ドッチボール・後編


06


「さーて!じゃあドッチボールやりますか!」



辺見の声で試合の時間となった。組み分けは、単純にペア同士でグーとパーに分かれた。
跡部率いるグーチームと、寺田率いるパーチーム。単純戦力ではパーチームの方が有利なように見えるが、頭脳プレーも考えると、イーブンといったところか。ジャンケンの結果、ボールはグーチームからとなった。外野に苗字と上森の姿が見える。上森頼んだ!なんてのんびりした苗字に、はあ?てめえがやれよ、と上森が呆れたように返している。


ピー、という笛の音で試合は始まった。外野の上森との連携で、パーチームを1人、開始早々に外野へ送った。だるそうに避ける男子や、怖がって避ける女子など、みんなが参加せざるを得ないドッチボールはクラスで遊ぶにはとても良い。


15分をすぎる頃には、コート内には数名しか残っていなかった。両チーム共に、球技に強い者が残っている状態、拮抗状態が続く。
パーチームチームの残りは寺田、濱の2名。対してグーチームは跡部、富永、そして何か間違えて避けに避けて残ってしまった苗字の3名が残っている。
当てるなら、女子だ。両チーム共にそう考えたのだろう。寺田の投げた球が苗字を仕留めた。


『いったぁー!ちょっと跡部!私が痛みに耐えて捕ったボール、ちゃんと活かしてよね!!』
「なに当たり前のこと言ってやがる。おら、外野で大人しくしとけ」
『ちぇー』


ボールを受け取った反対の手を苗字の頭にぽんと置くと、寺田を真剣な目で見据えた。



「さて、仇討といこうじゃねえの」
「ちょ、跡部目がこわ」
「あぁ?」
「ちょ、ま、」
「問答無用」


ばあん!と大きな音を立てて、寺田にボールがぶつかる。


「ってぇー!ちょっとは加減しろよな!」
「知らねぇな」



寺田に当たったボールがころころ..と外野へ転がる。そのボールを拾った苗字はにっと満足気に笑った。



『さっすが跡部!』
「跡部やったれー!」
「誰に向かってもの言ってやがる。当たり前だ」


外野から投げられた苗字のボールは大きく弧を描いて、跡部の元へ届いた。
跡部のボールは外野の上森に向かって投げられる。上森は受け取ると即座に跡部へ返す。
外野へ、内野へとスピードのある鋭いボールが飛び交い、濱を襲う。あまりのスピードと球威に受けることができず、避け続けることしかできない。



「フィナーレだ」


にやりと笑いながら跡部が投げたボールが濱へと向かう。ばあん、と音を立ててボールが宙を舞う。どうやら、バレーボールの要領でレシーブをしたようだが、それは不格好に打ち上がり天井にぶつかった。



「あ」



そのボールはひょろひょろと弱々しくグーチームのコートに落ち、見事グーチームが勝利を収めた。



「グーチームの勝ち!」


ピー、と笛が鳴った。グーチームが各々ハイタッチを行い、負けたパーチームもお疲れ様と笑顔を見せた。



「跡部、さすがやなぁ」
「当たり前だ。俺様の美技は何にでも通用する」
「いやそこやなくてな。...仇討。さすがやなぁ思ってな」
「あーん?」
「いや、わからんのやったらええわ」


「今はまだ..な」


忍足の意味深な言葉にハテナマークを浮かべている跡部。後ろからだだだと足音が聞こえた。


『跡部ー!さっすが!ありがと!』
「当然だ」
「さすが跡部くんよねー、あれはどうしようもないわ..」
『濱ちゃん痛かった?大丈夫?』
「いつもの部活に比べたらなんてことないし、大丈夫!」
「それにしてもほんと跡部くんって手加減しないわよね。女の子相手の球じゃなかったわあれ」
「あーん?」
「近衛もそう思う?女子に優しいとか噂されてるけど、クラスメイトには容赦ないよねー」
『まぁそれだけ素で接してくれてるってことかな』
「うちら3年も同じクラスだし?」
「そういう意味では跡部くん、クラス替えなくて良かったわね」
「..まあな」


