その間二人は何も話さなかった。

家につくと流川は、
「・・・明日も見に来るか?」

うんと頷く名前をみて、そうかと小さく呟き流川は再び自転車に跨ると

「名前。おやすみ」
そういって帰っていった。
初めて呼び捨てにされたことに気づいた時にはもう流川の後ろ姿はなかった。

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