いつもの高慢な笑顔とは違う、純粋に爽やかな笑顔。女子3人は思わず顔を赤らめた。


「あの笑みは反則だわー」
「絶対わかってない」
『もう、クラスメイト殺しにかかってるよね』


「あ、そーいや」
「なんだよ」
「あれ。さっき濱が打ち上げたボール目で追っかけた時に気づいたんだけど」
「ぎちぎちにはまってんじゃん」


寺田が思い出したように声を上げる。クラスメイトたちが何事かと集まってきた。上森の問いかけに応えてあれ、と指さした先には、天井と梁との間に挟まっているボールがあった。


「誰だよあんなとこに挟んだやつ」
「え、いつからあった?」
「初めて気づいた!」
「見事に挟まってんねー」


わらわらとボールを見ながら感想を述べる。小学生の時にも見かけたことはあったが、そうなるシーンを見たことがない。一体どうやればあんなにきっちりはまるのか。


「男子ちょっとボール当てて取ってみてよー」
「よっしゃ、俺がやる!」
「寺田できんのかよ」
「任せろって!」
「寺田、はいボール」
「サンキュー!」


どうやら、ボールを当てて押し出すつもりのようだ。近衛からボールを受け取り、寺田は狙いを定める。


『当たんのかなー?』
「当たらんに1票」
「同じく」
「2人ともひど!寺田だってやる時はやるってー」
『じゃあ私は何かやらかすに1票!』
「苗字ちゃんのが酷かった...」
「濱さんはどう思うん?」
「んー。寺田だもん、当たるわけないじゃん」
「濱さんも酷いやん!」


「よーし、」

狙いを定め、ボール目掛けて投げる。
すか、と音がしそうな程、ボールは天井から程遠く円を描いた。


「はぁー!?」
「寺田おま、」
「女子かよ!」
「いやちょ、ちょっと待ってもっかい!」
「チャンスが何度もあると思うなよ!」
「寺田ださーい」
「いやさすが寺田って感じ?」
『うんうんほんと寺田って感じ!』
「うるせぇ女子共!」
「寺田が怒ったー!」


一気に寺田からかいモードに入ったクラスメイトに、顔を赤らめながら怒る寺田。恥ずかしさも入っているようだ。
一通りからかわれた後、にやにやしながら近衛がボールを手に取り、寺田に差し出すと口を開いた。



「どーすんの?」
「や、るに決まってんだろ!」


よ、寺田ー!それでこそ寺田だー!とクラスメイトがはやし立てる。
ぐ、と天井のボールを睨みつけながら、寺田は勢いよくボールを投げた。


いい感じ、とみなが思った。直線でボールへ向かっていったと思われたボールは少しずれたようだ。
ぼすん、と音がした。



「「「.....」」」
「え?」
『うそ』
「やりおった..」


はははは!と体育館に笑い声が響く。



「まじかよ寺田!」
「さっすが寺田!」
「いやもうまじ寺田としか!」
『いやーさすがすぎるわー』
「苗字ちゃんの言った通りになったね!」
『まさかだったけどね、』


わいわいと話すクラスメイトに、ぽかんと天井を見上げる寺田。


「てら、」
「まじかよぉぉおお!」
「うるさ」
「え、え、あんなんあり!?」
「しらね」
「いや、なしだろぉぉおお!?」
「しらねっつってんだろ!」
「まぁ落ち着きなさいよ寺田ぁ」
「あれが結果だって寺田ぁ」


少し労わるように上森が声をかけようとした瞬間、大きな声で叫びだした寺田。うるさいとばかりに顔をしかめる上森。そこに濱と近衛がやって来て、にやにやと寺田に声をかける。


そう、「あれ」が結果なのだ。みんながにやにやと天井を見上げる。そこには、挟まった2個のボールがあった。
寺田が勢いよく投げたボールは、天井のボールに当たらず、並ぶように天井のボールへ追加されたのだった。


|
しおりを挟む
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -